第2話:領主息子の初売りライブ(王都&日本同時接続)
「授与の儀」から三日。アスベル領の主館は、墓場のような静けさに包まれていた。
父・バルトロは執務机に突っ伏し、老執事は震える手で赤字の帳簿をめくっている。
「若旦那……ローゼス公爵家からの仕送りが止まりました。商人たちも次々に契約を白紙にしております。このままでは、冬を越すどころか、来週の食糧すら買えませぬ」
リヴィアは拳を握りしめ、唇を噛んだ。
「お父様……そこまで徹底されるなんて。レナード様、申し訳ありません。私がもっと強く……」
「いいんだ、リヴィア。公爵閣下は現実を教えてくれているだけだ。……なら、僕は僕の現実を始めよう」
レナードは、自分だけにしか見えないウィンドウを操作した。
この三日間、現代日本のリスナー向けにこっそり配信し、コツコツと「ライブ・ポイント(LP)」を貯めてきた。
【保有LP:1,500】
「父上、リヴィア。……今日から、この領地の稼ぎ方を変えます」
レナードはショップメニューから、ずっと狙っていた高額機能を解禁した。
【LPショップ:購入完了】
機能:『二世界・同時送出』
機能:『異世界・水晶ジャック』
具現化:『極上ハーブの石鹸』
「……配信開始!」
その瞬間、現代日本と異世界の王都、二つの場所でレナードの姿が浮かび上がった。
日本配信画面
コメント:待って、背景が古城から教会に変わった! 設定凝りすぎだろw
コメント:隣の銀髪騎士ちゃんマジ天使。これCG? 実写?
コメント:タイトル「異世界で石鹸売ってみる」ってシュールすぎんだろw
王都配信画面(魔力水晶)
コメント:な、なんだ!? 水晶にガキが映ってるぞ! 何の魔法だ?
コメント:あの方は……ローゼス公爵家のリヴィア様ではないか! なぜあんな所に!
コメント:アスベル領? 辺境の貧乏領地が何の用だ!
「王都の皆さん、そして……画面の向こうの皆さんも。こんにちは。アスベル領のレナードだ」
レナードの声は、物理的な距離を無視して同時に二つの世界へ響く。
「今日は皆さんに紹介したいものがある。リヴィア、お願いできるかな」
リヴィアは緊張に体を強張らせながらも、レナードがポイントで召喚した「現代技術の石鹸」を手に取った。
自由視点カメラを操作し、彼女の白磁のような肌と、きめ細かな泡を最高のアングルで捉える。
「……えっと、凄くいい香りです。……お花畑にいるみたいで」
日本配信画面
コメント:リヴィアたんの洗顔シーン助かる。スパチャ(投げ銭)投げとくわ!
コメント:泡の質感がガチすぎる。これどこのブランドだよw
コメント:【ギフト:黄金のバラ ¥5,000】を受信しました
王都配信画面(魔力水晶)
コメント:何あの泡……。我々の使う石鹸とは汚れ落ちが違いすぎる!
コメント:リヴィア様の肌が……光っている!? 欲しい、あれが欲しいわ!
コメント:どこで買えるんだ! 金なら出すぞ!
【ギフト総計:5,000ポイント獲得!】 【王都・購入希望数:100突破!】
「父上、見てください。今、王都中の人々がこの石鹸を欲しがっています」
父・バルトロは腰を抜かして床に座り込んでいた。
馬で手紙を運べば三日かかる距離。
それを、レナードは「零秒」で飛び越え、さらに現代日本の「投げ銭」を魔力に変えて、商品を具現化してみせたのだ。
だが、その熱狂を冷たく見つめる者たちがいた。
王都の魔力水晶の陰。利権を独占してきた商業ギルドの幹部たちが、顔を青ざめさせていた。
「……ありえん。これでは、我らの中間搾取が立ち行かなくなる。
あのアスベル領の小僧……消さねばならん」
レナードは、自由視点を密かに王都の路地裏へと飛ばし、その密談を冷ややかに見下ろしていた。
「……おっと、最初の『お客さん』が来たみたいだ」
レナードは不敵に笑う。
情報の速度が、世界を、そして二つの文明を繋ぎ始めた。




