第30話:国境の奔流、そして「豊かさ」のジレンマ
アスベル領の北側に位置する国境線。
そこには、数代前の王が築いた巨大な石造りの検問所がある。
普段は商人と旅人がまばらに通るだけのその場所に、今、かつてない異変が起きていた。
「レナード様、北の検問所より緊急伝令です! ――隣国カスティア帝国側から、数千規模の民衆が押し寄せています!」
報告を受けたレナードは、リヴィアと共に即座に空からの映像を「板」に映し出した。
日本配信画面(騒然とするコメント欄)
コメント:おいおい、なんだこの人数!? 難民キャンプかよ。
コメント:みんなボロボロじゃねーか。子供も多いな。
コメント:レナード、これ「琥珀干し」とか「予算公開」の噂が広まった結果か?
「……ひどい有様だ」
レナードは絶句した。画面に映るのは、痩せこけ、家財道具を背負った人々の列。
隣国の国境を治めるボナパルト伯爵は、放漫財政のツケを重税で民に押し付け、さらには「アスベル領のような不穏な思想(民主主義)に触れた者は処刑する」という恐怖政治を始めたらしい。
その結果、民衆は「死ぬなら、せめて光のある場所へ」と、命懸けで国境を越えてきたのだ。
「レナード様、どうなさいますか? 門を開ければ、我が領の食糧備蓄は数ヶ月で底を突きます。かといって、このままでは……」
リヴィアの顔も悲痛に歪んでいる。
検問所:レナードの決断
レナードは現地へ急行し、検問所のバルコニーに立った。
門の向こう側では、帝国の兵士たちが「戻れ!」と民衆を鞭で叩き、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっている。
「門を開けろ! 負傷者と子供を優先的に収容する!」
「しかし、閣下! どこの馬の骨とも知れぬ連中を入れれば、治安が……!」
騎士たちの制止を、レナードは鋭い眼光で黙らせた。
「これは『情報』の戦いだと言ったはずだ。僕たちが掲げた『光』を見て集まった人たちを見捨てれば、僕の言葉はすべて嘘になる。……足りない食料は、僕が『板』を使って日本から調達する(ギフトを募る)!」
日本配信画面(熱狂と支援の加速)
コメント:レナード、よく言った!
コメント:食料支援だろ? 任せろ! 【ギフト:高カロリー栄養ゼリー 10,000個】
コメント:【ギフト:非常用アルファ米 5,000食】
コメント:物流が間に合わん! レナード、座標を指定しろ、直接具現化させる!
空から降るように現れる、見たこともない包みの食料。
レナードはそれを即座に分配させながら、同時に「板」を通じて帝国軍の指揮官に通信を繋いだ。
「カスティア帝国の諸君。……これより先はアスベル領、および私の『配信領域』だ。我が領へ逃げ込む民への一切の暴力を禁ずる。……これ以上の暴挙を続けるなら、貴殿らの非道を世界中に、そして貴殿らの本国の皇帝にまで、このライブ映像で届けることになるが、いいのか?」
レナードの背後には、空中に浮かぶ謎の光が、帝国兵たちを「監視」している。
「見られている」という恐怖。帝国兵たちは武器を収め、じりじりと後退し始めた。
「……助かった……助かったんだ……!」
泥まみれの母親が子供を抱きしめ、アスベル領の土を踏んで泣き崩れる。
だが、レナードに安堵の表情はなかった。
数千人の移民。それは、新しい労働力であると同時に、領地の経済を破壊しかねない諸刃の剣だ。
「……みんな。ここからが本当の正念場だ。……この人たちに『施し』ではなく『仕事』を。……アスベル領を、世界最大の『情報の楽園』にするためのマンパワーに変えてみせる」
レナードの瞳には、かつてないほど大きな、そして現実的な野望が燃えていた。




