表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/56

第29話:透明な台帳、あるいは領主の「苦悩」の全貌


領主襲名から数日。レナードが執務室で行った最初の指示は、家臣たちを驚愕させた。


「領地の全予算項目を、現在進行形のまま『生中継』する……だと? レナード様、それは手の内を晒すようなものですぞ!」  


古参の文官が声を荒らげるが、レナードは静かに首を振った。


「申し訳ありません。私の執務能力の不足ゆえの対策です。

父の「高速事務」スキルなら領民の不満なしに、処理できていたかもしれません。

でも従来のやり方を俺がやっても必ず不満が出ると思うのです」


「弱さを隠せば疑念が生まれ、腐敗が始まるんです。情報の非対称性こそが、不和の元凶だ」


日本配信画面(タイトル:【異世界政治】ガチ予算編成会議。横領・中抜き、一切なしの10時間耐久)  コメント:レナード、ついに内政の核心に切り込んだな。  

コメント:予算会議を生配信とか、ホワイトすぎる領主様w  

コメント:後ろの文官たちの顔が死んでて草。


「皆さん、こんにちは。アスベル領主、レナードです。……今日はね、僕が執務室でどんな風に頭を抱えて、皆さんの税金の使い道を決めているのか、そのすべてをリアルタイムでお見せします」


 レナードが「板」を操作すると、王都や領内の魔力水晶に、複雑な**「予算配分表」**と、各項目の「現状の課題」が映し出された。


「見てください。今、僕の目の前には二つの書類があります。一つは【街道整備】。もう一つは【農業支援の拡大】。……街道を直せば物流が良くなり、干物も早く届く。でも、そうすると今年の冷害で苦しんでいる農家に回す支援金が、これだけ減ってしまう……」


 レナードは、日本から取り寄せた(ギフトされた)会計ソフト並みの分析グラフを掲示しながら、淡々と、しかし情熱を持って説明していく。


「文官たちは『魔物対策を削れ』と言います。でも、一昨日のパトロール報告では、森の奥で上位種の痕跡が見つかっている。……ここを削れば、皆さんの命が危ない。……けれど、農村の田畑を支援しなければ、将来の食料難の危険がある……」


領内・魔力水晶前(静まり返る民衆)  

領民A:「……あんなに細かい数字まで見てるのか、領主様は」  

領民B:「俺たちは『金を出せ』としか言ってなかったが、あっちを立てればこっちが立たず、なんだな……」


日本配信画面  

コメント:レナードの目がバキバキだ。これマジで徹夜で計算してるな。  

コメント:異世界の住人も、自分たちの納めた税金がどう「悩まれているか」を知るだけで意識変わるぞ。  コ

メント:軍師の俺たちがアドバイスしてやろうぜ。効率化できるとこ、あるだろ。


「日本のみんな、知恵を貸してくれ。……例えば、この【街道整備】。石畳を敷く代わりに、特定の魔力鉱石を使って『踏み固める魔法』で代用できないかな? コストカット案を募集する!」


 板の向こう側、現代の土木専門家や会計士、学生たちが、コメント欄で次々と代案を出していく。レナードはそれを精査し、その場で家臣たちに検討を命じる。


「……よし、街道は『魔法代用案』で予算を3割削る。浮いた分を【農業】と【商業】に半分ずつ振り分けよう。……皆さん、これで、今僕ができる限界の選択です。不満はあるかもしれませんが……僕は、一銭も無駄にしないと誓います」


 決定が下された瞬間、広場にいた民衆から、自然と拍手が沸き起こった。  


投票権を与えられたわけではない。だが、領主が自分たちのためにどれほど悩み、どれほど誠実に一銅貨の重さと向き合っているか。


その「過程」を共有したことで、民の中に「領主への信頼」という、どんな金銀財宝よりも強固な基盤が築かれたのだ。


 レナードは、ペンを置き、大きく背伸びをした。

「……ふぅ。これが、父上のやっていた仕事の……本当の重さなんだな」


 傍らでリヴィアが、誇らしげに、そして優しく微笑んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ