第26話:情報の誓い、新しき領主の夜明け
アスベル領の主館。そのバルコニーの前に、かつてないほどの民衆が集まっていた。
父・ローゼスの葬儀を終え、公式な喪が明けた本日。
レナード・フォン・アスベルが、正式に第17代アスベル領主として襲名する。
かつてのレナードなら、派手な魔法の光を放ち、日本の知識で得た「大衆を煽動するポピュリズムの演説」をぶちかましていただろう。
だが、今日の彼は、ただ一振りの剣――父の遺した、傷だらけの大剣――を横に置き、マイク(魔力集音器)の前に立った。
日本配信画面(待機者数:15万人突破・全画面「!」弾幕)
コメント:ついにこの時が来たか。
コメント:レナード、服が「領主の礼服」じゃなくて、お父さんのマントをリメイクしたやつだ。
コメント:静かだ。王都の時みたいなチャラい雰囲気がない。
レナードは深く息を吸い、王都、そして領内全域の魔力水晶に繋がった「板」の向こう側を見据えた。
「アスベル領の皆さん。……そして、この板を通じて僕を見ている、もう一つの世界の友人たち。……僕は今日、この地を継ぐことをここに宣言します」
ざわついていた広場が、水を打ったように静まり返った。
「かつて僕は、この板を『世界を思い通りに動かすための杖』だと思っていました。情報は力であり、知らぬ者を支配するための武器だと。……ですが、それは間違いでした。僕の慢心は、最も守るべき人を奪い、皆さんを危険に晒した」
レナードは、集まった民衆一人一人の顔を見るように視線を動かす。
そこには、干物職人のギルや、再建された裁縫店の店主、そして父と共に戦った傷だらけの騎士たちの姿があった。
「僕は、父上のような『不屈の盾』にはなれないかもしれません。ですが、皆さんが暗闇で道に迷ったとき、その先を照らす『光』になることはできます。……隠された悪事を暴き、素晴らしい技術に光を当て、誰もが真実を知る権利を持つ。そんな領地を、僕は皆さんと作りたい」
レナードは傍らの大剣を抜き、天に掲げるのではなく、地面に深く突き立てた。
「領主とは、支配する者の名ではありません。最も重い『責任』を背負う者の名です。……僕は今日、この情報の板にかけて誓います。二度と、皆さんの信頼を裏切るような嘘はつかない。この板は、僕を監視するための眼であってください」
日本配信画面(感動の嵐)
コメント:自分を「監視しろ」って言ったぞ、この領主。
コメント:民主主義の第一歩かよ……。
コメント:レナード、お前ならできる。俺らもずっと監視(視聴)しててやるからな。
コメント:【ギフト:¥1,000,000(復興支援金)】頑張れ、新領主!
一瞬の静寂の後。
地鳴りのような歓声が上がった。それは、レナードの「魔法」に酔った声ではない。
一人の人間として彼を信じようとする、血の通った民衆の叫びだった。
リヴィアが隣に並び、そっとレナードの手を握った。
「……素晴らしい宣誓でしたわ、レナード様」
「いや、まだ言葉だけだよ。……これから、父上が愛したこの場所を、世界で一番『明るい』場所に変えていくんだ」
夕日に照らされたレナードの影は、突き立てられた父の剣と重なり、長く、力強く大地に伸びていた。
この世界では王室の正式な任命がありますが、それはもう少し後の話になります




