幕間:公爵(リヴィアの父)の憂慮と、現実という名の壁
揺れる馬車の中で、ローゼス公爵は沈黙を守っていた。
先ほど、レナードに叩き落とされた手首を見る。
痛みよりも、そこにあった「奇妙な確信」が気にかかっていた。
無能と呼ばれた少年が見せた、一瞬の輝き。
「……お父様、怒っていらっしゃるの?」
向かいに座る娘・リヴィアが、不安そうに、だが強い意志を秘めた瞳で問いかけてくる。
公爵は深く溜息をつき、静かに首を振った。
「怒っているのではない。……心配なのだ、リヴィア」
公爵の声は、教会での冷徹なものとは異なり、一人の父親としての響きを帯びていた。
彼はこの世界の残酷さを知っている。
魔物が蔓延り、情報の遅れが即座に死を招くこの大陸において、領主が授かる「スキル」は、そのまま領民の生命線だ。
「【配信】……今の光景をどこかに映すだけの力だと彼は言った。だが、それで腹を空かせた民を救えるのか? 押し寄せる魔物を斬れるのか? 私はお前を、明日をも知れぬ困窮した領地で、苦労させたくはないのだよ」
公爵は窓の外の荒れたアスベル領を眺める。
仕送りを止め、婚約破棄を突きつけたのは、レナードを憎んでいるからではない。
レナードが「無能」であるならば、リヴィアを早々に引き剥がし、公爵家の庇護下に連れ戻すことこそが、娘の人生を守る最善の策だと信じているからだ。
(……だが、あの少年の目は死んでいなかった)
公爵は思い出す。
レナードが何もない空間を指差し、「すべてが見えている」と言い放った時の熱量を。
「……よかろう。半年だ。半年だけ、お前の好きにするがいい」
「本当ですか、お父様!」
「ただし、現実というものは残酷だぞ、リヴィア。もし半年経って、あの少年の力が何の結果も出せていなければ、その時は大人しく家へ戻りなさい。それが、お前を愛する私との約束だ」
公爵はあえて娘から視線を逸らした。
一度、現実の厳しさに直面すれば、リヴィアも夢から覚めるだろう。
そして、安全な家で、平穏な幸せを掴んでほしい。
それが、不器用な父が選んだ「最後のチャンス」だった。
(……もし、私の見立てを裏切ってみせるというのなら。レナード・フォン・アスベル。お前のその『板』とやらで、この厳しい世界の摂理を変えてみせろ)
公爵は目を閉じ、心の中で願った。
自分が「間違っている」ことを証明してくれる奇跡を、ほんの僅かだけ、期待しながら。
第2話:領主の初売りライブ(投げ銭はお控えください)
公爵家からの援助が止まり、さっそく窮地に立たされる領地。
レナードは「稼ぐこと」に特化するため、リヴィアに協力を仰ぎます。
「リヴィア、君のその美しさは、どんな魔法よりも価値があるんだ」
初の異世界ライブコマース、いよいよ始動です。




