第18話:沈黙する板、届かぬ声
「おしゃれ革命」の余韻に浸る間もなかった。
裁縫店の外から、重々しい金属音と規則正しい足音が路地裏に響き渡る。
「教会の名において、異端の疑いがあるレナード・フォン・アスベル、および店主を拘束する! 抵抗は許さぬ!」
白銀の甲冑を纏った「聖騎士団」が、狭い店内に雪崩れ込んできた。
その中央には、冷徹な瞳をした異端審問官イグナシオが立っている。
都合悪くリヴィアは実家に帰り不在のタイミングだ。
「大丈夫だ。……いい機会だ。教会の横暴がいかに時代遅れか、王国中に生中継してやる」
レナードは不敵に笑い、懐の「板」を掲げた。
「さあ、皆さん! 見てください。これが民の声を聞こうともしない、教会の正体です……!」
だが、異変はすぐに起きた。
いつもなら即座に繋がるはずの配信画面が、ノイズで激しく乱れている。
「な……なんだ? 接続が不安定……?」
「無駄だ。ここは既に、神聖なる『沈黙の結界』の内側にある」
イグナシオが手に持ったロザリオを掲げる。
そこから放たれる清冽な魔力が、レナードの持つ「板」の通信を物理的に遮断していた。
日本配信画面(急激な暗転)
コメント:え、画面が止まった?
コメント:ノイズやばい。おい、何が起きてるんだレナード!
コメント:まさか……妨害電波(魔力)か!?
初めての事態だった。 ど
んな窮地も「情報の力」で切り抜けてきたレナードにとって、この『真っ黒な画面』は、世界から切り離されたような、底知れぬ恐怖を意味した。
「待て、話を聞け! 僕は、ただ職人を助けただけで……」
「黙れ。不謹慎な装束で民を惑わした罪、聖都にてその身に刻んでやる」
聖騎士たちの手枷がレナードの細い手首を締め上げる。
店主は引きずり出され、リヴィアも複数の騎士に囲まれ身動きが取れない。
「(嘘だ……僕の『魔法の話術』が効かない? 視聴者のみんな……助けてくれ……誰か……!)」
心の叫びは、虚しく静寂に吸い込まれていく。
かつて「情報の力でねじ伏せる」と豪語した少年の姿はそこになく、ただの無力な子供が地面に膝をついていた。
その時。 教会の包囲網を、一騎の馬が猛然と突破してきた。
「――そこまでだ。教会の猟犬ども」
白煙の中から現れたのは、フルプレートの鎧に身を包み、大剣を抜き放った父・ローゼス公爵だった。
隣には衛兵長のミゲルも連れている。
「父上……!? なぜ……」
「レナード、言ったはずだ。お前の武器は『劇薬』だと」
ローゼスは息子を振り返ることなく、その広い背中で聖騎士たちの殺気を遮った。
「公爵、これは教会の正当な権利行使です。道を空けられよ。さもなくば、貴殿も異端の加担者と見なす」
イグナシオの威圧を、ローゼスは鼻で笑った。
「異端だろうが神罰だろうが知ったことか。……私はただ、愚かな息子の不始末を、親として片付けに来ただけだ」
ローゼスが剣を構え直す。
それは、「配信」という光に守られていたレナードが、一度も見ようとしなかった「泥臭く、命懸けの武」の輝きだった。




