第16話:市場調査と、路地裏の「美」
父との衝突から数日。
レナードの心には、苛立ちと「もっと成果を出して見せつける」という功名心が渦巻いていた。
「父上は、僕がこの板一本で世界を塗り替えるのが怖いだけなんだ。……リヴィア、今日は気分転換も兼ねて、王都の流行を調査しに行こう」
レナードはリヴィアを連れ、王都のメインストリートへと繰り出した。
今日は日本限定での配信だ。
日本配信画面(王都デート・実況中)
コメント:お、今日はリヴィアちゃんとデート回か?
コメント:レナード、親父さんと喧嘩したあとだからって、張り切りすぎw
コメント:なんか、最近のレナードは「勝つこと」に執着してる感じがして心配だわ。
「王都の服は豪華だけど、どれも似たり寄ったりだね。貴族の権威を示すためだけの、重苦しいドレスばかりだ」
レナードは冷静に分析する。
現代日本の洗練されたファッションを知る彼からすれば、異世界の服装はまだ開拓の余地がある巨大な市場に見えていた。
ふと、路地裏の隅に、看板が傾きかけた小さなしつらえ店(裁縫店)が目に留まる。
「……リヴィア、あそこに入ってみよう」
店内は埃っぽく、客の姿はない。しかし、棚の片隅に置かれた一着のブラウスに、レナードの目が釘付けになった。
それは、既存の豪華絢爛な刺繍とは違う、布の裁断だけで女性のシルエットを美しく、かつ動きやすく見せる、驚くほどモダンなデザインだった。
「……いらっしゃい。冷やかしなら、他所へ行ってくれ」
奥から出てきたのは、目の下に隈を作ったやつれた店主だった。
「この服、あなたが作ったんですか? 素晴らしいセンスだ」
「……センスなんて、腹の足しにもならんよ。今は教会の力が強まって、『慎ましさ』だの『伝統』だのうるさくてね。こんな体の線を強調するような服は『不謹慎』だと叩かれ、注文はすべてキャンセルさ。店も、今月で畳むつもりだ」
店主は自嘲気味に笑った。
日本配信画面
コメント:うわ、ここにも教会の圧力が……。
コメント:でもこの服、普通に可愛くない? 現代でも通用しそう。
コメント:レナード、これ「バズる」予感しかしないぞ。
レナードの脳内で、急速に「勝利のロジック」が組み上がっていく。
教会の古い価値観を、新しい「美のトレンド」で上書きする。それが成功すれば、また一つ、自分の正しさを父に証明できる。
「店主さん。……もし、この服を王都中の女の子たちが『着たい』と切望するような魔法を、僕がかけたらどうします?」
「魔法……? 坊主、何を言ってる」
「リヴィア、その服を試着してみて。……みんな、見ててくれ。これから、王都のファッション界をデバッグする」
レナードの瞳には、成功への確信と、父への反抗心が混じった、危うい光が宿っていた。




