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第9話:頑固親父と看板娘と、1万人の「いいね」

王都の華やかな目抜き通りから外れ、迷路のような路地を抜けた先に、その工房はあった。  


看板は剥げ落ち、鉄を叩く重い音だけが周囲に響いている。


「帰れと言ったはずだ! 貴族の坊主に売るなまくらなど、この工房には一振りもねえ!」


 中から飛んできたのは、罵声と錆びた鉄屑だった。  


ドワーフのバラム。王都の大臣たちが「偏屈の極み」と評した通りの男だ。


「……すみません、父が。いつもこうなんです」


 申し訳なさそうに顔を出したのは、バラムの娘・カレンだった。


彼女はドワーフの血を引きつつも小柄で、父の頑固さに振り回されながら工房を切り盛りしている。


「レナード様、ですよね? 石鹸の配信、見ていました。……でも、父は『見せ物』が大嫌いなんです。職人は腕だけで語るべきだ、って」


「いいえ、カレンさん。僕はバラムさんの腕を笑いものにするつもりはありません。……ただ、この『価値』を正当に知ってほしいだけなんです」


レナードは、日本限定の配信ウィンドウを静かに立ち上げた。


日本配信画面(隠し撮り実況中)  

コメント:お、ここが例のドワーフ工房か。  

コメント:じいさん、ガチでキレてるじゃんw  

コメント:カレンちゃん可愛い。この子が看板娘か。


「バラムさん、一つだけ賭けをしませんか」  

レナードは、工房の奥で黙々と炉を煽るバラムの背中に向けて言った。


「あなたが今打っているその剣。……もし僕の『板』を通じて、あなたの納得するような人間たちがその腕を認めたなら、僕の話を聞いてくれませんか?」


「……フン、納得だと? 流行り物好きの貴族どもに、俺の火色のこだわりが分かってたまるか!」


「貴族じゃありません。僕が呼ぶのは、世界中の『目利き』たちです」


 レナードはカメラを操作し、バラムが鋼を叩く手元に限界までズームした。  

LPライブポイントを消費し、火花の温度や鋼の密度を可視化する「解析レイヤー」を重ねる。


日本配信画面  

コメント:待て……このじいさん、叩くリズムが一定すぎる。メトロノームかよ。  

コメント:あ、今、鋼の色の変化を見逃さなかった。コンマ数秒の判断だぞこれ。  

コメント:【ギフト:¥10,000】これ、国宝級の技術だろ。もっと近くで見せてくれ。  

コメント:職人歴30年の俺から見ても、この火の通し方は芸術。妥協が一切ない。


コメント欄には、日本の「職人」や「技術オタク」たちが続々と集まってきた。


彼らはバラムの腕を、ただの「魔法の剣作り」としてではなく、極限まで突き詰められた「仕事」として絶賛し始めた。


「見てください、バラムさん。ここにあるのは賞賛の言葉だけじゃない。あなたの技術に対する『敬意』です」


 レナードは、日本語をこの世界の言語に翻訳して読み上げた。

「『この鋼の鍛え方は、魂を削らなければ不可能だ』……だそうです」


「……!」  バラムの手が、初めて止まった。  


彼はレナードの持つ「板」に映る、自分の無骨な手元と、そこに並ぶ無数の熱い言葉を見つめた。


「……魂を、削る、だと?」


「そうです。あなたの孤独な作業を、何万もの人が固唾を呑んで見守っています」


 カレンが父の手をそっと握った。


「お父ちゃん……もういいじゃない。お父ちゃんのわがままのせいで、こんなに凄い剣が誰の手にも届かないなんて、私は嫌だよ」


 沈黙が工房を支配する。  


やがて、バラムは大きく溜息をつき、金槌を置いた。


「……ったく、気味の悪い板だ。だが、俺の火加減をピタリと言い当てる奴がいるとはな」


 バラムはレナードを睨みつけたが、その瞳からは鋭い棘が消えていた。


「……いいだろう。その『配信』とかいうので、俺の剣をどう料理するつもりだ?」


「ありがとうございます。……次は、王都中を驚かせる『通販番組』にしましょう。カレンさん、手伝ってくれますか?」


「はい! もちろんです!」


 レナードは不敵に微笑んだ。  


偏屈な職人と、献身的な娘。そして現代日本の10万人のファン。  


最強の「ブランド」を売り出す準備は、整った。

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