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第10話:名工の魂、真心のライブショッピング

アスベル領の主館。かつては閑古鳥が鳴いていた事務室で、カレンは山のような帳簿を前に、慣れない手つきでペンを動かしていた。


「カレンさん、ちょっといいかな?」


 レナードが声をかけると、彼女は驚いたように顔を上げた。


「あ、レナード様……すみません、父の工房の納品管理が追いつかなくて。あの、また何かお役に立てることがありますか?」


「ああ。バラムさんの『魂』を、一番いい形で皆に届けたいんだ。カレンさん、君にしかできないことがある」


 レナードは、日本限定の配信ウィンドウを立ち上げた。


今日は「王都」と「日本」の二元中継。だが、口調は昨日までとは一変していた。


日本配信画面  

コメント:お、今日はなんだか落ち着いた雰囲気?  

コメント:カレンちゃん、事務服も似合うな。


 レナードは、日本で長く愛された「あの名物社長」のような、独特の節回しと温かみのあるトーンで語り始めた。


「さあ、王都の皆様。そして画面の向こうの皆様。今日も良い一日をお過ごしでしょうか。……今日ご紹介するのはね、本当に、本当にお待たせいたしました。我がアスベル領が誇る名工、バラムさんが心血を注いだ『一振りの奇跡』なんです」


 レナードの声は大きくはない。

だが、一文字一文字が心に染み入るような、不思議なリズムを持っていた。


「リヴィアさん、ちょっと見せていただけますか?……はい、見てください。この刃紋の美しさ。これね、単なる飾りじゃないんです。バラムさんが、カレンさんの未来を想って、一打ち、一打ち、不純物を抜き去った結晶なんですよ」


王都・領内配信画面(魔力水晶)  

コメント:……なんだろう、この声。すごく耳に残る。  

コメント:ただの武器の紹介なのに、涙が出そうになるのはなぜだ。


日本配信画面(裏側実況中)  

コメント:まさかの「長崎スタイル」きたあああw  

コメント:声が優しすぎる。でも、めちゃくちゃ説得力あるぞ。  

コメント:この独特のリズム、ジャパ〇ットだなw


「カレンさん、この剣の重さはどうですか?」  


レナードが優しく振ると、カレンははにかみながら答えた。


「はい。……重いんですけど、手に吸い付くみたいに軽いんです。父が、使う人の疲れを一番に考えて削ったから」


「そう、そこなんです! 使う人を想う心。それがこの剣の真価なんです!」  


レナードは、リヴィアをダンジョンの岩場へ促した。


「リヴィアさん、お願いします。……はい、見てください! 力を込める必要はありません。剣が自ら道を切り拓くように……ズバァァン! ほら、ゴーレムが真っ二つです。凄いでしょ?」


日本配信画面  

コメント:商品への熱意がガチすぎて、こっちまで欲しくなるw  

コメント:説明が分かりやすい。「剣が道を切り拓く」って表現最高。


「そして、ここからが大切なお話です。……この業物、本来なら金貨50枚は下りません。


でもね、バラムさんは言いました。『俺の腕を認めてくれた人たちに、最高の状態で使ってほしい』と。


……ですから今回は、なんと金貨20枚!


さらに! 30分以内にお申し込みの方には、

カレンさんが丹精込めて調合した『秘伝のメンテナンスオイル』を……これもセットでお付けしちゃいます!」


「レナード様……。あの、なぜそんなに独特な節回しで、楽しそうにお話しされるのですか?」  


配信の合間、リヴィアが不思議そうに小声で尋ねた。


「これかい? ……視聴者の皆さんからね、『成果を上げるための魔法の話術』だと聞いたんだ。誠意を持って、リズムに乗せて伝える。そうすれば、想いは必ず届くんだよってね」


レナードがカメラの向こうの「軍師」たちに目配せをすると、コメント欄は温かい賞賛で埋め尽くされた。


【完売御礼:30振り即時終了!】 【追加注文:キャンセル待ち100件!】


「お父ちゃん……売れたよ。お父ちゃんの剣が、あんなに喜ばれてる!」  


水晶越しに人々の熱狂を見たカレンの目に、涙が浮かぶ。


 効率や利益だけではない。レナードの「魔法の話術」は、職人の誇りをも救い上げたのだ。

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