第8話:社交界の大人たちと、名もなき名工の噂
王宮の夜会。シャンデリアが輝き、高価な酒と香水の匂いが立ち込める中、レナードとリヴィアは注目の的となっていた。
特に、ドレス姿のリヴィアの美しさは、日本と王都、両方の視線を釘付けにしている。
「レナード様……あまり見つめられると、落ち着きませんわ」
「ごめん、リヴィア。でも、今日の君は本当に綺麗だ」
レナードはそう答えつつ、視界の端で日本限定の配信ウィンドウをチェックしていた。
日本配信画面(隠し撮り実況中)
コメント:リヴィアたんのドレス姿、破壊力カンストしてるわ。
コメント:背景の貴族たちの服、全部手縫いか? 刺繍の細かさが狂ってる。
コメント:お、なんか偉そうなおっさんたちが近づいてきたぞ。
「お初にお目にかかる、レナード殿。私は通商大臣のザッカーだ」
「私は魔導具振興会のハミルトン。……いや、君の『スキル』には驚かされたよ」
柔和な笑みを浮かべた大人たちが、次々とレナードを囲む。
だが、自由視点で彼らを観察しているレナードには、その笑顔の裏側が見えていた。
大臣の手は落ち着きなく動き、振興会の男の目は、レナードの視界にある「見えない画面」をどうにかして奪えないかと値踏みしている。
「レナード殿。君のその『板』の技術を、ぜひ我々のギルドで独占契約させてもらえないか? 王国全土に広めるための『権利』を、金貨一万枚で買い取ろう」
「いやいや、私の会が管理する方が安全だ。君のような若者には荷が重いだろう?」
彼らは、レナードを「運良く珍しい魔導具を拾った子供」と見なし、安値で買い叩こうと牙を剥いているのだ。
日本配信画面
コメント:出た、搾取しようとする大人たちw
コメント:一万枚って安すぎだろ。この配信の価値わかってねえな。
コメント:【ギフト:¥3,000】お兄さん、こいつらまとめて論破しちゃえ。
「お誘いは光栄ですが、この力は『契約』で縛れるようなものではないんです。……あ、それより大臣」
レナードは、日本側のリスナーたちが雑談していた「ある噂」を思い出し、話を逸らした。
「この王都の片隅に、偏屈すぎて誰にも相手にされていない、ドワーフの武器職人がいると聞いたのですが」
大臣たちが露骨に顔をしかめた。
「ああ……あのがらくた屋のバラムか? 腕は確かかもしれんが、性格が破綻している。貴族の注文は断るわ、客を追い返すわで、今や知名度も皆無。あんな男に構うのは時間の無駄だよ」
「……がらくた屋、ですか」
レナードは密かにカメラを王都の路地裏へと飛ばした。
華やかな夜会から遠く離れた、埃っぽい工房。
そこには、一人で黙々と鉄を打つ、古びたドワーフの姿があった。
その打たれた刃が放つ輝きは、公爵家が持つどんな名剣よりも鋭く、そして「情報」を宿しやすそうな純度を持っていた。
日本配信画面
コメント:お、ドワーフの工房映った!
コメント:うわ……あの火花の散り方、ガチの職人だ。
コメント:レナード、あのじいさんを「プロデュース」する気か?
「大臣、お気遣いありがとうございます。ですが、僕は『有名なもの』よりも『本物』に興味があるんです」
レナードはワイングラスを置き、リヴィアを連れて夜会の中心から静かに離れた。
背後で大臣たちが「生意気な小僧が」と毒づく声が、カメラを通じて筒抜けになっている。
「リヴィア、明日その工房へ行ってみよう。……君の剣を、次のステージへ連れて行くためにね」
権力者たちに利用されるのではなく、埋もれた才能を掘り起こし、自分の「コンテンツ」にする。
レナードの新しい戦略が、夜の帳の中で静かに動き出した。




