がんばれベータ君
「どうしたんだ?頭を押さえたりして」
「叩きつけられて痛かったのですよ!」
「おバカにはとーぜんのむくいです」
「だ、だからこうして謝っているじゃないですか。なにも障壁が割れるまで乱暴することはないでしょう……」
「あんたのせいで右手を失った俺の気持ちがわかるか?」
「もう生えてるじゃないですか!私の封印まで無効化して、どんな化け物ですかあなたは……」
謝りながら誹謗中傷とかレベル高いな。
王様が帰してくれなかったので、寝ようと思ったらアサガオちゃんに叩き起こされた。
とにかく廊下に出ろと言われ、そこで見つけたのがベータ君の影。なんとなく強引に入ってみたらトーマ君がいじめられているではないか。そんな現場見たら誰だって抹殺するだろ。紛らわしい野郎め。
「それで、どうしたんだ。今日もネチネチと嫌味を言いにきたのか?」
「変な捏造はやめてください。本当は和解のために封印を解きにきたんですがね……もう解かれていたのですよ……」
「おかげで三日は動かなかったぞ。謝れ」
「三日……たったの三日で腕が生えたのですか!?」
「三日も、だ。禁酒までさせられたんだぞ?わかってんのかおい」
「無茶苦茶にもほどがありますよ……力を失ってこれなら、失う前はどうなっていたんですか……」
ぶつくさと文句ばかり言ってきて腹立つな。とりあえず話だけは聞いてやるが。
「それで?わざわざ帝国ペンギンがなんの用だ」
「新種扱いはやめてください……。この前、あなたが反体制派の襲撃から陛下をお守りくださったと聞きました。城の中まで攻められて本当に危ない所だったと」
「あぁそれか。たまたま知り合いがいたんでな」
「事情を聞いてみたらそれはもう耳を疑いました。みんなが口を揃えてこう言うのです、女の子が突然現れて、反体制派を蹴散らして消えた」
言うほど蹴散らしてもいないが。
「詳しくアーク殿下にお聞きすれば、救ってくれたのは女の子になったクロード・シルバーだと言うではありませんか。それも命を救われたのは二度目だとも……わけがわかりませんでした」
「女体化ではないんだが……まぁ、そうだろうな」
「あの日、どうやってサンブルグから移動したのですか?私よりも早いのは絶対におかしい」
「アサガオちゃん、先生を頼む」
「あい」
我らが戦犯、叡智先生をベータ君に手渡してやった。バチクソに困惑していた。
「……あの、これはなんでしょうか?」
「ほら先生。息子さんが会いにきたぞ。事情を説明してやってくれ」
「まさか、本当に……マザーなのですか!?」
説明は先生に投げた。めんどい。
マザコンの咆哮に耳を塞ぎつつ、トーマ君のケガを確認してみたが問題はなさそうだった。なぜか悟りを開いた修道者のような雰囲気を醸し出している。
大丈夫かと聞けばもちろんですと答えた。本当か?
「トーマはこのペンギンと知り合いだったのか」
「ペン……はい、ヴィンスの邸で何度か。我々はファーレン卿とお呼びしていました」
「ファーレン?」
へぇ。どっかで聞いた気もするな。とりあえず先生の説明が終わるまで待つしかないな。
ついでに、ベータ君の障壁を破れなかったトーマ君のために身体強化の術式を教えてみるか。さすがに一朝一夕では無理だが、練習次第でどうにかなるはずだ。
その陰でアサガオちゃんが種をトーマ君にぶち込んでいた。またこの子は許可もなく勝手に……まぁいいか。
「――そうだ。円を描くのは難しいが多少は崩れても構わない。この術式を丸暗記すれば四割の身体強化をいつでも使えるようになる。まずはその世界を知れトーマ、筋肉こそ正義だ」
「はい!筋肉を信じます」
「…………バーランドさん。やっぱり、仕える相手を間違えていませんか?脳筋思考に染まるのは危険だと思うのですがね」
「ベータ。それよりもごしゅにあやまるです」
「……あまり認めたくないですが、私が間違っていた、ようです」
「ほら見ろ。俺はあのとき話を聞けと言ったよな?何度も何度も言ったよな?だがあんたは俺の右手を奪った。うぅ、後遺症で……痛いよぉ!」
「は、生えてきたのですから許してくださいよ……」
「だったら誠意を見せるのが筋だろうが。とりあえずジャンプしてみろよ」
さっきからローブの中でチャラチャラさせていたからな。案の定、ポケットを漁ったら帝国銅貨をゲットできた。昼飯のお釣りだったらしい。
現状を理解したらしいベータ君はしおらしく本気で謝ってきた。仕方がないので許してやるが、つくづく俺は優しくて寛大で素晴らしい人格者だなぁと思いました。まる。
なので、さっさとアルファと仲直りして戻ってもらいなさいと上から目線で言ってやった。が、それは難しいという。
「そんなに大喧嘩したのか」
「……いえ、その。大喧嘩と言いますか……色々とありまして」
「歯切れが悪いな。真面目に言っておくが、あんたらが真剣に動かないと大陸は滅びるぞ?」
「えぇ。それは、よくわかっております」
「仲違いの原因はなんだ?先生なら仲裁できそうだが」
「…………私とガンマは殺されると思うんですよねぇ」
どんだけだよ。本当になにがあったんだ……。
「ナンバーズは定期的に会合を開いていました。イプシロンは呼んでもきませんがね。具体的には一年前の会合、そこで意見が別れたのです」
「ふむ」
「私とアルファは帝国。ガンマは北を。デルタはアグネアと獣人国を担当。イプシロンは、言うまでもありませんね」
「ボクはしめーがあたです」
「……確かに今ならそれもわかりますがね。デルタの件はご存じと聞きましたので省略しましょう。知りたいのはアルファとのことでしょうから」
「そうだな、蜂の巣に突撃した勇者と聞いている。続けてくれ」
「私とガンマは、あえてこちらから扉を開くべきだと提案しました。それにアルファが反発して意見が別れたのです」
「……へ?」
こっちから開く?なぜそんなことを……?
無意味にそんな結論を出すはずはないが、とにかく最後まで話を聞いてみようか。
「自殺行為としか思えないが、まずは理由を聞こうか」
「えぇ。もちろん説明しますよ」
あちらの扉は常に開放しているのだから、こちらが開けばいつでも繋げることができる。ベータ君からそう聞かされた。
解放すべきと考えた理由……それは、数か所ある扉をこちらから段階的に開放して怪物を消滅させようとしたんだ。確かに汚染環境でしか生きられないのだから、それを利用すればいいと考えるのもよくわかる。
犠牲は覚悟しなきゃならんがな。
だがそれはもう破綻しているんだ。
先生いわく、前回の開放で扉は限界を迎えている。次に一か所でも扉が開けば、指定された座標に関係なく全ての扉が開いてしまう。座標を失った扉は収束し、一か所に集中する可能性が最も高いという。当然ながら純エーテルの大量流入は避けられず、除去が間に合わなくなる。
「アルファが否定した理由もわかります。避難所を作っても無意味なのですから」
「それは説明する前にエネルギー切れを起こした先生も悪い。今なら和解できるだろう」
「…………」
「どうして目を逸らす。こっちを見ろペンギン」
「う……じ、じつはですね。ガンマと協力してアルファを東の施設に封印してしまいまして……」
封印?確か、最東端には中継施設があって、有毒ガスがどうたらで入れないんだったか。封印がどういうものかは知らないが、どうせ自力での解除はできないパターンだろ?こいつら先生も含めて戦犯しかいねぇな……。
まぁやってしまったものはしょうがない。先生でもなんでも使って謝り倒してこいと言ったんだが、ベータ君の煮え切らない態度は変わらなかった。
「その様子だと問題があるようだな。この際だ、ここで全部吐いてしまえ」
「…………その封印というのがですね。ナンバーズ用の修復装置を利用しておりまして、再起動には担当者のエーテルパターンによる照合が必要なのです」
あ、嫌な予感がしてきた……。
「その担当者は?」
「私とガンマです」
「驚かせるなよ……担当者が死んだのかと思ったじゃないか。それならガンマと二人で行けばいいだろう」
「ガンマに拒否されました」
「……」
「ガンマとケンカしたです?」
「いえ、そういうわけではありません。アルファは扉の開放を邪魔するからダメだと言われまして……」
「おまえたちはウンコです。つぎかいほーしたらおわるかもしれないです!」
「そ、それはもちろんわかっておりますが、ガンマはこの事実を知らないのですよ!」
おい、どうした戦犯。随分と静かだな。お宅のお子さんたちが困っていますよ?っと。
“……ピピ、ガガッ……最適化中です。操作はお控えください。”
この野郎……まずはその腐った人格をデフラグしろッ。お前の本体を見つけたら冷却ファンに陰毛を詰めてやるからな。
「落ち着いてくれアサガオちゃん。そうだな……先生を持っていって説明させればいいんじゃないか?」
「でも、このたんまつはごしゅがいないときのーしないです」
「そうか……こっちもディーネから離れるわけにはいかんしな。少なくとも、この国の問題を片付けるまでは」
「……どうしましょうか」
どうしましょうじゃねぇのよ……次から次へと面倒なことばかり……。
俺は動けないし、ベータ君は頼りにならないし、先生は最適化してるしッ。もうマヂ無理。ログアウトしよ……。
「どうするもなにも、ガンマに状況を理解してもらうしかない。それはあんたが責任持ってやってくれ」
「そうですね。マザーの御意思を伝えなければなりません」
「俺もできる限りの協力はすると約束しよう。だから頑張れ」
「……クロさんがここまで理知的な方とは思いませんでした。イプシロンの言葉に耳を傾けるべきでしたねぇ」
「くたばれです」
「……」
アサガオちゃんの心無い言葉に半べそで帰っていったベータ君。その背中は週末のサラリーマンによく似ていた。
負けるなベータ君。月曜日が待ってるぞ。




