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偽りの家族



 カサンドラはマリーネたちと準備をするため孤児院に泊まると言っていた。

 そんな彼女らに別れを告げ、今はブルーに御者をしてもらいながらシルバー家へと向かっている。


 あれから彼女たちの話を聞いてわかったのだが、サウスポイントは思った以上にクロード君の影響が大きかった。帝国の工作員(笑)であっても自由には動けないらしい。特にシルバー家の管轄である孤児院は、教団の影響もあって安全地帯と言っていいほど平和なんだとか。


 俺としては非常に複雑な気持ちだ。だって裏庭でおクスリの材料作ってんだもん。



「若。本当によろしかったのですか?」



 なんかブルーが小窓から聞いてくるけど、なにが?



「彼女らに協力することが不満か?」

「い、いえ不満とかではなく、若があの者らに力を貸すとは思っていなかったものですから……」

「理由ならわかるだろ」

「それはもちろん理解しております。まさか帝国に目を付けられるとは予想すらしておりませんでした」

「身から出たサビだよ。全ては因果応報、好き勝手やってきた報いだろう」

「…………若。あなたは本当に、若なのですか?」

「なんだ突然。哲学には興味がないんだ。議論ならその辺のカブトムシとやってくれ」

「今の若は別人のようです」

「本当に別人だとしたら、お前はどうする?」

「…………」



 クロード君がどうなろうと俺には関係ない。でも、どんな理由があろうと裏切り者はクズだ。お前はどうなんだろうな?ブルー・タース。


 先生に書かれていた内容が事実だとすれば、クロード君に味方はいなかった。それこそブルーには妄信するレベルで信頼を置いていたと考えても不思議じゃない。


 物語の都合上、裏切りを最高の見せ場とするなら、それはクロード君が死ぬときだ。悪人が仲間に見放され、ズタボロで死んでいく姿はカタルシスを生むからな。それを否定するつもりはない。だが――



「今日限りで俺の担当から外れろ」

「は?な、なぜですか!?」

「俺はなブルー。裏切り者が大嫌いなんだ」

「そん……ま、待ってください!私が若を裏切るなどありえません!」

「俺の本性は変わってない。体裁を取り繕うことを覚えただけでな。お前が俺に不満を持っていることに気づかないとでも?随分とコケにしてくれるじゃないか」

「お、お待ちください。私は本当に、若に忠誠を誓っております!」

「無理をするな。家に着いたら義弟の補佐になれるように親父に頼んでやる」

「な……ぜ、ですか?いったいなぜ!?」

「死んだお袋に殉ずるのは終わりにしろ。お前は十分過ぎるほど頑張ったよ。これからは自分のために生きるんだな」

「わ、か……」



 ブルーの初恋はクロード君の母親だったそうだ。だからその息子が道を外れても限界まで付き従ったんだろう。


 かなりショックを与えてしまったが、これでブルーもクロード君から離れて安全に過ごせる。ついでに仲が悪いらしい義弟の補佐でもしてれば給料もいいはずだ。まぁこれからも頑張れよ。


 シルバー家へと到着したのはいいが、泣きながら歩いていくブルーの姿を見ると胸が痛い。どうか許してくれ……こうしてクロード君の手足をもいでおけば、チュートリアルが終わった後の未来が変わるかもしれない。権力と協力者を失って悪事もできなくなって、少しでも犠牲者が減ってくれるのが理想かなぁ。


 たとえ架空の世界だとしても、悲しいより楽しい物語のほうが好きだよ俺は。


 無駄にでかくて広い邸の中はどんよりしていた。アサガオちゃんの案内で自室へと入り、ようやく全裸マンから紳士マンへとビルドアップできた。うれしい。



「アサガオちゃん。この部屋にあるもの全部インベントリに入る?」

「あい」



 ベッドやクローゼットが一瞬で消えていく。いや~本当に便利だなこの妖精。これらの家具ってキャラメイク後も使え……るわけがないわな。でも念のため持っていこう。



「パーフェクトだアサの字」

「がんばったです」

「後でたらふく岩塩ステーキを焼いてあげよう。次は親父のところに案内してくれ」

「ケンカするです?」

「いいや、縁を切る」



 クロード君の手足をもごう作戦その二、家族と権力を捨てよう。これはどちらかと言えばクロード君のためだったりする。


 シルバー家の家族構成は、父親の伯爵。後妻で義母の婦人。そして四歳年下の義弟。父親と義母は、死んだ正妻の子であるクロード君を憎み、死を望むことも厭わないとまで書いてあった。だがクロード君は未だに親の愛情を求めており、それを得られない現実が彼の精神をひどく歪めてしまったんだ。もちろん可愛がられている義弟とは折り合いがつかず、一人孤立している。


 こんな家族もどきは必要ない。善は急げだ。さぁ親父の執務室へ突撃ぃ。



「おいーっす。元気かクソ親父」

「なっ、ク、クロード!?」

「よう、久しぶりだな」

「…………やっと帰ってきたと思えば、その口の利き方はなんだ?今までどこで遊んでいたのだ!」

「俺を除籍しろ」

「は?」

「除籍しろ。絶縁だ」

「な……な、にを……」

「わ、わわ若様、どうか落ち着いてくだされ!お、おい誰か、奥様をお呼びするんだ!」



 うるさい連中だ。今までクロード君をゴミみたいに扱ってきたクセに慌ててんじゃねぇよ。しかし、父親は悪人面のチョビ髭か。



「ちゃんと伝えたんだから籍は抜いておけ。じゃあなクソ親父」

「ま、待てバカ者!自分がなにを言っているのかわかっているのか?お前が一人で生きていけるわけないだろう!」

「問題ない。金もあるから迷惑はかけん。あぁそうだ、苦労させたブルーには別途で報酬をやってくれ。あいつは優秀だから上手に使うといい」

「待て……待てと言っているのだ!」

「なんだ?」

「なんだではない……はぁ、除籍しろだと?お前は何様のつもりだ。あれほど自分がシルバー家を継ぐと騒いでいただろう!」

「元から継がせる気はなかっただろ」

「…………そんなことは言っていない」

「義弟がいる。ほれ、解決だ。もういいな?」

「待て、まだ終わっていない」

「ちょっとあなた、クロードが帰ってきたって本当なの?」



 今度は銀座にいそうなママが出てきた。こいつにはマジで用が無い。あ、こらアサガオちゃん。ばっちいからチョビ髭を突いちゃいけません。



「わたくしたちにどれだけ心配かければ気が済むの?心配で心配で食事も喉を通らなかったんだから!」

「ほう?ならそこにいる侍女の骨でもへし折りながら尋問するか。食糧庫の在庫と帳簿を照らし合わせて確認もしよう。もしも嘘だったらこの場で首を落としてやる。なぁ、本当に心配だったのか?」

「……ぁ……ぁ……」



 全力の威圧。金色ドラゴンと比べれば足元にも及ばないが、バッファローの群れが逃げ出すくらいのプレッシャーはある。案の定、銀座ママは気を失って倒れてしまった。貧弱貧弱ぅ。



「とにかく除籍の件は頼んだぞ。じゃあブルーをよろしく」

「……私たちを見捨てるのか?」

「そんな発想が生まれちゃうおめでたい頭脳が羨ましい。せいぜいお前らが苦しんで死ぬことを祈っておこう」



 邸を背にスッキリとした気分で歩いていく。

 あいつらを前にしたとき、腹から怒りがあふれてくる感覚があった。あれはきっとクロード君の憎しみだったのだろう。なんていうか、意志が共鳴したような感じだった。さすがに直接手を出すことはできなかったけど……。


 ここまで勢いに任せて無茶苦茶なことをしているのは自覚している。でも大丈夫、だって所詮はゲームだもの。そりゃ現実だったら他人の人生で好き勝手するわけないが、これはゲームなんだもの。クロード君は犠牲になったのだ。



「腹減ったな。どっかの宿でメシ食おうか」

「ステーキにするです」

「たまには野菜も食べなさい」

「ヤです」



 さて……今さらだが、さすがにおかしいことは俺でもわかる。ゲームパッケージにはハクスラだキャラメイクだのと書かれていたはずが、現状はクロード君の人生シミュレーターだ。まだチュートリアルだろうと自分をごまかしてきたけど、どうも嫌な予感がしてならない。だからもう一度このゲームに関する情報をログアウトして探してみようと思う。


 しばらくして中央地区の宿へと入り、諸々を済ませてからログアウトした。そして意識が現実に戻った俺は、あまりのショックに思考が停止していた。



「ぇ?」



 カサンドラとマリーネの絵に変化しているゲームパッケージ。おまけに書いてある説明文が違い、ハクスラやキャラメイクの文字がどこにも書かれていない。しかもなんか、ギャルゲーみたいなデザインになっとるし……。


 俺の記憶違い……いやまさか、俺の認知機能に問題が?


 とりあえず……とりあえずは写真を撮って記録しておこう。もしかしたら、自動デザイン変更型パッケージかもしれない。うん。まだ結論を出すには早すぎる……はず。


 若年性痴呆症だったらシャレにならんぞ。



「……はぁ」



 こんなんテンション下がるわ……。

 かといって指摘してくれるような友人はいない。最悪の場合は病院で検査を受けるしかないか。


 俺は陰鬱な気分を酒で紛らわせながら、ゲームに関する情報収集に乗り出した。



 

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