がんばる豚肉さん
「プールトン。ここに呼ばれた理由はわかっているな?」
「いえ。わたしには見当もつきません」
「王国騎士団のジャンヌ殿と親しかったそうだが?」
「はて、なんのことでしょう」
「ジョゼ殿。この男が副団長の不正に関わった者だな?」
「えぇ。いただいた資料が確かであれば、当日の非番はこのプールトンだけですな」
「プールトンとやら、少し話を聞かせてもらおう」
「お答えできることであればなんなりと」
おぉ、豚肉さんが余裕たっぷりな渋い態度だ。大人だねぇ。
ところで副団長の不正ってなんだ?あの資料の中身がちょっと気になる。
「ジャンヌ殿とナニをしたのか、包み隠さずに白状しろ」
「申しわけありませんが、おっしゃる意味がよくわかりません」
「副団長は毎月のようにサウスポイントを訪れては小太りの男と会っていた、という確かな証言もあるが?」
「その手の情報を捏造するのは簡単ですのでなんとも。まずはその証言の信憑性から調べたほうが無難でしょう」
「この国には影がいる、と言えば納得してもらえるか?」
「…………なるほど。では最初からわたしを?」
「そういうことだ。ジョゼ殿には先ほど書面で伝えたばかりだがな」
「フフ。そういうことでしたか」
「なにを笑っているプールトン!貴様だけは絶対に許さんぞ!」
モミアゲと豚肉さんの温度差よ。
奴がブチギレている理由はわからないが、別に興味もないしな。
そんな風に呆れながら茶を啜っていると“明鏡止水”が発動したことに少し驚いた。どうやら豚肉さんがラット君を狙っているようだ。
俺が蹴り飛ばすのは簡単だが、豚肉さんから敵意を感じないのが引っかかる……しかも殺意や敵意を感じないのに“明鏡止水”が発動したのはなぜ?
色々と疑問は尽きないが、とにかく豚肉さんの思惑が気になってしまった。
剣を手にかけて斬りかかろうとした騎士団長を手で制止させ、成り行きを見守ってみることにする。豚肉さんの動きは洗練されたものではあるが、ラット君が捕まっても制圧するのは可能と判断したからだ。
笑みを浮かべたままラット君を人質にした豚肉さんは、こちらにペコリと頭を下げて礼をした。俺が動かなかったことを理解している上に、冷静な態度を崩さないか。
なるほどな。あんたモブキャラじゃなかったのね。
だけど敵かどうかの判断もつかない。
先生、豚肉さんの行動原理がわからないんだけど、これはどういう状況ですか?――っと。
“現在は未知の未来へと分岐したので詳細は不明です。ですが、人を豚肉さんと呼ぶのはどうかと思います。”
確かに。だが求めているのは正論ではなくてだな……。
しかし未知の未来か。クロード君の死亡フラグを全部へし折ってきたのがここにきて影響してくるとは。先生の攻略情報が参考書くらいにしかならなくなったのは残念すぎる。
よし決めた。ここは豚肉さんの目的を探ってみよう。
「うわっ!?」
「プールトン、血迷ったか!?」
「わたしの身がどうなろうと細事にすぎませんが、どうなるにしても今ではありません。ラット様には申しわけないのですが、少しお付き合いを願います」
「この私を前にして逃げ切れると思っているのか?」
「騎士団長様。あなたはこの国の実態をご存じないようです」
「……なに?」
「国に対する忠誠心の高さは美徳ですが、その気高さを利用されていることに気づいてほしい」
「私が、利用されている?」
「副団長様が不正行為を行った、と最初に断定したのは誰でしょうか?その人物を調べれば国を腐らせる根源にたどり着けるかもしれません。ただし、身の危険を伴いますが」
「…………ふむ」
剣から手を離した騎士団長の表情が険しくなった。心当たりでもあるのか。
「プールトンッ!ジャンヌ殿を汚しておきながらただで済むと思うなよ!」
「……汚すという表現はよくわかりませんが、組合長はどうしてそこまでお怒りなのですか?」
「清楚なジャンヌ殿を不純な道に堕としたのは事実だろうッ。知的な豚鬼の分際で生意気な!」
「不純かどうかは歴史が決めるのです。だからこそわたしたちは戦わなくてはならない」
「わけのわからないことを抜け抜けと――」
「ク、クロさぁん……」
「ラット様は大人しくしていれば大丈夫ですよ」
「ど、どうしてそんなに落ち着いてるんですかぁ……」
お、半べそラット君は子供らしくていいじゃないか。その調子でドSなお姉さまの心をキャッチすれば結婚相手に困らないぞ。がんばえ~。
「お嬢様――いえ、ディーネ・フォン・アウタールフ様」
「ん?」
……またか。このままだと偽証罪で手配されそうだ。
「お話したい事があるのですが、お時間をいただけませんか?もちろんラット様は無事にお返しいたします」
「貴様……ジャンヌ殿だけでは飽き足らず、アウタールフ家の御令嬢にまで手を出すつもりかァッ!?もう許――」
「ジョゼ殿!?」
ビクンビクンしながらソファーに倒れたモミアゲに唖然とする。だからなんで興奮しているんだお前は……。
敵意を感じないからと言って油断しすぎだろうか?なまじ豚肉さんのエピソードを聞いたせいで同情してしまう気持ちが強い。
だって初恋の相手から豚さん呼ばわりだぞ?俺なら二日はふさぎ込むね。
不安そうな騎士団長には心配するなと言ったが納得はできないようだ。俺をディーネだと思っているから当然かもしれない。
大人しくラット君を盾にした豚肉さんと商業組合を出ることになった。そんな俺たちを囲む騎士たちから感じるピリピリとしたプレッシャーが凄まじい。
やがて組合の扉を抜けると、豚肉さんがおもむろにふところからニンジン?を取り出して頭上に掲げた。
「ゴズさん、出番ですよ!」
「ブモ」
「う、うわぁ!」
「も、も、猛牛だ……アグネアの猛牛だ!!」
「……バカな、特殊個体だと!?」
馬用の厩舎のある方面から騎士の悲鳴が聞こえた。ドスドスと重低音を響かせて現れたのは非常食の姿。騎士たちが一斉に距離を取り油断なく剣を構えるが、ゴズは威風堂々と俺たちの目の前へとやってくる。
まずは上下関係を構築するためか、フンスと俺に鼻息を吹きかけてきやがった。しかし当然ながら俺の肩にはアサガオちゃんがいるわけで、その姿を見たゴズはピタリと動きを止めて固まってしまった。
……残念だよゴズ。お前にも見えるだろう?この小さな鬼畜妖精の姿が。調子に乗らなければ長生きできたものを。
「い、いかん!アウタールフ嬢、離れてください!」
「騎士団の方々には申しわけありませんがここでお別れです。さぁゴズさん、予定通り町から離れますよ…………ゴズさん?」
「ほれ、予定通りにしないと豚肉さんが困るぞ?」
「ゴズ、おすわりです」
「ブモッ!」
アサガオちゃんの命令を即座に遂行するのは教育の賜物か、もしくは条件反射みたいなもんだろう。ササッと伏せたゴズの背中に乗って豚肉さんを待っていたのだが、全員が呆けた様子で固まっていた。
なにをしている?早くしろ。
「なにをボサッとしている。早くラット様を乗せろ」
「は、はい。ただちに」
「……クロさん」
「ア、アウタールフ嬢。危ないですから……」
「ラット様の護衛は俺の仕事なので、ここは譲ってもらえませんか?」
「それは……しかし……」
「もしもわたしを見逃して頂けるのでしたら、ご一緒でも構いません。町の外へ向かいながらお話もできますから」
「重要参考人を見逃せというのか?騎士であるこの私に」
「ですが悩んでおられるのではありませんか?今の王国の現状にも」
「…………いいだろう。お前たちはここで必要な書類や情報を集めておけ」
「ですが団長、よろしいのですか?」
「やむをえまい」
以外。堅物そうなのに豚肉さんの無茶な要求を呑むんだ。それとも俺が面倒なことを言ったせいだろうか?それだったら仕事の邪魔をしてすいません……。




