貴族の依頼
「ごしゅ。どうしてあのなまいきなメスをけさないです?」
「相変わらずバイオレンスな思考回路だな。先生、妖精さんの整備工場はどこだ?頭部の修理を頼みたいのだが」
「ごしゅ、アレつくってほしーです」
「また芋粥食べたいの?今朝も食っただろ」
「ドロドロのみたいです」
「作ってあげるけどちゃんと噛みなさい」
アサガオちゃんはあの日の芋粥を大層気に入ったらしい。安価で手軽、特別な材料もいらない粗食だというのになにがそこまでよかったのか。そういえばディーネも大げさに喜んでいたような気がする。
夜、宿に帰って作ってあげたらそれはもう幸せそうにジュルジュルしていた。嬉しそうなアサガオちゃんを見ていると、誰かのために頑張る人の気持ちがちょっとだけ理解できたような気がする。
誰かを不幸にしたことはあっても、幸せにしたことはないからなぁ。
そこで閃いたんだ。俺が美しいお嬢様(仮)のメイドになったらどうだろうか?
朝はじっくりとお着替えを手伝い、夜は美容のためにマッサージを行う。特に足先は丹念にネットリとな。お嬢様(仮)は気持ちいいし、俺もキモチいい。
完璧では?
いつかお嬢様が俺の違和感に気づいたとしても、男だけどこの見た目で辛い思いをしてきました……的な展開に持っていけばお咎めも回避できるはず。むしろ同情されてニャンニャンなことになるかもしれない。やはり完璧では?
「ごしゅ。あしたはどんなおしごとするです?」
「貴族の護衛だってさ。依頼主は未成年の男の子で、内密に事を進めて欲しいと書いてある」
「みせーねんとないみつにです?」
「そう聞くといやらしい依頼に聞こえるからやめなさい」
「みせーねんを、ごしゅが、ないみつに、おせわするです?」
「…………まぁそうだな」
不穏な気配を感じる。アサガオちゃんがお腐りになられるのは困るから、性癖は刺激しない方向でいきたい。
「いまのごしゅはかわいいです」
「当然だ。理想に最も近い造形に仕上げたからな」
「みせーねんのしょーねんは、そんなごしゅにおせわをしてもらうです」
「……なにが言いたい?」
「いまのごしゅは、てーこくにいたオスくらいかわいーです」
「クライス君のことか……あぁわかった。アサガオちゃんの言いたいことはよくわかった」
「きっといけないコトになるです」
お前がいけないコトになっているんだよ。
さて、アサガオちゃんの興味を散らすにはどうする?
「アサガオちゃん。実はその手の話は俺の世界でも多いんだ」
「ホントですっ!?」
「……落ち着け。ほら、とりあえず紅茶でも飲んでゆっくりと聞いてくれ」
「あい!」
「元気があって大変よろしい。オスとオスが絡み合う事例は星の数ほどあるが、オスが好むオスはどんなオスが多いと思う?」
「ごしゅみたいなのです!」
「やっぱりそう思うよなぁ?だが残念。可愛い系は需要が少ないらしい」
「……え?」
俺も詳しくは知らんけどな。所詮はどっかで見ただけだから真相は知らないし興味もない。が、ここでアサガオちゃんに興味を持たせるわけにはいかんのだ。
「ある町でオスがオスを性的に襲った事件が発生した。だがその被害者はでっぷりと太った毛むくじゃらな四十代のオッサンだった」
「それはウソです」
「しかも襲ったのは長身で筋肉モリモリなイケメンだ。逮捕されたイケメンは太った男性に対し、被害者がフェロモンで自分を誘っていたから、という供述をしたそうだ」
「ごしゅはつくりばなしがじょーずです」
「まぁそう思いたくなる気持ちはわかる。確か当時は夏真っ盛りで、被害者は仕事帰りに襲われたんだ。夏のオッサンは凄いぞ?特に午後は殺人級の激臭をまき散らす。小さい個室に入ろうものなら地獄のガス室に早変わりだ。それをフェロモンと超解釈できなければ、この事件は起きなかった」
「…………」
人の趣味趣向を否定するようなマネはしないが、この話に食いついていたらちょっと距離を置こうと思う。きっと俺たちには時間が必要だから。
このケースとは少し違うのだが、ゲームで女キャラを使うとキモイと言う人がよくいた。別に他人がどう楽しもうと関係ないだろうに。趣味は人それぞれなのだ。
とある知り合いが俺の作ったキャラを見て女作るとかキモくね?と言ってきたことがあった。別に俺はなんとも思わないが、そいつのキャラは緑色でフンドシ一丁の宇宙人だったんだ。こう、ケツの筋肉がキュッと締まっていて、見ているとなんかイラっとした記憶が残っている。
知り合いはその緑のケツ見ながらプレイしていたことになるわけだが、あんなキャラで遊んでいたらモチベーションが病気になるわ。こんなケツ筋野郎を作っておきながら俺になんて言った?と口から出る寸前でやめた。人の性癖にケチをつけるのはよくないからな。
俺はネタ枠だとしても男のケツは見たくない――と、そんなどうでもいいことを思い出していたら、アサガオちゃんは植木鉢に埋まっていた。ゆっくりおやすみ。
翌日、アサガオちゃんを叩き起こして集合場所である東の地区へとやってきた。
ここはサウスポイントの工業地帯と呼ぶべき場所で、中央地区に住む中流家庭の大半がここで働いている。北に貴族、中央に中流、南に貧者。大雑把に分けるとこうなる。世知辛い世の中だ。
「集合場所はここだったよな」
「……あい」
「どうしたアサガオちゃん。元気がないな」
「……ふつーです」
どうしたんだろう?なんとなく夜中に四十代の被害者男性のイメージ図を描いて植木鉢の前に置いたのが悪かったのだろうか?よかれと思ってやったが不快だったのかもしれない。これは申しわけないことをした。
「ごしゅ」
「見つけた?」
「あれです」
指先の向こうで貴族っぽい子供がチラチラとこちらを伺っていた。ほう、なかなかの金髪美少年。クライス君には到底及ばないがまぁまぁだ。
少年に手招きしてみると、オドオドと近寄ってくる姿が小動物を連想させる。一部のお姉さまは喜びそう。
「……あ、あの」
「組合から派遣された者ですが、依頼主の方ですか?」
「は、はい!よろしくおねがいします」
「こちらこそ。俺はクロと申します」
「ぇ、あ、僕はラットです!」
「ラット様ですね。早速ですが、依頼内容について教えていただけますか?」
「は、は、はひ」
やたらと緊張しているようだが、どうした?
「えと、実は兄上を探してるんです……」
「お兄さんを?内密にとのことですが、それはご両親にもですか?」
「はい。父上と母上は――」
「あ、結構ですよ。事情は聞きしませんからご安心を」
「……ありがとうございます」
複雑な家庭環境のパターンかね。深刻なネグレクト系じゃなければいいが。
「僕、兄上に嫌われてて、あまりお話をしたことがないんです……でもとつぜん兄上がいなくなっちゃって、母上はなにも教えてくれないんだ」
だから言わんでいいと言っただろうが。唐突に自分が語りしちゃうタイプか?それ直さないと嫌われるぞ。
「だから兄上のお世話をしてた使用人に聞いたんです。商業組合の人なら知ってるって」
「なるほど。確かに情報通のジョゼなら手掛かりを掴めるかもしれません」
「あ、その人です!その人に聞きたいんです」
「ふむ、そのための護衛か。了解しました。では行きましょうか」
「おねがいします!」
いざ行かんとしてラット君を見る。歩かせるのはちょっと気が引けた。適当に辻馬車を捕まえて商業組合まで運んでもらうことにしようか。
ラット君は狩人に興味津々なのか、道中は止まることなく質問をしてくれるので気まずい空気にはならなかった。
「あの、クロさんのご趣味はなんですか?僕はダンスを練習してるけどぜんぜん上手くなれなくて……あ、ダンスはお好きですか?」
「ダンスは得意ですよ」
「ホントに!?」
「はい。自慢するほどではありませんが、ランニングマンを少々」
「ら……え?らん……え?」
そんなこんなで懐かしの商業組合が見えてきた。すっかり忘れていたけどゴズは元気だろうか?




