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受付嬢アンナ



 サウスポイントの狩人組合に就職してからそろそろ二年くらいになるのかな?ようやく狩人さんにも顔を覚えてもらい、仕事にも慣れてきたと胸を張って言えるようになった。


 そんなわたしも最近は忙しさに振り回されて大変な日々を送っている。原因はわからないけど、魔獣の数が増えて狩人さんの手が足りなくなってきたからだね。だから実力のある狩人さんには一人でも多く仕事をしてほしい。これは組合全体の総意だった。


 そんな中、先月からここに通い出した期待の新人がいる。名前はクロ。わたしはクーちゃんと呼んで仲良くさせてもらっているんだ。すっごく可愛いけど、とっても口の悪い金髪の女の子だ。


 わたしはそのクーちゃんのことで悩んでいた。



「クーちゃん。また?」

「またって、なにが?」

「今度は猛牛の角が混ざってたんですけど」

「……あぁ、それは拾ったんだ」

「へぇ~今回はどこで拾ったんですかぁ?」

「南の平原に腐るほどいるだろ」

「ほへ~。じゃあ中位資格を与えますからここにお名前をお願いしまーす」

「はぁ?なんでそうなるんだ……」

「アグネア平野で拾ってきたって言ったじゃないですか。あんな危険地帯を歩いて無傷で帰ってきたってことですよね?それもたった一人で。中位昇格おめでとうございまーす!」

「無傷なんて誰も言ってないし、嘘かどうかも証明できないだろうが。俺は下位から動かんぞ」



 こんな感じで下位から昇格しようとしないの。組合長からはせっつかれるし、クーちゃんは何度お願いしても聞く耳をもってくれない。だからものすごく困ってるんだよねぇ。


 もちろん普通なら滅多にないよ?一か月で昇格なんてさ。



「自分を俺って言うのやめない?似合わないよ」

「やかましい。黙って仕事しろ」

「ひどっ。年上のお姉さんになんてこと言うの!それに仕事はしてます」

「面倒な奴だな……。仕事ならあそこで酒飲んでる髭のおじさんにやらせればいいだろ。暇そうだし」

「あ、クーちゃんからのご指名ですよジェームズさん。ちょっとお仕事しませんか?」

「ヒッ……」



 軽く悲鳴をあげてコソコソと出ていくジェームズさん。あれでも中位資格を持つベテラン狩人なんだけどね~。


 ジェームズさんもおバカな人だよ。登録しにきたクーちゃんのお尻触って殺されかけたんだから。それも登録初日に。周囲にいた他の狩人さんもクーちゃんの怪力見てたからね。そりゃもう話題になったよ。


 クーちゃんは口が悪いけど基本的には大人しい性格みたい。自分から問題を起こすようなことはしないからね。



「ジェームズさんは忙しいってさ。だからお願い!ちょっとだけでいいから助けてよ~」

「……俺が登録したのは先月だぞ?そんなド新人になにを言ってるんだ」

「だって死亡率の高い遺跡の地下五階にも行ったでしょ?それにこれまでの依頼達成率が完璧で評価も高いし?」

「階級制度がなんのためにあるのかを思い出せ……下位の者は経験が不足しているから、危険な仕事は上の者が担当する。そうやって新人を守るための制度だろうが。違うのか?ん?」



 クーちゃんはよくこんな感じでおじさん臭い言い回しをしてくる不思議な子だ。あと、ん?って言うの好きだよね。それ評判悪いよ。



「クーちゃんは中位狩人のジェームズさんをデコピンで沈めて片手で持ち上げて脅してたでしょ?じゃあジェームズさんよりも強いクーちゃんが危険な仕事を担当すべきってことにならない?」

「それってあなたの感想ですよね?なんか証拠になるデータとかあるんスか?」

「その返しはムカッとするかも。だからここにサインして」

「無敵か貴様」



 ふふん、押しの強さなら負けないよ。もし嫌われたら好きになってくれるまでがんばるだけさ。


 あ、しぶしぶサインしてくれた。やったっ。ようやく中位昇格に同意してくれたよ~。素材の換金を遅らせた甲斐があったってものだね。



「ありがと。優しいクーちゃんは大好きだよ!」

「さっさと要件を言え」

「了解さぁ。ほいっ」

「……ぬぅ」



 美少女が眉を寄せると絵になるねぇ。依頼書を見ながら唸ってる顔も可愛い。はぁ、羨ましいなぁ。



「…………は?」

「読んだらここにもサインお願いねぇ」

「待て。貴族の護衛と書いているが?」

「うん」

「うんじゃないが」



 実はかしこまったクーちゃんの対応は非常に評判がいい。仕事が終わった依頼主から丁寧な対応や言葉遣いに感心したって手紙がよく届くんだよねぇ。だから今回はどうしても彼女に依頼したかったんだ。



「誰か今すぐ組合長を呼んでくれ。これはどう考えても話し合いが必要だと思う」

「その組合長からのご指名でーす」

「…………」

「依頼は明日の朝からだねぇ。詳しい内容は依頼主さんから聞いてね」

「アンナ。今日の屈辱は忘れんぞ」

「帰ってきたらお昼でも一緒に食べようよ。お店予約しとくね」

「その前に査定した分の金をよこせ」

「あ、忘れてた」



 やっぱりクーちゃんはしっかり者だ。この子なら安心して仕事を任せられるよ。


 でも、なんでこんなに優秀で怪力な子が無名だったんだろ?クロって名前が本名なのかも怪しいし、もしかして高位貴族の出身だったりして?うん、すっごいありえるかも。それならおじさんっぽいのも納得だ。


 実はとっくに査定が終わってたなんて言わない。さすがのクーちゃんも怒っちゃうからね。



「はいご苦労様。今日の稼ぎは大きかったねぇ」

「幸運にも角を拾えたからな。また来る」

「はいはーい。ちゃんと帰ってきてねー」



 うーん残念。クーちゃんは知らなかったみたいだけど、猛牛の角は魔力の塊なんだってさ。だからケンカとかで折れたのを拾っても魔力を失ってボロボロになるらしいよ?繋がっている状態で仕留めないと魔力が抜けて素材にならないんだってさ。そんなこんなで基本的に魔力を宿した角は猛牛を狩った証拠になっちゃうんだ。


 傭兵や狩人さんが恐れる猛牛を倒せちゃうクーちゃんって何者なんだろね?



「…………あの子は行ったか?」

「あ、ダンカンさん。見て見て、昇格の同意書にサインもらいましたよ!」

「ぬおお!でかしたぞアンナ!特別手当をやろう」

「やったぁ!」

「ふー。あの子が参加してくれれば鉱山の方もなんとかなるかもしれない……その時はアンナ、わかっているな?」

「へへへ、お任せくださいよ組合長。このアンナがお昼を奢ってでもやり遂げてみせますとも」

「その言やよし。昼食代は払うから存分に食い散らかしてこい」

「あざーっす!」

「こうしちゃいられない。仕事だ仕事」



 サウスポイント狩人組合の長、ダンカンさんが同意書を片手にスキップで去っていく。オジサンなのに元気だなぁ。



「ねぇアンナ。さっきの仕事を依頼してきた貴族って誰なの?」

「聞いてない?あのシルバー家の御子息さまらしいよ」

「うげ、もしかしてあのクロード様?」

「ううん、弟のほうだってさ。お兄さんのほうは行方不明でしょ」

「あ、そっか忘れてた」



 だけど弟のほうはなんの情報もない。しかもご両親に内緒で依頼を持ってきたらしいからどうなるか予想できないんだ。だからクーちゃん以外に任せるのは不安だったんだよねぇ。


 でも大丈夫。クーちゃんならきちんと仕事してくれるさ。



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