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望みを叶えた日



 アサガオちゃんとの再会には驚いたが、それ以上に驚いたのはクロード君の体が生きていたことだ。


 ただし動くことができず、感覚そのものが無くなっているような感じだ。動かせるのは視線だけで、かろうじて喋ることができる程度の状態か。


 いや、これは助からないほうがよかったパターンでは?



「おはようアサガオちゃん。元気?」



 泣きじゃくって反応してくれなかった。あれからどれくらいの時間が過ぎたのか気になってしまうな。



「迷惑かけてゴメン」

「ホントです!ごしゅはバカでうんちです!」

「おぉ、ついに俺も排泄物か。便所に流される前に出世を急がなきゃならんな。で、ここは亜空間の中?」

「あい。ごしゅはだいじょぶです?いたくないです?」

「あぁ痛みはないよ。体は動かないけど」

「…………」



 アサガオちゃんの顔が悲痛の色に染まる。察するに俺の体はもうダメなんだろう。まぁそのつもりで戦ったから気にもしてないが。


 だが無駄に生き残ってしまったのは問題だよなぁ……こう、スパッと逝った方が後腐れなかったし、むしろ新規でプレイさせてくれれば最高だったのに。


 どっかに新しい体落ちてない?進化するならカブトムシでも構わんぞ。



「その顔で大体は察したから、遠慮なく俺の現状を教えてくれないか?」

「ごしゅのからだは“エーテルか”がすすんでるです」

「ふむ、エーテル化ね。例の魔素変換をやり過ぎたせいだな」

「……あい。たいきちゅーのエーテルりゅーしをたくさんきゅうしゅーすると、からだがエーテルにてきおーしよーとするです」

「ほうほう」

「マザーはさいぼうがどーのいてたです。ボクにはよくわかんなかたです」

「細胞がエーテルになってしまうわけだな」

「そんなかんじだたです」

「なるほど。そのまま続けてくれ」

「あい」



 アサガオちゃんが一所懸命に説明してくれたおかげで大体は理解した。この体が人間の形をしていないことも。


 クローゼットの鏡を向けてもらった時の衝撃はなかなかだった。今の俺はまさにスライムなのだ。スカイブルーの色をした半透明な塊。視線を動かす度にウニョウニョして可愛い。


 再スタートがスライムか。まぁいいんじゃない?女の服だけを溶かす溶解液でも研究して…………あ、もしかしてそういうこと?


 やれやれ……とうとう来ちまったか、俺の時代が。



「ごしゅ、あきらめないでほしーです。ボクのときもたいへんだたけど、こてーかのれんしゅーすればうごけるよーになるです!」

「え、アサガオちゃんもこうなったのか!?」

「あい。エーテルへんかんはもともとボクのぎのーです」

「なにぃ!?」



 マジかッ。じゃあ他の技能もアサガオちゃんから借りてたのかな。いや待て、固定化だと?



「アサガオちゃん。今、固定化の練習と言ったな?つまり、君もこんなスライムになってから妖精の姿に?」

「あい。ボクはごしゅよりもからだをなくしてたから、こんなにちぢんだです」

「そう、だったのか……君はよほど辛い目に合ってきたんだな」

「もうわすれたです」



 強い子だ。精神面では俺より大人かもしれない。だが今は服を溶かす溶解液を発明するのが先だ。まずは手がないと不便だから、手の形を固定化する練習から始めよっと。


 神妙な態度を取りながらちょっとだけ試してみる。すると、あっさり手の形を作ることができて拍子抜けした。なんだ、簡単じゃん。確かに想像力には自身はあったが。


 ん?これってまさか……。



「ごしゅ……?」

「見てろ」



 あぁ……ようやく理解したよ運営さん。ここまでが真のチュートリアルだったんだな?


 これはキャラメイクなんだ。俺が心から望んでいたコンテンツは存在したんだ。あのパッケージは嘘じゃない……。


 つまり、チュートリアルの終了条件は死亡することだったってことだ。本来ならもっと早くこうなってたはずなのに、俺が無駄にしぶとくてここまで遅くなってしまったんだ。なんたる不覚か……。



 イメージする。太ももがムチッとしたやらしい金髪ツインテールな美少女を。ベースは理想にもっとも近いディーネを採用。カサンドラの目元や口元がエッチだったのでこれも採用。だがジェシー、君は大人になってからだ。



「……え」



 あっという間に美少女へと変貌した俺の姿にアサガオちゃんは口を開けて驚いている。


 ふん、まだまだこんなものじゃあないぞ?これから胸を盛りまくってやるのだからなぁ。世の紳士たちはロリに巨乳は邪道と言うが知ったことではない。



「あれ?む、胸を形成できない?」

「…………ごしゅ」

「アサガオちゃん。お胸が作れないんだ」

「ごしゅはじょせーだたです?」

「いや?バリバリの男だが」

「じゃあとーぜんです。からだのかんかくがわからないとむずかしいってマザーもいてたです」



 なん……だと……?


 なるほど、体の感覚を知らないとイメージできないからか。ぬぅぅ、まさかこんな形で我が野望が潰えるとは。だから股間の息子だけは勝手に再現されて――って生えとるやないかいッ。うわ、全体的な違和感がえらいことになっとる……。


 まぁ見た目と声が良ければそれでいいや。別に女になりたいわけじゃないし、見目のいいキャラを操作したいだけだからな。贅沢を言うならオッパイは欲しかったが、ここは大胸筋矯正サポーターで我慢するとしよう。



「体を作れたのはいいが、なんか小さくないか?」

「ごしゅはかたうでをなくしたです」

「あ、なるほど。ならいいや」

「こてーかにはすーねんかかるはずなのにどうしてかんたんに…………でも、そのすがたでキノコはえてるのきもちわるいです」

「大丈夫、すぐ慣れるよ」

「ごしゅのはみあきてるです」



 またそのセリフか貴様ッ。どこぞの侯爵令嬢なら泣いて喜ぶ絶景だぞ。


 とりあえずクローゼットにあったスーツを着てみたのだが、ブカブカで違和感も凄い。どこかで衣装を購入しなくては無駄に目立ってしまうな。



「魔力回路がダメになったってことは魔術も使えないのか」

「あい。ほーしゅつがむずかしーから、しんたいきょーかくらいしかできないとおもうです」

「身体強化できるの?なんだ、意外とペナルティーが緩いな」

「しょーへきもむずかしーです。これからはムシケラのまじゅつでもあぶなくなるです……」



 無双チュートリアルは終わりってことね。了解了解。そっちは腹いっぱい楽しんだからもう充分だよ。やはり俺にはモブがお似合いだ。


 これからは金髪ツインテール美少女(仮)として自由にしがらみなく楽しませてもらおう。



「今この瞬間にクロードは死んだ。これからは可愛い俺の新たなる冒険が幕を開けるのだ」

「ごしゅ。じぶんをかわいいっていうのやめてほしーです」

「今後は可愛さを追求する旅に出る。ついて参れ」

「……なんかムカつくです」

「気合で我慢しろ。行くぞ」



 狩人組合に登録して冒険者みたいな生活はどうだろう?どこぞには遺跡もあるらしいから、お宝を探して発掘するのも悪くない。


 あぁ、自由で素敵なキャラメイクをありがとう運営様。完全に諦めていたから嬉しすぎる……。



「言い忘れていた」

「?」

「アサガオちゃん。ただいま」

「――ッ」



 飛び込んできた彼女を優しく抱きしめる。そのまま泣き止むまで小さな頭を撫で続けた。



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