ルカ・コランダム
「いったいどうなっておるのだ……奴は死んだと言っておったではないかっ!」
「…………ッ。部下の報告では、確かに死んだと――」
「なぜ自分の目で確認しなかった?今日の議会で奴が現れたせいでなにもかもが滅茶苦茶だ!」
「災厄の扉が開いたのに生き残るなんて誰も思いませんよ!?」
「それは、うぬぅ……」
クソ、クソ、クソがッ。どうしてこんなことになった……。
兄上と義姉上が生きて帰ってきた。いつの間にか消えてしまったディーネを連れて。
すぐにオレとサラは捕まり、サラはその場で処刑された。他でもない義姉上の手によって。命乞いすらさせてもらえず、徹底的に顔を殴られて殺されてしまった……。
あのアバズレがぁ、今に見ていろ。必ず復讐してやる。オレの手で貴様らを殺してやるぞ。
「だが貴公の責任は重い。姪のサラまで失いおってからに……どう始末をつけるつもりだ?ん?」
「……待ってください。どうかサラの無念を晴らす機会をください」
「ほう?貴公が王都に護送されるのを防いだのはこの私だ。今日の温かい食事と寝床を与えたのもな。もっと言えば、貴公が公爵位を得る機会を与えたのも、後ろから支えたのもこの私だな?その恩にはいつ報いてくれるのだ?ん?」
「…………わかっております」
「わかっているではわからんのだたわけッ!!具体案を示せと申しておるのだ!」
クソ爺が調子に乗りやがって……。
だがどうする?どうすれば奴らをグチャグチャにできる?
護送車から逃げ出して三週間ほど経つが、アグネア王国の現状は悲惨なものだ。
まず帝国から災厄の扉に関する現地調査の申請がきたそうだ。この爺の話では、王家の奴らが申請書を見て青ざめているらしい。それも新皇帝の印章付きだ。ハハ、ざまぁみろ。なんとか誤魔化そうとしているみたいだが断れるわけがない。
その帝国が絡んできたのは兄上と義姉上の仕業だ。クソったれが……そのせいで手配書が回されたオレも自由に動けなくなってしまった。クソクソクソッ。
「せめて自由に動ければ……」
「自由だと?貴公に自由が与えられると思っておるのか?今も怒り狂った王家の影が貴公を探しておる。ディーネが手に入らないばかりか、これまでの報告に関する是非を問うておる。ここから離れた瞬間に貴公は終わりだ」
「はい。痛いほどわかっております……」
「わかっているではわからんと言っておろうがッ!!具体案を示せ愚か者めがッ!」
「…………」
ぐぅがぁああッ。いつか、いつか貴様も殺してやる。今に見ていろ。
「まぁまぁ閣下。少し落ち着いてください」
「っ!?フ、ファーレン卿はいつの間に――」
「失礼。実は先ほどからいたのですが、お取り込み中だったようですので」
だ、誰だこいつは……なんで黒いローブを着た不審者が部屋の中にいるんだ?
カギは閉めていたはずなのにどうやって……。
「ごきげんよう閣下。お久しぶりでございます」
「ごきげんようではないぞファーレン卿。話が違うではないか」
「こちらとしても想定外の事態で困惑しております」
ファーレン……爺の知り合いか?
「想定外か。卿はアウタールフ領を含め、確実に獣人国まで壊滅すると言ったが結果はどうだ?期待外れどころの話ではないぞ」
「災厄の扉は確かに開かれました。こちらの観測結果によりますと過去最大級の規模です」
「くだらん……卿もいい加減に現実を見てはどうだ?実際に奴は生きており、アウタールフ領は健在なのだよ。なによりもこの男が証拠ではないか!」
「!?」
「えぇ、えぇ、まさに。生き残るなど絶対にありえないのです。ぜひお聞きしたい。あなたはどうやって生き残ったのですか?」
「……は?な、なにを言って――」
「今回発生した災厄の扉は、過去に北の大国を滅ぼした伝説と同等。もしくは上回るほどの規模でありました。これをわかりやすく言いますと、本来ならばアグネア王国は滅んでいたのです」
「な!?バ、バカなことを――」
「閣下。こちらとしても都合がよろしいので協力はしましたが、あれほど苦言を申し上げたのをお忘れですか?」
「く、国が滅ぶなどとは言わなかったではないか!?」
なんなんだこいつら……なんの話をしているんだ……?
「だから対策として獣人国への誘導を指導……あ、そうでした。まずはあなたから詳細をお話いただけますか?」
「……え?」
「今回の件はあまりにも不可解だ。神の介入などあるはずもないのに、救われないはずの命がこうして存在している。いったいなにがあったのです?アウタールフ公爵殿はどうやって生きて帰ってきたのですか?」
そんなことオレが知るわけ…………あ、そういえば。
「町への凱旋には獣人国の関係者も多くいた。きっと義姉上の力で獣人国からの援助を――」
「いえ、そうではありません。たとえ獣人国が総出で援軍にきたとしても全滅したでしょう。五階梯魔術が観測された戦場でなにができます?」
「五階梯……だと……」
「間違いありません。さらに四階梯級の波動を百二十回ほど観測しております」
「卿はなにを言っておるのだ?そんな戯言を聞かされて誰が信じるというのだ……」
「聞きたいのはこちらです。こじつけるとするなら、怪物たちが同士討ちを始めたとしか考えられない状況なのですから」
なんだそれは?おかしいだろ……。
兄上は確かに帰ってきた。義姉上とディーネも無事で、私兵や要塞の兵どもだって帰ってきたんだ。このファーレンが言っていることが本当なら生きて帰れるはずがない
そう必死に説明したら、ファーレンはあごに指を添えて考えている。オレは本当のことしか言ってないぞッ。
「う~ん、こうしてあなたがおられることがなによりの証拠。そうなると同士討ちがあったとしか考えられませんね」
「ふん、扉の伝説が伝説に過ぎなかったのではないか?もしくは化け物をなぎ倒した救世主でも現れたのかもしれんぞ」
「五階梯を使える救世主がですか?フフフ、そんなことは閣下ご自身が一番思っておられないことでしょうに。しかし、情報が足りませんねぇ」
そう言いながらこちらをジッと見てきて気分が悪い。オレは知らないって言ってるだろ。
「オレは本当に知らないんだ……」
「どうやらそのようで。ただ、アウタールフ公爵殿に奇跡が起きたのは事実。早急に原因を明らかにしたいところですがそうもいかない。此度の件で閣下は窮地に立たされる可能性が高いのですから」
「だから頭を抱えておるのではないか。こやつの処遇もそうだが、最善策が見えてこないのだ」
「王家が味方なのですからしばらくは大丈夫でしょう。差し当たっての問題はあなたです」
「……オレにどうしろと言うんだ」
「アグネア国内にいてはなにかと不都合です。そこで、こちらに預けてみませんか?」
「焼けた薪を敢えて拾うか。こちらとしては願ったり叶ったりではあるが、どうするつもりだ?」
「帝国にお連れしようと思うのですが、いかがですかコランダム卿」
「……妻の復讐ができるのならなんだってやってやる!」
「それは結構」
ニタリと弧を描く口元を見たとき、ゾッと背筋に悪寒が走った。




