同じ穴の狢
管理権限ねぇ。よくある世界の謎に迫ろうみたいなイベントフラグか?タブレット先生がネタバレ全開なのもこれに関係してんのかな。
アサガオちゃんは知っているのだろうか?俺のつむじ拡大計画を楽しんでいるアサガオちゃんを突いて聞いてみる。
「おくちにいけばわかるです」
「あ、はい」
この話は終わりッ。俺のゲーム生活は、ノードラゴンビューティフルライフ。これでいい。
さ、問題が解決したところで、みんなに晩飯でも食おうぜって提案してみよう。
険しい渓谷の中間地点にある大きな湖。そこには商人たちの休憩地となっている広場があった。
そこで温かい食事をしながら会話に花を咲かせつつ、アーク君の懐柔作戦を実行しているわけだが、膝の上を陣取ったジェシーの世話で思うように進まなかった。
年長のアーク君(十二歳)は子供たちのお兄さんをしているらしく、フリーダムなジェシーの行動もニコニコしながら許してしまう。ハインドは子供に群がられて困惑し、マリーネは聖母のような微笑みを浮かべ、隣のカサンドラはジェシーの好き嫌いを注意していた。
やはり平和が一番だ。まさかゲームでこんな温かい気持ちになれるとは思わなかったが。
「わたくしたちは陛下の命に従っておりますので、帝都では現皇帝の派閥として見られております。ですが近年のこと、陛下は体調を崩され、殿下方の主導権争いが激化する原因となってしまいました」
「帝都がアグネア王国との国境から近いことは我々にとって幸運と言えます。最寄りのサンベルトには国を憂う有志たちが揃っておりますし、彼らに協力を求めれば必ずや答えてくれましょう」
「うふふ。ハインド卿の古巣ですわね。あなたがいれば交渉もまとまるかしら」
「お任せを。隊長は義に厚い武人にございます。帝国の現状を憂いているはずですから」
「サンベルトの町に入れれば安全そうですね」
「旦那様。一緒にがんばりましょう」
「がんばれー」
「ごしゅ。こいつはもってかえるです」
鬼畜妖精が幼女誘拐を煽ってくる。口を開けば犯罪行為ばかり――ん?先生に書かれていたクロード君の悪事って、まさか……。
俺はとんでもない事実に気づいてしまったようだ。そう、この妖精こそが諸悪の根源だったのだ。純真無垢なクロード少年の心を弄ぶとは腐ってやがるな。とてもじゃないが許されるような問題ではないッ。
でも今日は眠いから許すッ。おやすみアサガオちゃん。
翌朝。馬車の中で目が覚めると腕が痺れていた。
ふわりと漂う甘い香り……俺にしがみついて眠るカサンドラにどう対応すればいいのかサッパリである。
そもそも、なんでヒロインムーブしてるの?クロード君、死ぬほど嫌われていたのに……。
「おはごしゅ」
「略すな。おはようアサガオちゃん」
「きのー、よなべしてしんまじゅつをつくったです」
「え、なにそれ凄い!どんな魔術?」
「あくうかんにいきものをいれられるです」
「ジェシー用じゃねーか。今すぐ封印しろ」
こいつの設定を考えた奴は誰だ?今すぐ寺で座禅でもしてこい。
「でも、このまじゅつならごしゅをきけんからまもれるです」
「アサガオちゃん。岩塩ステーキでも食べるかい?」
「あい」
やっぱ俺の相棒は最高だ。この調子でどんどんヌルゲー化を進めていこう。
考えてみれば、ちょっと殺人教唆したり、町で虐殺をそそのかしたり、主人にドラゴンをけしかけようとするだけじゃん。かわいいもんだよ。
起床したカサンドラが、浮かんで消えていくステーキ現象について質問してきた。もちろん怪奇現象と答えておいたので問題はない。納得がいかない様子だったが、ステーキを焼いてやったら喜んでた。
でも朝からステーキはないわ。
「……匂いにつられてきましたが、朝から強烈な献立ですね」
「おはようございます。ハインド卿も一枚どうです?」
「いやいやいや、見てるだけで充分ですから!」
「そう言わず、ささ一枚だけでも」
「は、はぁ。ではありがたく……」
ハインドは押しに弱いことが判明した。三枚目に手を伸ばした彼の表情は歪んでいるのに、断ることができないようだ。でも、俺は人が苦しむ姿を見るのが本当に嫌いだ。焼くのはあと一枚で最後にしよう。
「朝からは重いけど、おいしいですねこのお肉」
「ゴズの親戚だからな」
「ゴホッ!!ア、アグネアの猛牛だったのですか?どうりで美味いはずだ……」
「ムシケラにはもったいないです」
ゴズが白目で遠くを眺めていた。
……あいつの立場で考えたら、俺が重い馬車を引かされて、目の前で人肉パーティーを開かれているようなもんか。
俺、控えめに言ってクズでは?
贖罪として今日は俺が馬車を引こう。ゴズだって親戚を朝食にされて深く悲しんでいるのだ。あいつの自由を奪い、非常食として連れてきたのは俺の罪。今さら気づくなんて……俺もアサガオちゃんに浸食されているということか(冤罪)。
「しゅっぱつだー!」
「ジェシー暴れないで」
「ブモ」
みんなの準備が整い、帝国側の国境に向けて出発となった。
自由となったゴズにはカサンドラとジェシーが乗っており、心なしかあいつの表情も明るい。やはり馬車を引くよりもメスを乗せたほうが嬉しいに決まってるよな。今日はたっぷり幼女と美少女の尻を堪能してくれ。
「クロード様。本当にこのまま行きますの?」
「申しわけない」
「い、いえ。責めているわけではありませんわ」
「鍛錬の一環でしょう。彼ほどの魔術士ともなれば、幼少時から厳しい修行を自らに課してきたのは明らかです」
「……あの行為に魔術が関係してますの?」
「はい」
なんでハインドが断言してんだ?ねーよ。
国境を越えてからの道中は穏やかなものだった。アサガオちゃんが俺の頭でミステリーサークル(不毛)を制作していなければもっとよかったのだが。
「ごしゅがハゲてきたです」
「誰かが抜いて遊んでたからな。ところで、アサガオちゃんの故郷はどこだ?君の実家に第五階梯の真髄をお見せしたいのだが」
「ニンゲンはいつかハゲるです」
「そういう問題ではない」
ようやく俺の激しい怒りと悲しみを察したのか、頭のお花を抜いて差し出してくる殊勝さをアピールしてきた。それがあと一秒遅かったら、我が終焉の炎が大陸ごと焼き払うところだった。俺の寛大さに感謝するといい。
帝国側の国境検問は驚くほどスムーズだった。例の皇子たちが素直に通してくれると思わなかったから拍子抜けだ。
事情を聞けば、皇子の後ろ盾になっている高位貴族たちの評判は最悪なのだとか。特に騎士団関係者には当たりが強く、末端の兵士にいたっては平然と殴られることも多いという。
当然ながら、検問を担当しているのは騎士団である。なるほど、スムーズなわけだ。
「ムシケラどもがごしゅをゆびさしてわらてたです」
「そらそうよ。人間が馬車引いてるんだもの。俺だって笑う」
「ボク、だいすきなごしゅをバカにするムシケラはだいきらいです!」
「くだらん点数稼ぎは無駄だアサの字。ケツから五階梯ぶち込まれたくなければ寝てろ」
「あい」
泣き顔から真顔に戻ったアサガオちゃんが、俺のフードに収まっていびきをかきはじめた。その姿に反省や殊勝さは微塵も感じられない。
妖精族の本性に慄きながら馬車を引いて歩き続ける。遠目に見えてきた人々の営みが、どこか温かさを感じさせた。サンベルトの町はもうすぐだ。




