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Vanishing Raiders  作者: MCFL
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外伝 とある世界のレイダース

厄介な世界に来てしまった、俺の第一印象はそれだった。

ファリアを探して世界を飛び回るレイダースである俺は様々な世界を回ってきた。

どういうわけか厄介事に巻き込まれることが多いが戦いのない世界でつかの間の平和を過ごしたこともある。

前回はまさにそれだったが代わりに色々な女性に言い寄られて別の意味で大変だったのだ。

だからゲートで世界を飛ぶときに

(次はもう少し面倒くさくない世界がいいな。)

と思っていた。

この世界にきっと人に優しい神様はいない。

だけど意地悪な神様はいるらしく、俺がたどり着いたのは半獣人の暮らす言葉の通じない世界であった。

いかに世界の調整まで行える立場になったとはいえそもそも明確な言語体系を持っていない彼らと話を出来るようになるほど便利には出来ていない。

「ゲートの安定までだいたい1週間か。無事に暮らせるかな?」

一応いろんな世界で調達した食料はあるので万が一食べられるものがなくても生きられるが獣人たちに敵視されて襲われ続けるようになっては身が持たない。

「はあ。」

小指から伸びた赤い糸は空の彼方に続いている。

この世界にもファリアはいなかったようだ。

「このペースで行くといったいいつになったらファリアを見つけられるのやら。再会がじいさん婆さんっていうのは勘弁願いたい。」

とは言ってもゲートを使った世界間の移動は万全の状態で行わないと世界の渦に飲まれてヴァニッシュされてしまう。

「とにかく寝床になる所を探さないと…」

「ぐー!!」

一面を見渡せる崖の上から移動しようと振り返った瞬間、狼の半獣人が猛スピードで突っ込んでくるのが見えた。

何かに脅えているらしく前を見ていながら前が見えていない。

このままだと崖から墜落することは目に見えていた。

「よっと。」

「ぐー!」

ぬいぐるみサイズの獣人とすれ違う時に首根っこを掴み上げてやると空転する車のおもちゃみたいに必死に空を駆けていた。

見ている分には面白いが本人は必死だ。

ようやく自分が置かれた状況を理解したらしく

「ぐー!?」

さっきとあまり変わらず空転した。

「ぐー、ぐー!」

人狼は必死に何かを訴えかけてきたが生憎ぐーとしか聞こえない。

ただしニュアンスは伝わった。

それがわからなくても向こうから聞こえてくる重く激しい足音は尋常じゃない状況であることを如実に物語っていた。

振り返ってみると怒り狂ったバッファローが突進してきていた。

相対速度、目標の到達時間、衝突した際に受ける衝撃と起こり得る被害…そして後ろに落ちた場合の被害を検討すること秒に満たず。

「暴れるなよ?」

「ぐ?…ぐー!?」

一応確認を取ったあと俺は迷うことなく崖の下へと落ちることを選択した。

「ぐー!ぐー!?ぐー…」

「おお、すでに天国に行ってしまったように安らかな顔をしている。」

人狼が現実逃避している間にも地面は刻一刻と近づいてきている。

…ちなみにバッファローはかなりの勢いで飛んだので少し離れたところを縦に回転しながら落ちていっていた。南無。

「ぐー!ぐー!!」

人狼が騒ぐので下を見ればもう地面はすぐそこまで迫っていてこのまま行くと身長が数センチの肉塊になってしまう。

俺は超人ではないので地上数十メートル上空から着地して無事でいられるわけがない。

「さて、どうしたものか。」

リゾルドの時はフルパワーの光凰裂破の反動とファリアのヴァニッシュに助けられたがここではどちらも使えない。

ゲートでなんとかしようと意識を集中させようとした瞬間

むんずと俺の体全体が固くて柔らかくもある巨大な手に捕まれた。

上空から降ってくる棒をキャッチするようなものだから大したものだ。

(感心してる場合じゃないな。敵じゃなければいいんだが。)

指の隙間からは灰色のふさふさした毛並みが見える。

ゆっくりと開かれた向こうに見えたのは全長十数メートルの、崖の上からでも確認できた巨大な人狼だった。

「ぐー!」

ちびっこい人狼の親なのか鳴きながら飛び込んでいった。

しかし十数センチから十数メートルまで成長するのか、あの人狼。

親の方は子を指先でつまみ上げると顔の前まで持ってきて

「ガーッ!」

大気を震わせる雄叫びをあげた。

何となくだが叱っていたのだと思う。

しょげた子人狼-面倒なので小次郎と名付けた―を頭に乗せた親の人狼はしげしげと俺を見つめたあと俺を手のひらに乗せたままゆっくりと歩き出した。

「俺を食ってもあまり旨いとは思えないけど。」

呟いてみても相互理解は得られない。

「ぐー。」

いつの間にか小次郎が毛皮を伝って来て頭の上に乗っかってきた。

「うん。すっかりなつかれたようだ。」

俺たちを見下ろす親人狼が優しい目をしているのを見る限り歓迎してくれるようだ。

「海外旅行の経験はないが、きっとなんとかなるものなんだな。」

構ってくれとせがむように鳴く小次郎を弄りつつ連れていかれたねぐらで予想通り、想像以上に手厚いもてなしを受けたのだった。


どうもここの獣人は歳を取る毎に大きくなるらしい。

小次郎に始まり俺くらいの身長のものもいるかと思えば最終的にはさらにでかいのもいた。

同じくらいのサイズのやつとは相撲みたいなじゃれ合いをして遊び、小次郎くらい小さいやつとは座ったままチャンバラもどきをして相手をしてやる。

そんなこんなで1週間なんてあっという間に過ぎてしまった。

さすが獣だけに野生の勘で俺の心境を感じ取ったのか出立を決意するとみんな色々と餞別を渡してくれた。

だけど小次郎だけは

「ぐー!」

と泣きながら出ていってしまった。

「ちょっと待て、小次郎!」

放っておくわけにもいかず俺は小次郎を追って飛び出したのだった。


異様に足の速い小次郎は俺から逃げるためにひたすら走っていく。

その姿は初めて出会ったときにバッファローに追い回されていたときのように全速力で前を見ずに走っていた。

「このまま行くと、あの崖か!まずい!」

速力を上げて全力で追いかける。

このままではこの前の二の舞、最悪バッファローと同じ末路を辿ることになる。

いかに小次郎の足が速いと言ってもリーチの差は確実に俺の方が上のため徐々に距離は詰まっていく。

そして崖に飛び出す直前で小次郎を捕えた。

「あり?」

と思った瞬間、しっかり学習していた小次郎は急停止して止まってしまった。

だが俺は手を前に突き出して全力疾走中、重くて速いものほど急には止まれない。

結果、俺だけが崖から落ちていく。

「!ぐー!」

だというのに小次郎は落ちていく俺に飛びついた。

どうあっても小次郎では俺のことを助け出すことなどできないと言うのに、それでも自分の命も省みず飛び込んできてくれた。

それがたまらなくうれしくて俺はしっかりと小次郎を抱き止める。

「ぐー…」

「安心しろ。小次郎は俺が絶対に守ってやる。」

落下までの距離を考えながら辺りに目を向ける。

(木を緩衝材にするか?いや、この辺りの木は丈夫だったはず。足が先にやられる。川も浅いから衝撃を殺しきれない。なら…)

俺は川辺の比較的深いところ、それも木々が生い茂っている場所を探していく。

「ぐー!」

「心配するな。絶対助かる。」

唯一の懸念は小次郎だが、大丈夫にしてみせる。

俺は胸ポケットからビー玉サイズの水晶を取り出して小次郎に手渡しつつ右手で背に差したルーツを抜き放つ。

「小次郎、それを絶対に離すなよ。」

「ぐ?」

「いくぞ!」

入口と出口の設定、速度補正、出現地点の安全確保を瞬時に行い俺は小次郎を抱えたまま落下先の空間に開いたゲートに飛び込む。

「ぐー?ぐー!?」

ゲートの暗闇は一瞬、飛び出した場所は川の脇に立つ巨木の真上。

「小次郎、振り落とされるなよ!」

小次郎を背中にしがみつかせてルーツを両手で握る。

「うおおお!」

全力で木の枝を打ち付けたが岩石かと思わせる固さに弾かれそうになる。

それでもさすがはルーツ、刃こぼれや変形もなく枝にわずかにめり込み、切り落とした。

痺れる手をぎゅっと握り込み次に備える。

「次だ!」

枝に剣を打ち付けてスピードを殺していく。

勢いの減少による切れ味の低下は命の光で調節した。

そして最後の枝を打ち付けるともう足元は川の流れだった。

ルーツを納め小次郎を胸に抱く。

そして着水

ボンッ

「へ?」

のはずが何故か川辺の地面の上に着地していた。

爆音で分かりづらかったがあれは、ゲートだった。

「小次郎、お前…」

小次郎自身も驚いているようだ。

小次郎に渡したのは世界の渦に影響を受けないお守りであってジャンプを可能にするものではないはずである。

つまり、小次郎が世界を認識し、跳ぶ資質を持っていることになる。

小次郎を地面に立たせてその前に腰を屈める。

「小次郎。お前がもう少し大きくなって、その時俺と同じように誰かを助けたいと願うなら、俺のところに来い。お前をヴァニシングレイダースに入れてやるよ。」

「ぐー♪」

どのくらい理解したのかはわからない。

それでも再会の約束と男同士の誓いは伝わったはずだ。

俺がゲートを開いても小次郎はしっかりと水晶を握ったまま俺を見つめ、泣いたり追いかけてこようとはしなかった。

親指を立てると小次郎も真似る。

心は通じ合った。

「またな、小次郎!」

「ぐー!」

元気な小次郎の声に見送られて俺は獣人の世界を後にした。

「獣人の小次郎か。」

(ファリアがいて俺がいて、小次郎が加わる予定のヴァニシングレイダースは今後も仲間を増やしていくだろう。)

それを思うと楽しくて仕方がなくなる。

ファリアを探す果てなき旅、そこに仲間を探す楽しみを加えてもバチは当たるまい。

「さてと。次の出会いに期待して、行きますか!」

そして俺はまた別の世界に飛んでいく。

赤い糸が導く出会いにたどり着くまで。


これにてVanishing Raidersは最終話です。


ですが、続編に続きます。

続編タイトルは「Vanishing Lovers」です。

果たして勇はファリアと出会えるのか。


しかし、なんと主人公は勇ではない!


続編をお楽しみに。

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