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Vanishing Raiders  作者: MCFL
37/43

第37話 親友

振り下ろされた槌を踏み台にして飛び上がり

「一馬、すまんっ!」

一馬の頭を踏み台にしてもう一度跳ぶ。

後ろからゴンという音が響くのを無視して国枝に剣を振り降ろす。

芝中と競り合っていたためこちらへの対応が遅れた国枝が振り返った時にはすでにこちらは攻撃に入っていた。

「やらせんよ、葛木君!」

「それはこちらのセリフよ、生徒会長!」

防御に入ろうとした会長をさらに芝中が狙う形になり会長の防御がわずかに遅れる。

「死ぬなよ、国枝!」

「!」

一瞬生まれた絶好のチャンスに俺は迷うことなく剣を振り下ろした。

ザシュッと肉を切り裂く感覚が手に伝わり、国枝を抱くように庇った会長の背中を深く切り裂いた。

「何をやっておるか、役立たずが!今じゃ、もろともに叩き潰すのじゃ!」

魔女の怒声が上がるが舘野の攻撃は明らかに弱々しく簡単に受け流せた。

(やっぱり、そういうことか。)

俺はハッピーエンドの糸口を掴んで笑みを浮かべた。

俺たちが選んだのは1対2ではなく敢えて2対4の構図である。

これは分かれるときにいつも俺には一馬と会長が来ていたことを疑問に思ったからだ。

もしもそこに何かあるのではないかと危険を承知の上でやってみたが、ビンゴだ。

(会長たちが受けているのは洗脳だ。だから本人の思考は残っている。)

会長と国枝、一馬と舘野はもともと知り合いだから多少なりと相手を気遣おうとする。

だからそれを防ぐために2手に分けたのだ。

ならばこちらからそれを引き起こしてやればいい。

会長は国枝に支えられながら、それでも笑顔のままだった。

「痛いじゃないか、葛木君。」

「痛いなら痛そうな顔をしたらどうなんですか、会長?今の会長は人形みたいですよ?」

会長はもうフラフラしているのに剣を構えて迫ってくる。

俺は残りの3人を芝中に任せて会長と対峙した。

剣を合わせて振るうとガギンと音を立てて火花をあげる。

「会長が前に語ってくれた理想は、皆が平和に生活できる世界を守るって願いはこんなことをしなくちゃ達成できないんですか!?ヴァニシングレイダースは何のために作られたんですか!?」

「葛木、君。」

会長の力がわずかに緩んだところで一気にけりをつけようとした

「勇君、行ったわ!」

「会長はやらせません!」

そこに駆け込んできた国枝のフレイルで剣を弾かれて体勢を崩されてしまった。

「もう一撃…」

「させるかよ!」

転びかけた反動を無理矢理利用して国枝の腕を蹴り飛ばす。

「あっ!」

今度はバランスの崩れた国枝に向かって肩から全体重をかけたタックルを放ち吹っ飛ばす。

「国枝君!」

会長はボロボロの体なのに弾かれた国枝を受け止めて一緒に地面を転がった。

抱き合って倒れる2人の姿が生徒会で見た日常の2人と一瞬重なって見えた。

「ええい、使えん奴等じゃ。貴様らを救ってやったのは誰だと思っておるか!」

「…」

会長も国枝も動かない。

魔女はここまで聞こえるほど歯をぎりりと噛んで魔力を放出した。

「よう見ておくがええ。その体はこう使うんじゃ!」

魔女が舘野を指差すと

「きゃあ!…い、いや!」

突然悲鳴をあげながら芝中に抱きついた。

「しまっ…」

ドーン

一瞬何が起こったのか理解できなかった。

舘野の体が内側から破裂して傷だらけの芝中が地面に倒れ伏して動かない。

それがようやく魔女の仕掛けた自爆なのだと気づき、芝中がやられたのだと理解した。

「し…」

「舘野ー!」

今の世界では接点がほとんどないはずの一馬が舘野の死を前に叫んだ。

その表情は、泣いていた。

「一馬、お前。」

「なんで、なんで舘野を…」

一馬は俺なんて見ておらず怒りを魔女にぶつけた。

だが魔女は鼻で笑うだけ。

「死にかけていた貴様らは駒として使えると思って拾ってやったまでじゃ。駒をどう使おうがわしの勝手じゃろ?ほれ、お前もわしのためにあの小僧を道連れに華々しく散るのじゃ!」

「やめ、やめろ!うわああ!」

魔女が指を指すと必死に叫ぶ一馬とは裏腹に体は俺に向かってきた。

芝中が一撃で倒されるほどの威力だから捕まるわけにはいかず俺は逃げ回るしかない。

「ヒェッヒェッヒェッ、逃げ回らんと駒もろともこっぱみじんじゃぞ?」

「うるせぇ!俺の親友を駒とか呼ぶんじゃねえよ、ババア!」

カチンと来て叫ぶと魔女は気に障ったらしく

「何をしておるか!さっさと其奴を殺してしまえ!」

と顔を真っ赤にして憤慨した。

「…勇、聞いてくれ…」

「一馬!?絶対助けてやるからな、だから…」

「もう、手遅れだ。」

振り返った俺は一馬の体が中から真っ赤に光っているのを見て、一馬の言葉の意味に気づいて硬直してしまった。

抱きつかれる直前に腕を広げたが腕を万力みたいな力で締め上げられて動きを封じられてしまう。

「勇、俺さ、お前が親友でよかった。こんなになった俺を、親友って。」

一馬の体が不自然に盛り上がる。

「だから勇、頼む。俺を、殺してくれ。俺は親友だって言ってくれたお前を殺したくない。」

「バカなこと言うな!絶対、俺が助けてやるから!」

必死に振りほどこうとするがびくともしない。

一馬は慈しむような笑みを浮かべた。

「こんな体じゃ、生き残ったってただの化け物だ。それなら、人として遠藤一馬として、お前に看取ってもらいたいんだ。頼む。」

一馬の体は赤熱するように赤く輝きを放ちもう終わりが近いことを告げていた。

俺は悔しさに唇を噛み千切り、悲しさに血が滲むほど拳を握り、そして親友の最期の望みを受けて剣を握る手に力を込めた。

「サンキュー、勇。」

俺の意思を言葉ではなく心で受け取った一馬は

「うおおお!」

最後の力を振り絞って俺を戒めから解き放つ。

解放と同時に俺は剣を両手で振りかぶった。

(一馬…)

ずっと俺と一緒だった。

いつまでも一馬とは一緒に笑い合えると思っていた。

「一馬…ごめん。」

俺は全力で一馬を一刀両断した。

膨大な力は世界に溶け、一馬もろとも消え去った。

俺は剣を振り抜いたまま動けない。

一馬は俺に斬られる瞬間まで、涙を流しながらも穏やかに笑っていた。

俺が悲しまないように最後まで笑顔でいてくれた。

優しい優しい、俺の親友。

「一馬ァー!」

俺は震えるほどの哀しみを声に出して叫び、泣いた。


「ヒェッヒェッヒェッ、予想外じゃったがまだ駒は2つあるからの。それを使って…」

「どうするつもりですか?」

「な、なんじゃ、貴様ら!?」

魔女の叫びに目を擦って顔を上げると会長と国枝が魔女を羽交い締めにしていた。

魔女はじたばたと暴れるが単純な力ではほとんど無力と言えるので抜け出すことはできないようだった。

「会長!国枝!」

魔女に攻撃を仕掛けるチャンスだというのに嫌な予想が足を踏み出すことを躊躇う。

「葛木君、いろいろとすまなかった。君にはやるべきことがあるのに手を煩わせてしまったね。」

なぜ会長はこんな時にもいつも通りなんだ。

もっと泣いて助けを求めてくれればいいのに。

そうすれば助けるって言えるのに、2人の纏う雰囲気がそれをよしとしていないことが分かってしまうから動けない。

「だからこちらの幕は私たちが引くとしよう。」

会長と国枝の体が一馬と同じように赤く輝き出す。

それを見て魔女が大きく目を見開いて振り返り暴れだした。

「わしの命令が聞けんのか!?離せ、離すのじゃ!」

魔女は暴れるが悪魔の力を宿した力からは逃れられない。

「あなたは人間の意思の力を侮りすぎたのですよ。平和な世にあなたは危険すぎます。」

「この身が世界を救う助けになるのなら…」

「会長!国枝!やめろ!」

会長たちから放たれる光は臨界を超えて赤から白へと変わっていく。

体がボコリと膨れ上がり国枝の顔が苦痛に歪む。

「すまないな、国枝君。こんなことに付き合わせてしまって。」

「いいんです。私は、ずっと会長についていきます。」

「ありがとう。」

2人は穏やかな笑みを浮かべて俺に最後の言葉を言う。

「先程の答えがまだだったね。なぜヴァニシングレイダースを作ったのか。」

以前に学校の平和のためだと言っていたはずだ。他にどんな理由があるというのか。

「1人の女性が夜の校舎で寂しげに誰かを待っている夢を見たのだよ。何故だか私はその人に葛木君を会わせた方がいいと思った。」

もう会長たちの体は終わりを迎えようとしている。

「やめい、やめるんじゃー!」

「ヴァニシングレイダースとはきっと、2人を巡り会わせるためのものだったのだ。今ならはっきりと言えるよ。君が彼女と巡り会えることをねが…」

ボコリと一際大きく膨らんだ瞬間、会長と国枝2人分の爆発が起こった。

爆風で俺は後ろに弾き飛ばされそうになるのを堪える。

「会長ー!」

会長のおかげで俺はファリアと出会うことができたんだ。

ヴァニシングレイダースとしてヴァニッシュと立ち向かった日々が思い起こされる。

親友に続き、尊敬する先輩まで失った俺は、グッと歯を食い縛って膝をついて泣きそうになるのを堪えた。

皆が繋いでくれた道を、想いを無駄には出来ないから。

悲しみを糧に俺は一歩を踏み出した。


「なぜじゃ、なぜわしがこんな目に…」

魔女は右腕を失い血に濡れてボロボロになったローブ姿で爆心地から命からがら逃げ出した。

人心操作は何度も行ってきたが今回のような離反は初めてだった。

「次は、もっと強力な暗示を…」

「次があるわけないだろ。」

ギクリと魔女の体が恐怖に震え、脅えて見開かれた瞳でゆっくりと振り返る。

「き、貴様…わ、わしを殺せば世界にまた大きな歪みが…」

バン

「ヒッ!」

「関係ねえよ。お前だけは、絶対に!許さない!」

鬼神の怒りの形相で振るわれるは光の刃、それが魔女を両断した。

「ギャー!」

断末魔すら掻き消されて魔女は消滅した。


魔女が緑色の炎となって消滅すると無限遠の狭い部屋は徐々に輪郭を失って気がつけば消えていた。

立っていたのは結界に阻まれた道の真ん中で、結局ここで足止めを食っていたことになる。

周りに亡者の姿が見当たらないが、それが魔女を倒して亡者が消えたからなのかこの辺りに人間がいなくなって別の場所に移動したのかは定かではない。

今はそれどころではないのだ。

学校に向かうときに感じていた嫌な予感がさらに強まっていた。

「おい、芝中、大丈夫か!?」

俺はすぐ近くに倒れていた芝中を抱き上げる。

幸い息はしていて揺するとうっすらと目を開いた。

「やったのね。」

「…皆のおかげでな。」

芝中はそうとだけ呟いて立ち上がった。

芝中も俺と同じ、前を向いて進むことを選んだようでまっすぐに学校を睨み付けていた。

「急ぎましょう。」

「ああ。」

俺たちは一度だけ振り返り、学校に向けて駆け出した。


ミシリ


世界の壊れる音が響く中を俺たちはちっぽけな希望を掴むために必死になって駆けるのだった。

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