表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Vanishing Raiders  作者: MCFL
32/43

第32話 デートに行こう

翌日の学校は真実が伝わらぬままかなりの大惨事となっていた。

「隕石が降ってきた」

「暴走族が暴れまわった」

「ただの痴話喧嘩じゃない?」

微妙に真実を掠めた意見もあったが結局真実を知る者は世界の理から外れたごく一部の人間(?)だけだ。

ファリアがいなくて暇だったので久しぶりに生徒会室に向かったが騒ぎの後始末で忙しそうだったので合掌して立ち去った。

今日も芝中は教室の前で窓の外を見ていた。

「なかなか面白いことになってるわね。」

「傍目にはな。何度死ぬかと思ったことか。」

敵を見掛けたから自分で向かっていって死にかけたのだから自業自得だが愚痴くらいは許されるだろう。

ぼやく俺を芝中はジッと見ていた。

「なんだ?」

「またフラれちゃったみたいね。今回はうまく行くと思ったんだけど。」

どうもファリアとの仲が元に戻ったのを見抜かれたようだ。

「確かに孤独は辛いと思ったけど、ファリアが居てくれればいいんだ。これがこちら側に来た時から変わらない望みだから。でも芝中がいてくれると楽しいから孤独じゃないか。」

芝中はすごく複雑な顔で

「勇君は酷い人ね。」

と呟いた。

でもこれも俺の本心だ。

恋愛は抱けないが友愛という意味で芝中は俺にとって大切な相手だから。

「振ったのに一緒にいたいなんて少し虫がよすぎるんじゃないかしら?」

かと思いきや余裕の笑みで揺さぶりをかけてくる芝中嬢。

本当に女は怖い。

しかし財布の中身が…

(あ、そう言えば。)

「わかった。今度の休みに2人で1日デートでどうだ?」

「っ!?…本当にいいの?」

思わぬ提案だったのだろう、芝中は逆に心配そうに尋ねてくる。

「多分なんとかなる。心配しないでいいぞ。」

「ファリア・ローテシアをやりくるめられる?」

グサッと一番痛いところを的確に突かれて言葉に詰まる。

「…大丈夫、だと…いいな。」

「そう。」

芝中は期待していないのがまるわかりな口調で呟いて去っていく。

(うう、情けない俺。)

と思ったら芝中は立ち止まった。

「楽しみにしてるから。」

恥ずかしそうに笑う芝中にドキリとさせられる。

そんな笑顔がまた見られるなら多少の苦労は喜んで引き受けるとしよう。

「さって、頑張るか。」

とりあえずやるべきことがある。

そのために俺は歩き出した。


「おや、葛木君。すまないが今忙し、わ、わかったから落ち着きたまえ。…はっ?あの約束とはいったい?…ヴァニシングレイダースに入るときに言ったリバーファンタジアのチケットをまだもらっていない?いや、あれは方便で…わー、わかった、用意するから机を振り上げないでくれ!…2枚だね。わかった。しかしいったい誰と…わかった、私は何も聞いていない。明日までには用意する。はぁ。」

というわけで行き先は決定した。

リバーファンタジアは去年出来たばかりの水をテーマにした遊園地、今がまさに絶好の季節の遊び場である。

「まあ、本当はファリアと行きたかったんだけど今の状態じゃ1人で無駄に楽しそうにはしゃぐイタイやつにしか見えないからな。」

さて、決行はなんと明後日。

それまでに準備を進めつつファリアには勘ぐられないようにしなければならない。

そろそろホームルームが始まる時間なので教室に戻ると

「あれー、芝中さん何かいいことでもあった?」

「そんなことないと思うけど、どうして?」

「んー?なんかすごい楽しそうだから。」

そんな会話が聞こえてきた。

確かにいつも厳しい感じのする芝中から柔らかいオーラが見える気がする。

顔を会わせても小さく笑みを浮かべるだけなのだから演技上手なものだ。

席について、頭を抱える。

(楽しみにしてるのか。ならファリアに真相を話して一緒にっていうのはダメだな。上手く誤魔化せるかな?)

帰るのがすでに憂鬱になりながら本日の学業開始の鐘の音を聞いた。


うきうきが止まらないぜの芝中と別れた帰り、ファリアに渡されたメモを手に買い物をしている時にふと目が行った先にあったものを見て閃いた。


作戦その1、甘いもので誤魔化そう。


「はい、土産。」

商店街のケーキ屋の箱を手渡すとファリアは目をぱちくりさせた。

あまり喜んでいるように見えない。

「もしかして要らなかった?」

「いえ、ありがとうございます。嬉しいですよ、ええ。」

どうにも

「ワーイ、ありがとー!」

と狂喜乱舞するのを予想していただけに拍子抜けしてしまう。

さすがにワーイとは言わないだろうが。

「すぐにご飯の支度をしちゃいますから、待っていてください。」

ファリアは箱を開けることもなくキッチンに向かってしまった。

女の子が甘いもの好きというのはファリアには当てはまらないのか。

…別にファリアが女の子ではないという意味ではなく。

その後も夕飯は少ししか食べないし食後もこそこそと何かやってると思ったら

「ちょっと出掛けてきます。」

と何処かへ行ってしまい、帰ってきたら今度は長風呂、挙動不審すぎである。

部屋に戻る旨を伝えたが最近は同衾が標準と化しているので先に寝てしまうのも悪いと思い漫画を読んで適当に過ごす。

が、全然戻ってこない。

「ふああ、水飲んで先に寝よ。」

キッチンに降りて明かりの漏れるドアを開ける。

「…」

「あ…」

そこではファリアがバスタオル姿でものすごく嬉しそうにショートケーキの上に乗ったいちごを頬張ろうとしていた。

俺と目が合うといちごよりも真っ赤になって涙目になった。

「ふえーん!」

俺にしか聞こえない大音量でファリアの叫びが響き渡った。


結論から言えばファリアはやっぱり女の子だということだ。

「最近の私は家事をしているとはいえ基本的には引きこもり、余剰カロリーはすぐにでも脂肪に変わってしまいます。」

先ほどの扇情的な格好からパジャマに着替えたファリアはいつもより興奮した様子で高説する。

フォークの手は止まっていない。

「ですが、せっかくユウが私のために買ってきてくれたケーキを無駄にすることは出来ません。だから夕飯を減らし運動し汗も一杯流したんです。それでもまだ足りないんでしょうか?」

ショートケーキを完食してモンブランに手を伸ばそうとしているファリアに気圧されながら率直な意見を述べることにした。

「あー、とりあえずケーキより先に水分取らないと。」

「へ?」

と言ってるうちにファリアはくらりと倒れてしまった。

「ほら、言わんこっちゃない。」

「けーきー。」

ファリアに水を飲ませてお姫さま抱っこで部屋に連れていく。

「って、結局ごまかしてないじゃん。」

そんなこんなで夜も更けていく。


皆さんも脱水症状にご注意ください。


翌朝

「おはよう、勇君。」

登校中にきらきら輝くような喜びを溢れさせた芝中が声色だけいつも通りで挨拶してきた。

「あ、ああ、おはよう。」

過度の期待は現実で大抵落胆するものだから今から気が重い。

「あ、行き先、リバーファンタジアにしたから。」

「本当に!?一度行ってみたかったのよ。」

芝中のテンションがさらにあがってスーパーテンションになった。

クールな芝中は何処へやら。

という思いが伝わったらしく芝中は恥ずかしそうに縮こまった。

「ごめん、はしゃぎすぎた?」

「いや、芝中もそういうのに興味があるんだなと思っただけだ。安心した。」

行き先のチョイスは当たりだった。

あとはファリアをどうするかだけだ。

下駄箱のところで別れると生徒会室に向かう。

昨日ほどではないにしても忙しそうな役員を心の中で労いつつ会長に声をかける。

「ああ、葛木君。おはよう。」

「おはようございます、会長。で、例の物は?」

催促すると会長は渋々といった様子で懐からチケットを取り出した。

「だれも引き受けてくれないから特典で釣ろうとした報いか。まあ、葛木君はいろいろと頑張ってくれているしその報酬とでも思ってくれ。」

「ありがとうございます。これからもヴァニシングレイダースの活動に全力を注がせていただきます。では!」

俺が生徒会室を出た後

「いや、あれは…わー!」

会長の悲鳴が聞こえたような気がした。


昼休みは最近いつも来ている気がする屋上でファリアお手製簡単に作れそうに見えるお弁当を広げる。

全部冷凍食品のように見えて実は全部ファリアの手作りという無駄に凝った弁当なのだ。

ファリアの愛情を感じながらそれに背く行為を計画している自分にダメ出しをする。

「やっぱりちゃんと話した方がいいよな。」

ファリアだって理由を話せばきっと納得してくれるはず。

だけどその理由は

『ファリアと2人きりだと寂しいから友達もいてほしい。そのためにちょっとデートしてくる。』

(駄目だ。何がとは言えないがなんかダメな気がする。)

そもそもリバーファンタジアはファリアが家でテレビを見ているときに

「楽しそうですね。一度でいいから行ってみたいものです。」

とか言ってたのだからそこに芝中と2人きりで行くというのはやっぱりまずい。

「適当に誤魔化すしかないか。」

携帯がなったので見てみれば

『明日は何時にどこに集まる?』

と芝中から。

教室に戻れば話せるというのに、相当楽しみなのだろう。

『何時でもいいよ。』

送信とほぼ同時に

『それなら朝7時に駅前に集合。』

「返信早!集合時間も早いから!」

俺は思わず携帯に突っ込みを入れてしまった。

結局朝9時に駅に集合して向かうことにし、いよいよ準備が整ってきた。

「女の子と1日出掛けてくる、はデートと変わらない。一馬と…は本人がファリアに見られる可能性が…」

俺はデートに至るまでのファリアの説得の仕方を延々と考え続けるのだった。


すみません、芝中さん。

「ユウ、これは一体どういうことですか?」


…バレました。


それは結局作戦その2が思い浮かばないまま家に帰りついた後のことである。

「お帰りなさい、ユウ。」

綺麗な女性に笑顔でお出迎えされる新婚気分は結婚未経験の身でもこそばゆいもので

(結婚か、いいよな。)

と考えさせられる。

ファリアの方もそんなノリらしく

「ご飯にしますか、それともお風呂、それとも…」

それともの先を!と声だかに叫びたいところだが冗談として

「汗かいたから風呂に入るよ。」

ファリアに買い物してきた荷物と鞄を渡して風呂場に向かった。

…その選択が誤りであることに気付かずに。


さっぱりすっきりさてさてファリアをどうやって誤魔化そうかとやって来たリビングではさっきまでの新婚ムードはどこへやら、離婚間際の仮面夫婦の食卓みたい重く暗い空気が満ちていた。

テーブルの上にはリバーファンタジアのチケットがはみ出した鞄、ファリアの手には俺の携帯が握られていた。

「ユウ。座ってください。」

「…はい。」

抵抗なんて考えられず俺は言われるがままにファリアの正面の席、裁きの場へと腰を下ろしたのだった。


そして今に至る。

ファリアはすでに「夫が浮気しているのではと疑っている状態」から「浮気の証拠を押さえて責め立てる状態」へと移行している。

はぐらかしたところで文面を見ただけでデートだとわかる内容のメールが証拠として提示されるだけである。

これを見越してメールを送ってきたのなら芝中は相当な策士だ。

もはや誤魔化すことは不可能。

「明日芝中とリバーファンタジアに遊びに行くんだ。」

正直に話すより道はない。

ファリアは俯いていて表情は窺えないから余計に怖い。

私も行きたいのにとか自分だけずるいとか、芝中と一緒だなんて許せないとかそういった怒りや嫉妬が延々とぶつけられることを覚悟した。

「そう、ですか。」

ファリアは聞き取れないほどか細くそう呟くと

「ごめんなさい。」

テーブルに頭をつけるほど深く頭を下げた。

あまりに予想外の反応にこちらの方が困惑してしまう。

「ファリア?怒って、るよな?」

「はい。」

即答だったがどう見ても泣きそうだ。

(うあー、怒られるよりきつい。)

「なんで私ではないのか、芝中さんとなんてずるいですとか言いたいです。でも、今の私には一緒に行ってもユウに迷惑をかけることしか出来ません。」

ファリアの謝罪と涙の理由がわかってしまい俺も気が重くなる。

俺が1人ではしゃぐ変人に見られるのは良いとしてもファリアがそれを気にしないわけがない。

ファリアはそういう優しい女性だから。

ファリアの気持ちも考えず誤魔化す事ばかり考えていた自分が情けない。

重くなってしまった空気の中ファリアは恐る恐る顔を上げた。

「1つだけいいですか?もし私が普通に認識されていたら私を連れて行ってくれましたか?」

「もちろん。」

それは自信を持って答えられる。

周囲の視線なんて関係ない、俺はファリアと楽しい時間を共有したいんだから。

ようやくファリアが笑ってくれた。

「そういうことなら仕方ありません。楽しんできてくださいね。」

なんとかファリアのお許しをもらって気が抜けた俺はテーブルへと突っ伏した。

「ですが…」

雰囲気が再びお怒りモードに移行したかと思った瞬間、頬がつねられた。

「夜のお楽しみまで楽しんでこないようにしっかりとしてくださいね。」

「ふぁい。」

前科があるだけに信用されてないのも仕方ないとは思いつつやっぱりちょっと悲しい俺だった。

その夜、やっぱり不安なのかファリアは俺から離れようとせず抱き合ったまま寝ることになったのでドキドキしてなかなか眠れなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ