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Vanishing Raiders  作者: MCFL
31/43

第31話 壮絶なる痴話喧嘩

「ぬあー!」

戦闘開始早々、俺はファリアの恐ろしさに根を上げることになった。

ファリアは遠距離ではヴァニッシュで周囲のものを俺に向けて倒れるようにして足を止めさせ、その隙に剣の間合いよりも更に中に入ってナイフによる素早い連続攻撃を繰り出してきた。

ファリアは戦闘を組み上げるセンスがとんでもなく高かった。

落下する物体の軌道と俺が回避する方法を先読みしてそこに罠を張って足を止め、近づいても絶妙のナイフ捌きで俺の攻撃を受け流す。

結果として俺にはとりあえず足を止めないように逃げるのが精一杯だった。

「さっきの威勢はどうしたんですか?傷物にされるのも…いいかも…じゃなくて、問題ですがこのまま一晩中逃げるつもりですか?」

フフフなんて笑って周囲を破壊しながら迫ってくる姿はいろんな意味で怖い。

だが挑んだところで行き当たりばったりの俺では戦略家のファリアには簡単にいなされてしまうだろう。

(別にファリアを倒す必要は無い。要は戦意を喪失させればいいんだ。)

逃げ腰の意見ではあるがそれが一番誰も傷つかないですむ方法だと自分を納得させる。

「ファリア、やめるんだ。どうして俺たちが争わなければならないんだ!」

それには武器は必要ない。

人類はいつだって対話によって平和を勝ち取ってきたのだ。

教室の壁に張ってあった廊下を走るなの張り紙の画鋲が偶然なくなって俺の視界を塞ぐように舞う。

それをかわした先でたまたま枠から外れた窓ガラスが倒れてきたのを走りながら受け止めて足を止めずに地面に置く。

幻聴であってほしいが後ろから舌打ちするのが聞こえた気がする。

「何故って、ユウが勝手なことばかりするからでしょう。」

「だけどあいつを放っておくわけには…」

言い終わる前に落ちてきた蛍光灯を避けるためにすぐそこにあった教室に転がり込んで勢いよくドアを閉めた。

ガシャーンと派手な音が背にしたドアの向こうから聞こえた。

「はあ、はあ。過激だな。」

スッと突然背を預けていた感触が消えたため反応できるわけもなく重力諸々に逆らうこともできずに倒れ込む。

眼前にはとても素敵な笑みを浮かべたファリアさんが立っておられました。

残念ながらファリアはスカートの長い私服、

「うーん、見えない。」

「きゃっ!ユ、ユウ!?」

ファリアは恥ずかしそうにスカートを押さえて数歩後ずさった。

その隙に上体を起こす反動で跳んでファリアとの距離を取る。

ファリアはまだ頬を赤くしたまま不機嫌そうに睨んできている。

戦意が薄れた今しか説得のチャンスはない。

「俺はこの世界を守ってファリアと一緒にいられるようにするために戦うと決めた。それがいけないのか?」

ファリアは答えず俯いた。

世界への回帰もまだ捨てたわけではないが少なくとも嘘はない。

ファリアにはずっとそばにいてほしいという始まりの思いだけは今も胸の中で揺らぐことはなかった。

ファリアはため息をついて顔を上げた。

その表情にはすでに敵意はなくただただ不機嫌そうだった。

「その想いはすごく嬉しいです。でもこれ以上世界に刺激を与えればいつ滅びてしまうか分からないんですよ。」

ファリアという存在をすべて消し去らなければならないほどに限界まで歪んだ世界の臨界点をファリアは誰よりも感じているのだろう。

「私にとって何よりも怖いのはユウが消えてしまうことです。だから私もこの世界を守りたい。でも、彼らを倒すことで生じた歪みによってこの世界はいつ滅んでもおかしくないんです。私はただ、ユウと一緒に…」

今度はファリアが言い終わる前に今にも泣きそうな彼女を抱き締めた。

すべてを捨ててでも俺といることを望んだために世界を守らなければならなくなり、世界を救うために何もしないことをファリアは選んでしまったのだ。

だけどそれは違う。

「ファリア。リゾルドが復活したらどのみちこの世界は終わりだ。俺は皆を、そして誰よりもファリアを守るために戦わなきゃならないんだ。」

当然わかっていたが、それでも俺が命の危険を冒すことが許せなかったと、ファリアはポツリと呟いた。

「…もういいです。勝手に化け物に戦いを挑んで大怪我すればいいんです。そうしたら少しは自覚してくれるでしょう。」

拗ねてしまったファリアはツーンと顔を背けたまま部屋を出ていってしまった。

「一応、勝ったのか?」

戦闘の結果としては釈然としないものもあるがファリアの思いも聞けてモヤモヤしていた気持ちも晴れた。

俺は剣を手に気合いを入れる。


「さて、随分と待たせたからな。盛大にもてなしてやるか。」



ゴーレムは俺とファリアの戦闘跡を辿るように中庭を歩いていた。

そのせいで花壇やら芝生やらが押し花みたいにぺちゃんこだった。

花を愛でられるほどの心があれば話し合いも出来ただろうにと思ったが土塊で作られたゴーレムに心を求めるのは酷な話か。

俺は仕掛けを確認し、ゴーレムが所定の位置に来た瞬間に3階の窓から姿を現した。

ゴーレムは即座に気づき足を止めて上を見上げる姿勢になる。

俺は近くの教室からかき集めた箒を適当に投げつけた。

もともと岩のような頑強な体を持つゴーレムには木製の箒など効きはしない。

それでもゴーレムは周りを舞う羽虫を追い払うように手を払っていた。

それを確認して次の作戦に移る。

「食らいやがれ!」

暗幕にくるまれたものをゴーレムに放り投げる。

中身の見えない物体が相手でもゴーレムは避けるようなことはせず自身の頑丈さと力を唸らせて落下物を叩き落とした。

中身は椅子、それが暗幕の切れ端を巻き込みながらアメ細工みたいにひしゃげて地面に転がった。

「どんどん行くぜ!」

暗幕に包んだものを次々に投げ込んでいく。

椅子、机、教卓、適当にかき集めたものを片っ端から暗幕で覆い正体を隠してゴーレムにぶつける。

あの目はただの弱点で飾りなのか中身が何であれ豪快に腕を振るって撃墜していた。

その落下物に紛れて

(行くぞ。)

暗幕に身を包んだ俺自身が校舎の3階から、跳んだ。

命綱のないバンジージャンプは重力加速度によって速度を上げていく。

突然ゴーレムは飛んできた暗幕を叩き落とさずに掴むと俺に向けて投擲してきた。

「なっ、気づかれた!?」

咄嗟に身を捻ってかわすが暗幕を持っていかれてバランスを崩す。

もはやゴーレムは俺にだけ標的を絞って全力で迎撃しようとしていた。

空中に逃げ場はなく落ちた先はまさに地獄。

「だけどな…」

暗幕が完全に取り払われる。

そのうちから現れるのは溢れんばかりの目映い光の波。

俺は光凰裂破の光を剣に宿してゴーレムへと向かっていたのだ。

剣を担ぐように両手で構えて照準をゴーレムに合わせる。

「一か八かの大博打、受けてもら…」

もう光凰裂破を放つ直前、最後の最後になって致命的な誤算が生じた。

ゴーレムが俺に向けていた腕が勢いよく飛んだのだ。

(ロケットパンチ!?)

身を捻ってよければ光凰裂破が狙えなくなり、この腕を撃ち落とすには時間が足りない。

もはや万事休す。

「せめて相討ちくらいには!」


「そんなこと、私が許しませんよ。」


パーン

眼前に迫っていた質量の塊が跡形もなく消滅した。

そのことに疑問は持たず、ただ道が開けたという事実のみを受け入れて目前の敵を見据える。

振るうは我が必殺剣!

「光凰裂破ー!」

光刃は光の波でゴーレムを焼き、斬撃によって切り裂き土へと還す。

ゴーレムが消滅する緑色の火の粉の中をかなりのスピードで地面に向けて落ちていく。

(やっぱり逆噴射みたいに上向きの推進力は出なかったか。ごめんよ、ファリア。)

最期の瞬間を見るのはさすがに怖くて目をつぶる。

体が重力に引かれて固い地面に向かっていき、

ポフ

何も起こらずただ地面に腰を下ろした感覚だけが伝わってきた。

実は地獄の閻魔様の前に座らされているのではと恐る恐る目を開いた先には

「ぎゃー、閻魔様!?」

「誰が閻魔様ですか!」

とてもお怒りのご様子のファリアさんが仁王立ちしていた。

「あの、俺…」

「ふう。ユウが地面に衝突する瞬間にユウに掛かっていた"速度"を消滅させました。」

ファリアはつかつかと俺の前に来てしゃがみこむとギューっと俺の頬を引っ張った。

「いひゃい。」

「一緒に生きると言ったそばからこんな危険なことを。私がどれだけ心配したかわかってますか?」

わかってるとは答えられなかった。

危ないとは分かっていたのに躊躇うことはなかったのだから。

どうしてそこまでして倒さなければならないと思ったのか、自分のことだというのによくわからなかった。

「まだ猶予はあるはずですから今回のことで世界が消滅することはないでしょう。」

「ふぉーふぁ、よふぁっふぁ。」

「全然よくありません!ユウにはいろいろと言いたいことがありますからとにかく帰りますよ。」

帰るのは怖いがここでファリアに抵抗すると本気で簀巻きにされてその辺に転がされそうでもっと怖いので素直に従う。

くどくど愚痴を漏らしながら俺はファリアに引きずられて家に帰り、一晩中正座のままお説教されたのであった。




ゴーレムが消滅した地点にただ一つ、赤く光る目だけが炎にならず残っていた。

バサッ

ゴーレムの目に寄生していたそれは翼と足を伸ばして本来の姿を取り戻す。

数度羽ばたいた後ふらふらと空に舞い上がった。

学校の屋上にはドラゴンカインドが立っていた。

「ご苦労だった、イービルアイ。」

口を持たぬイービルアイは鳴かず、ただドラゴンカインドの腕に止まった。

もう片方の手でイービルアイの頭に触れる。

その腕には勇に斬られた傷は残っていなかった。

「あとわずかだ。いよいよ我が祈願が成就する時が来る。」

イービルアイがドラゴンカインドの腕から飛び立ち、後ろで傅く者の肩に止まった。

「最後の仕上げだ。思うままに動くがいい。」

「ヒェッヒェッヒェ。」

不気味な笑い声を上げてそれは生暖かい風と共に消えた。

ドラゴンカインドは欠けた月を見上げて目元に笑みを浮かべた。

「今度こそ我が野望の邪魔はさせんぞ、消滅の魔女、そして光の騎士よ。」

月明かりを浴びてドラゴンカインドの後ろに伸びる影は巨大な竜の姿をしていた。


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