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Vanishing Raiders  作者: MCFL
21/43

第21話 帰ってきたもの

今日でテストも終わり、うちの学校にテスト休みはないがもう休みに入ったようなものだ。

「俺はまだ試験があるんだけど。」

そんなわけで素直に喜べない俺だが

「どうせ来週だろ?今日くらい遊んだって大丈夫だって。」

「何事にも息抜きは必要よ。」

気の緩んだ一馬たちがそんなことを配慮してくれるわけもなく遊びに行くことに決定していた。

3人だとバランスが悪いから舘野を、と目を向けたがすでに席は空だった。

なんとなくやるせない気持ちになるがどうしようもない。

急かされた俺は逃げるように教室を後にした。

ファーストフードで腹ごしらえをしてゲームにカラオケにショッピングを堪能する。

その間芝中はほんの少しだけ俺との距離を友達よりも近くしていたように思う。

帰り際、

「お前たち、ずいぶんと仲がいいみたいだな?」

さすが長年つるんできた一馬だけあって些細な変化に良く気づいていた。

芝中に目を向けると仕方ないといった感じに小さく笑っていた。

「まあ、そんな感じだ。」

一馬は俺たちを交互に見て一瞬同情するような目をしたように見えたがすぐに優しい笑みを浮かべた。

「…そっか。よかったな。」

一馬は手をヒラヒラと振って帰っていった。

その背中を見送っていると腕に芝中が抱きついてきた。

「勇君、行きましょう?」

芝中の瞳を見ているとくらくらしてきて他のことを考えられなくなる。

「…ああ。」

腕に伝わる芝中の温もりだけを感じながら俺たちはゆっくりと歩き出した。

空は刻一刻と夜に近づいている。



連れられるままに歩いた俺はなぜか昨日と同じ夜の教室で芝中と抱き合っていた。

「なんで学校なんだ?」

「この時間は人なんて来ないし、私学校にいると落ち着くのよ。変かしら?」

「いや、別に。」

俺の家でも構わないと思ったがなぜかそれを口に出すのは憚られた。

近づいてきた芝中の顔に吸い寄せられるようにキスをする。

芝中の色っぽい吐息に俺はどんどんのめり込んでいく。

「芝中…」

「幸恵よ。勇君。」

がっつく俺の唇に指を当てて妖艶に微笑む。

「幸、恵。」

「よくできました。」

再び塞がれた口の中を幸恵の舌がねぶり俺の思考を奪っていく。

背中に回していた腕が本能のままにまさぐり始める。

促されるままに思うままに。

「勇君。すべてを私に委ねて。そうすれば…」

もはや何も考えられない。言葉の意味も知らずただ欲望のままに頷く。

その方が楽だから、悩むことも苦しむこともないから。

幸恵は制服の胸元を開きながら嬉しそうに、愉しそうに笑みを浮かべた。

「よかった。これで勇君は…」


「私のものよ。残念だったわね、ファリア・ローテシア。」


ゾクリと悪寒が走った。

なのに体は指1本動かない。

芝中の瞳が妖しくきらめき俺の目を覗き込む。

「ファ、リア、を知ってる?」

なんとか自由に動いた口で疑問を述べるが自分の言葉自体に疑問を抱いた。

(なんでファリアを覚えているんだ?もしかしてファリアはまだ生きている?)

「知っているわ。ええ、とても。」

その言葉はどうして憎しみに彩られているのか。

背に回された指が俺に食い込み痛みが走る。

そのまま抱き寄せられて体が密着したというのに気持ちは恐怖で冷えていく。

「お前は、誰だ?」

目の前にいるのが誰だかわからない。

芝中に化けた化け物かもしれない。

だというのに芝中は不敵な笑みを崩さないどころかわざとらしく悲しげな顔をした。

「勇君の友達の芝中幸恵よ。前は2人に言い寄られてたところを助けてあげたのに酷いわね。」

一瞬血の流れが止まったような感覚だった。

(芝中は今何て言った?)

2人、芝中がいう2人とは彼女たち以外、佐川と舘野以外あり得ない。

だがそれ自体があり得ない。

改変前の世界を覚えていられるのは普通から外れた俺とファリアだけのはずだ。

だが本当に俺たちだけか?

世界から修正を受けないのは本来この世界にいないもの。

学校に現れていた化け物はこの世界の生物とは思えない。

(あ、そうか!ヴァンパイアは!)

俺を懐柔してファリアを誘き出そうとしていたヴァンパイアは確かに言った、同胞を倒した俺を憎まないと。

つまりヴァンパイアは仲間がやられたことを覚えていて、世界の修正を受けなかったことになる。

(でももしこれが事実なら芝中は…)

信じたくない仮説が頭をよぎる。

芝中はギリギリまで唇を寄せて笑っていた。

「残念だけど、勇君の考えた通り、私は…」


「ああー!!」


切迫した緊張を打ち破る叫びに芝中は動きを止めた。

その顔は歪み、舌打ちまでした姿はさっきまでの妖艶さはなく怒りに染まっていた。

そして俺は懐かしいと感じてしまうほどに久しぶりに聞いたその声に動かない体を必死に動かしてドアに目を向ける。

俺たちの視線の先には布に包まれた細長いものを抱き抱えて驚愕に身を震わせるファリアの姿があった。

「ファリア。」

すぐにでも駆け寄りたいが芝中のかけた術が解けていないせいで動けない。

驚いたのは分かるがなんでプルプル震えたまま俯いているんだろう?

顔を上げたファリアは暗い笑みを浮かべていた。

「ふふふ。私がいないことをいいことに夜の学校で一体何をするつもりだったんでしょうか?」

(ヤバい、ファリアさんがお怒りだ。)

生きててよかったとか再会できて嬉しいとかそんな感情よりも根源的な恐怖を感じる。

動けないはずのにカタカタと体が震える。

芝中もあまりにイメージと異なるファリアの様子に困惑していた。

ファリアは芝中など見ておらず目尻をピクピクさせながらゆっくりと近づいてきた。

「言い残すことがあるなら聞いてあげましょう。」

懺悔というよりは遺言を聞いてくれる雰囲気だがそれでもありがたい。

だって言いたいことがあったから。

「無事で、よかった、ファリア。」

俺の頬を涙が伝って落ちた。

ファリアは優しく微笑み、手に握った物で思い切り俺の体をぶっとばした。

机を巻き込んで派手に転がった俺にファリアが駆け寄ってきた。

「大丈夫でしたか、ユウ。」

俺を庇うようにようやく芝中を睨み付けたファリアに芝中も不敵な笑みを浮かべた。

「残念。もう少しで勇君を私のものに出来たのに。」

「芝、中…。」

「思い出しましたよ。あなただったんですね。サキュバス。」

芝中がフッと笑って手を振るうと教室内に竜巻が起こった。

「うわっ!」

風はすぐに収まり顔を覆っていた腕を退けた視線の先には芝中の姿はなかった。

芝中によく似た顔の、際どい水着みたいな黒い露出度満点な衣裳を着て足には紫色の網タイツ、背中には悪魔みたいな羽根を生やした人外の存在が机の上に立っていた。

「この姿になるのは久しぶりね。もっとも勇君の方は覚えていないのよね?」

「あ、そんなセクシーな服着た芝中なんて学校に入ってから一度も見てないぞ。お、女の子がそんな恥ずかしい格好するもんじゃないぞ。目のやり場に困る。」

ムチムチした太ももとかスベスベしてそうなお腹とかほとんど隠れてなくて意外と大きい胸とか正視できずに顔をそらしたらファリアと芝中はなぜかキョトンとしていた。

「コホン。誇り高いはずのサキュバスが泥棒猫に成り下がるとは、見損ないましたよ。」

「泥棒猫はどっちよ。こっちでは私の方が先に目をつけていたのに。」

どうやら顔見知りみたいだがいつもの化け物との戦いとは違いただ喧嘩しているようにしか見えない。

しかもどうやら俺を巡る口論らしく緊張感に欠けることこの上ない。

「うー!」

「むー!」

威嚇し合うように唸る2人を止めようか悩んだがその前に芝中が大きく後ろに跳んで別の机の上に乗った。

着地の際に胸が揺れて反射的に顔を逸らす。

「バレてしまったなら仕方がないわ。ファリア・ローテシア、あなたを殺して勇君を私の虜にするわ。」

「そんなことはさせません!ユウはもう私にメロメロなんですから。」

間違いではないがぶっちゃけないでほしい。

芝中もジト目で睨まないで。

「とにかくっ!覚悟しなさい!」

「ユウ、これを!」

芝中が飛び上がったのと同時に投げ渡された物の封を解いた。

直後芝中の放った疾風の刃が俺たちに襲いかかった。

机と椅子が粉々に砕け散り粉塵が巻き上がる。

「どうかしら?…ッ!」

粉塵が払われた光景に芝中が驚き身を固くした。

俺も驚いている。

「ファリア?」

「それがユウの新しい力です。」

手に握った物の封が風で薙ぎ払われてその全貌を現した。

それは一振りの剣、自信に満ちたファリアの示す通り、確かな力を秘めているのがわかる。

「それこそがユウの剣、ユウがかつて振るっていた友と呼ぶべき剣です。」

俺の手にはずっしりとした重みが手に馴染む剣が鈍く輝いていた。


俺の握る剣はそこにあるだけで異様なほどの存在感があった。

「この感じ…確かに懐かしい感じがする。」

軽く振ってみても重みや重心が以前の剣とは比べ物にならないほどしっくりときた。

「ファリア・ローテシア!そんな物まで持ち出して、本気なの!?」

芝中はこの剣を見て明らかに狼狽していた。

警戒の色が強くなっている。

ファリアはあくまで穏やかに、瞳に強い力を宿して頷く。

「本気だからこそ手間と危険を省みず呼んだのですよ。あれが現れた以上猶予はありませんから。」

ドラゴンカインドを思い浮かべて気を引き締める。

確かにあれと戦うためには強い武器が必要だ。

だが芝中の様子を見ているとそれだけではないような気がする。

芝中がギリと奥歯を噛んで睨み付けてきた。

「…そう。なら私も全力であなたたちを排除することにするわ。勇君、ごめんね。」

「え?」

一瞬だけいつもの芝中の表情だったがすぐに敵意に満ちた顔になり爪を振り上げて襲いかかってきた。

ファリアを狙った攻撃に割り込んで剣で防ぐ。

肉厚の刀身は芝中の攻撃を完全に防ぎ切り、さらに弾き返した。

くるくると回転して机に降り立つ芝中に心を鬼にして剣を向ける。

「ファリアは俺が守るって誓ったからな。やるなら俺を倒してからにしろ。」

「…どうして!」

芝中は机を蹴り倒すほどの勢いで接近してきた。

爪、蹴り、尻尾の変則的な連続攻撃もドラゴンカインドの攻撃に比べれば速さも重さも劣っていて捌ける。

「くっ。どうして勇君は!」

距離を取りながら放たれた風の刃を一刀両断して芝中を見据えた。

(躊躇ってる。やっぱりあれは芝中なのか。)

芝中が化け物の仲間だったことに対する失望と本気で攻められない芝中の迷いに対する希望が俺の動きを縛る。

「やめろ、芝中!俺はお前と戦いたくない!」

「私だって勇君とは戦いたくないわ!でも勇君がファリア・ローテシアを守るというなら私は戦う!」

俺はファリアを守るという誓いのために引けないし芝中にも戦う理由がある。

だけど戦う以外の方法で決着をつけることはできないのか。

「どうしてファリアを狙うんだ?」

プルプルと拳を握ってうつむく姿はきっととてつもない理由が飛び出す前触れのようで生唾が喉をならした。

「だって、こっちの世界では私の方が勇君の側にいたのにまたその女に取られたんだもの!絶対に許せないわ。」

「…え?」

えーと、それはつまり…そういうこと?

「何を言いますか。あっちだろうとこっちだろうとユウはユウです。ならばユウが私を求めたのも当然のこと、運命です。」

「あー…。」

やっぱりこの口論は緊張感に欠ける。

当事者なので無視することはできないし2人の好意はものすごく嬉しいからこそ2人には殺し合いなんてしてほしくない。

「芝中、もう止めようこんな戦い。」

「いいえ。ファリア・ローテシアから勇君を救い出すまで…」

「いや、そっちじゃなくて。」

どうも優先順位がおかしいが話を聞いてもらえそうなのはありがたい。

俺は戦意がないことを示すために剣を床に落とした。

ファリアは何か言いたそうにムッとしていたが任せてくれるようで何も言わなかった。

「正直、佐川が消えてファリアがいなくなって、凄く混乱していて芝中に甘えてしまった。」

佐川の消滅ことは簡単には受け入れられないけどファリアのことは俺がしっかり信じていればよかったのだ。

だから芝中に魅入られたのは俺の弱さ。

「…私のチャームが気の迷い扱いされた。」

ズーンとなぜか芝中が落ち込んでいた。

「俺たちはただ世界の破滅を防ぎたいだけだ。だから芝中、邪魔をしないでくれ。芝中だって戦いたくはないはずだ。」

そうであってほしいという願望だったが芝中が俯いた仕草は迷っているように見えた。

「だからって、私はリゾルドの眷属。勇君が倒してきた化け物と同じ存在よ。」

「でも芝中は芝中だろ?こうして話ができてファリアと喧嘩しているのは人間と変わらない。俺の友達の芝中幸恵だ。」

芝中は驚きの表情のままわずかに後ずさった。

腕を組んで話を聞いていたファリアは俺の側に寄ってきた。

「喧嘩などと言われるのは心外ですが、確かに邪魔をしないと言うのであれば消滅させる必要はないですね。」

「…本気なの?」

「ええ。ユウに手を出さないと誓うのなら、ですが。」

ピクリと芝中の頬がひきつる。

「そう。私に勇君を取られるのが怖いのね?」

今度はビシリとファリアの額に青筋が浮かんだ。

互いに笑顔のままビシビシと殺気を叩きつけ合うのは肉弾戦より怖い。

「うー!」

「むー!」

だが、こっちの方がずっといいと思う。

芝中はフイと背を向けるとそのままドアに手をかけた。

「今日のところはその剣の対策が立ててなかったから引かせてもらうわ。」

負け惜しみを漏らして芝中は普通に教室を出ていった。

とことん化け物らしくないやつである。

思った以上に緊張していたらしく芝中の姿が完全に見えなくなると腰が砕けて床にへたり込んでしまった。

手元に転がった剣を手に取る。

(すべての敵が芝中みたいに話が分かる相手ならいいんだけど。)

そううまくいかないだろうしなによりドラゴンカインドが最後に控えている。

これはやつらと戦うために絶対に必要な力だ。

「よろしくな、相棒。」

「…コホン。ユウのパートナーは私ですよ。」

見上げればひどく懐かしく感じるファリアの拗ねた顔があった。

差し伸ばされた手を取って立ち上がりファリアと正面から向き合う。

いろいろと言いたいことがあるのに何一つ言葉が出てこない。

ファリアは何も言わず、トンと胸に飛び込んできた。

「ごめんなさい、ユウ。」

「何のことだよ?」

胸に顔を埋めるファリアを頭ごと抱え込んで抱き締める。

懐かしい温もりが俺の胸に広がった

ファリアはただ静かに泣いていた。

「ごめんなさい。」

それは何に対してなのか俺にはわからない。

だが俺にとってはファリアが帰ってきてくれたことだけで十分だった。

だからこそ言ってもらわなければならないことがある。

「違うだろ?」

「え?」

きょとんと見上げてくるファリアの目を見て笑って見せた。

「帰ってきたんなら言うことがあるだろ。…お帰り、ファリア。」

「あ…。」

ファリアの目に涙が浮かぶ。

そして

「ただいま、ユウ。」

輝くような優しい笑顔を見せてくれた。


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