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Vanishing Raiders  作者: MCFL
14/43

第14話 戦闘後の戦い

目を覚ますと俺は木に寄りかかるように横になっていた。

起き上がろうとするが体のあちこちが痛んで無理だったので諦めて空を見上げた。

ファリアが消したのか学校側にバレたのか明かりは消えていて町の明かりを写した雲が仄かに辺りを照らしている。

と、視界にヒラヒラのスカートが。

「…もう少し短ければ。」

「?何がですか?」

ファリアは水を汲んできてくれたらしくバケツを持っていた。

服が汚れるのも構わずに地面に座ると俺の服を丁寧な手付きで脱がせ始めた。

「ちょっ、ファリア、何やってんだ!?」

確かに人は来ないだろうし2人きりだし、何気に混乱真っ最中。

しかしファリアは至って平然としていた。

「傷の手当てを。消毒もしないといけませんから。」

…訂正、平然となんてしていない。

ファリアは傷を負った俺を見て泣きそうな顔で震えていた。

俺が抵抗を諦めるとファリアはてきぱきと上着を脱がせた。

なんとも変な気分になりそうになるのを我慢するが同時にそれどころではない痛みを感じる。

「ギャア!」

「我慢してください。こんなに傷ついて、だから私は反対したんです。」

ファリアを悲しませてしまったのは悪いと思うけどこれでよかったとも思っている。


当初ファリアは2人でエルフが矢を使いきるまで逃げ回り、矢が尽きたところで乗り込んでいこうと提案してきた。

だけど俺はファリアを危険な目に会わせたくなかったので明かりを頼んだのだ。

近くに転がっていた教員の携帯を拝借して速攻で番号を打ち込んでかけられるようにしてファリアに持たせた。

後は作戦通り矢を使いきらせてから林に突撃し、明かりによって闇を払いエルフを打ち倒した。

ファリアには傷一つついていない、それで十分だった。

「俺はファリアを守れたかな?」

こんなに悲しませてしまうと自信がなくなってしまう。

ファリアからの返事はなく、

ポタリ

と熱い雫が頬に落ちてきただけだった。

声を圧し殺して泣くファリアを辛うじて無事な右手で抱き寄せた。

「ユウ、ユウ!」

ファリアが泣きついているのは俺なのか俺の知らない俺なのか。

木々のざわめきに掻き消されるようなファリアの泣き声を耳に俺の意識は闇に落ちていった。


眩しい朝日の直射日光をまともに顔面に浴びて目を覚ますと自宅のベッドの上だった。

何度も繰り返したことがあるような妙な焦燥感に襲われて昨日のことを思い出してみる。

「裸ワイシャツ!」

完璧に覚えている、むしろ脳内に永久保存しなければ。

「朝からずいぶんと煩悩に染まった寝言を叫んでいますね。」

「ファ、ファリア!?」

いつの間にか部屋の入り口にはなんだか怒っていらっしゃるファリアさんが立っていた。

ベッド脇まで静かに歩いてきたファリアは凄みのある笑顔で俺の顔を覗き込む。

「それで、誰の姿を思い浮かべていたんですか?愛ちゃんですか?」

ちなみに愛ちゃんというのは一昨日の夜に処分された高校生の必需品の中の1人、そういう格好をしていた人だ。

ファリアさん、チェックしてたんですね。

「誰って、その、昨日のファリアを。」

正直に答えるのは恥ずかしかったが言わないと後が怖い。

ファリアは一瞬キョトンとしたあとボッと火が出そうなほど真っ赤になった。

「あ、あれは忘れてください。私も忘れますから。」

予想外の狼狽の仕方に唖然としてしまったが恥じらうファリアもいいなと思いつつ寝返りを打とうとした瞬間

「ぎゃー!」

全身を引き裂くような痛みに襲われた。

(そう言えば夜にエルフと戦闘があったんだった。)

昨日の朝のアレが強烈すぎてすっかり忘れていた。

ファリアも傷を心配して見に来てくれたんだろう。

「大丈夫、ではないみたいですね。」

俺の反応を見て調べる前にわかってしまったようでファリアは苦笑していた。

「学校には行けそうですか?」

「だいじょうぶぎゃー!」

起き上がろうと瞬間に強制的にベッドイン、全身が痺れたように動かない。

ファリアはやんちゃな子供を見るみたいな優しい目で布団をかけ直してくれた。

「無理しないでいいですよ。今日はお休みしましょうね。」

抵抗できないので素直に従う。

気持ちは元気なままなのに体だけが動かない半端な病人は甲斐甲斐しく世話されて何気に幸せだったりする。

ご飯も食べさせてもらったし、優しく起き上がらせてもらって背中も拭いてもらってるし。

ファリアの手が不意に、左肩の前で止まった。

優しく、恐る恐る俺の肩の傷に触れる。

少し痛んだが根性で声を押さえた。

「本当に無茶ばかりするんですから。ユウがいなくなったら私は…」

ファリアが後ろから抱きついてきた。

無茶苦茶痛かったが涙を流しながら痛みを堪える。

「こんなことになるなら、私は1人の方がよかった。」

「そんなこと、言うなよ。」

辛うじて動く右手をファリアの手に添える。

俺をどんなに罵ってくれても構わないがそれだけは全力で反論する、絶対に。

「ファリアを守りたいから頑張ったのにそんなこと言われたら俺が報われないだろ?」

「でも、私にはその思いに返すものが何もありません。」

背中に抱きついたファリアの顔は見えないが震える体は泣いているように思えた。

言ってやりたいことはあるけど迷惑をかけていると思い込んでいるファリアには届かない気がした。

「なら、一緒にいてずっと笑っていてくれよ。それだけで十分だ。」

これは今の俺の、そして前の俺もきっと抱いていた共通の願い。

ただそばにいてほしいという思い。

「ユウ!」

感極まったファリアは思いの丈をぶつけるように力強く抱きついてきて

「ぎやあああああ!!」

傷だらけのボディーから上がった断末魔の悲鳴が朝の町に轟いたのだった。


ファリアが学校に行ってしまうと途端に暇になった。

元気は有り余っているのに動けないので非常にたちが悪い。

自然考え事をするしかなくなってくる。

「ヴァニッシャー、消滅の魔女か。」

ファリアは俺の前でヴァニッシュの力を使おうとしない。

本人はそんな簡単に使えるものではないと言っていたが実際は俺に見せたくないのだと思う。

それが何を懸念しているのかはわからないがもしかしたら俺の前の記憶に関することなのかもしれない。

「化け物はいったい何が目的なんだ?」

夜の学校を徘徊していたかと思えば拠点に陣取るようにしているものも出てきた。

それが示すことは

「何かを探していて、見つかったから守っていた?」

何をの部分が欠如しているため漠然としているがファリアはその何かを知っているのだろう。

知っていてあえて隠さなければならない理由は…

「…ダーッ!わからーん!痛ーっ!」

謎が多すぎて結論は霞がかかったように不鮮明だ。

なら結局自分にできることをするだけだ。

「ファリアを守る。やっぱりそれしかないか。」

何にしてもファリアがやつらに狙われていることは事実。

昔は関係ない。

今の俺がファリアを守りたいと思っているのだから。


-------------

ファリアは昼の林に足を踏み入れていた。

昨晩設置してあった罠はエルフが消滅したことで「設置した者がいない罠があるはずがない」という修正を受けて綺麗に消え去っている。

それに伴いいたずらの件も無かったことになっているので勇にその事実を伝えなければならないのだが今のファリアにはそんなことよりも重大な使命があった。

戦闘のあった広場よりさらに奥に進むとこの辺りで一番の大木があった。

「これですか。」

ファリアは念入りに気を調べて頷いた。

ファリアが手を木につけて瞳を閉じると風もないのに制服が波打ち世界を包む気配を歪めた。

ファリアの持つ唯一にして絶対の力、ヴァニッシュ。

その枷を解き放ち目の前の大木を文字通り世界から消滅させようとした。

「そこのあなた。何をしているの?」

「!?」

ファリアは力の放出をすぐさま止めて小さく深呼吸、完全に平常心とする。

そこにいるのは南前高校のファリア・ローテシアというただの学生になった。

「少し自然の中で散歩をと思いまして。」

もっともらしい理由を告げながら振り返ったファリアは声をかけてきた相手に見覚えがあった。

「芝中さん、でしたよね?ユウのお友達の。」

勇の名前を出した瞬間芝中の眉がわずかに動いたが気づかない振りをする。

(ユウは本当に…。帰ったら優しく問い詰めないといけませんね。)

「私のことをご存じでしたか。一応名乗らせてもらいます。芝中幸恵、葛木勇の友人です。」

平静を装った上での確かな敵意のこもった自己紹介にファリアもそれなりの態度に変わる。

誰もいない学校の死角で女の戦いは静かに燃え上がっていた。


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