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Vanishing Raiders  作者: MCFL
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第13話 トラップゲーム

帰りに寄った医者にギプスをはずしてもらった俺は家で軽く腕を動かして調子を見る。

「よし、問題ないな。」

「それは何よりです。」

ファリアから受け取った西洋剣を抜き放ち型もなく適当に振り回す。

「ふっ、はっ!」

振っているうちに気分が乗ってきて動作一つ一つの切れが増した気がした。

体が勝手に動くような感覚に意識を合わせていく。

体と意識が完全に一致した時

「ユウ?」

「…ファリア?」

一瞬何かが見えた気がしたのだがファリアに声をかけられた瞬間に消えてしまった。

「そろそろ行きましょうか。」

「ああ、会長にメール…」

携帯を取り出したところでファリアに手を止められた。

「今回の行動は生徒会の意向に反しています。連絡を取ってしまうと妨害を受ける可能性もあります。」

ファリアが強い口調で言い切るので俺は連絡を入れずそのままポケットに戻した。

「行きましょう。被害が拡大する前に。」

ファリアの言葉はまるで予言のようで胸がざわついた。


予言は、実現した。

校門に立っていた用務員を避けて裏手から侵入し、校舎裏に向かうとそこには2桁に届く人が倒れていた。

中には木に逆さ吊りにされて気を失っている者もいた。

横目でファリアを見ると悔しそうに歯噛みしていた。

「学校側の対応も相手の行動も予想より早かったみたいです。今日ばかりは雷道会長の有能さが恨めしいですね。」

「これをやった犯人は近くにいるのか?」

よくよく見てみれば地面には木でできた矢が数本突き立っていた。

わざと外したのか偶然外れたのか人には当たっていないが危険な相手ではあることがわかる。

ファリアは周囲を見回してから林の奥に目を向けた。

「ッ!ファリア!」

「!?」

虫の知らせにしては強烈な悪寒に叫ぶとファリアは驚いて固まってしまった。

俺はフェンスに背を向けるように飛びながらファリアを抱き抱える。

ザクッ

「ぐっ!」

肩に焼けるような痛みが走りファリアと一緒に地面に倒れ込む。

「ユウ!今抜きます。」

抜かれるときに激痛が走ったが歯をくいしばって耐える。

引き抜かれたのは辺りにある木製の矢だった。

ファリアはすぐに鞄から救急セットを取り出すと手早く治療してくれた。

「助かりました。ユウが気づかなければ命を落としていたかもしれません。」

それは比喩ではなくすぐ近くにあり得た未来、あの時なにか1つでも選択を間違えていたらファリアは殺されていた。

これが遊びではないことはわかっていたはずなのに完全な死角からの容赦ない攻撃をしてきた相手に怒りを覚える。

肩に添えられたファリアの手に自分の手を重ねた。

「今度はこっちから攻める番だ。」

「…はい!」

握り返してくれる手に力をもらい圧倒的に不利なこの状況に戦いを挑む決意をした。


俺は闇と同化した林の奥にいる見えない敵を睨み付けるように剣を構えていた。

敵は矢で遠距離から狙撃をしてくる。

間にフェンスを挟んでいるがあの暗闇の中ファリアの目を的確に狙い撃ちした腕を見ると盾として期待は出来ない。

ヒュッ

風を切る音を耳に捉えて横に跳ぶ。

闇のカーテンから飛び出してきたトゲはさっきまでそこにあった俺の心臓を狙っていた。

半身になって剣をフェンスに向けて構える。

これで目以外の急所へのリスクが減らすことができる。

「くっ。とはいえ本当に防戦一方だな。」

またの名をなぶるという。

今は一発ずつ撃たれる矢もその頻度と数が増えれば対処しきる自信はなかった。

「なんとか反撃できないかな。」

敵のおおよその位置はわかったが向こうが動かないとも限らないから剣を投げるわけにもいかない。

かといってこの状態でフェンスの向こうに踏み込めば今は正面からの攻撃に対応すればいいものを全方位からの攻撃に警戒しなければならなくなる。

「今は耐えるしかないか。」

攻める時に可能なかぎり余力を残しておけるようにしておかないといけない。

また一矢打ち込まれたがこの対応に慣れてきて剣で叩き落とせるようになった。

剣が手に馴染む感覚に気分が高ぶる。

「おいおい、どうした?この程度で終わりか?」

それほど大きな声で言わなかったのに返事として3本の矢が飛んできた。

剣とステップでそれらをかわしつつ考える。

(さっきのが聞こえたなら相手はすぐ近くにいるのか?いや、違うな。)

自分の考えを即座に否定する。

もし闇に紛れてすぐそばにいるなら弓を射る音とほぼ同時に当たっているはずだ。

(となると耳がいいのか?)

「わっ!!」

試しに大声を出してみると

カンッ

今まで一度もなかったフェンス直撃で矢は向こう側に転がった。

相手の焦りが手に取るようにわかる。

自然と笑みが浮かんだ。

闇の向こうにいる誰かを一歩ずつ追い詰めていっていることに征服感のようなものが芽生える。

再び飛来してきた脇腹への一撃を身を捻ってかわし、顔面を狙った矢を剣で叩き伏せ

ザクリと右の太ももに矢が突き刺さった。

「ぐっ、はっ!」

矢を引き抜く痛みを押して地面を転がると俺の軌跡をなぞるように矢が地面に刺さっていく。

矢が止んだところで起き上がりシャツを破って患部に強引に巻き付けた。

(今のは等間隔でしか飛んでこないと思い込んでいた俺のミスだ。さっきから次弾との間隔が縮まってる。本気になったってことか!)

ほとんど同時に飛んでくるようになった矢は剣で払っているとどうしても隙が生じるためフェンスの向こうを睨み付けながら地面を転がって避ける。

敵もこちらの転がる先を狙ったり動きが止まる瞬間を狙ってきたりするため徐々に傷が増えていく。

致命傷がないのはまだ手加減されているのか運がいいのか、とにかく慢心できない。

再び迫る3本の矢、視認したときには当たっている矢を風切り音だけで避け続けられる自分がまるで前にもこんな状況を体感しているような錯覚に襲われた。

数百、数千の降り注ぐ雨の中を剣を握り立ち向かう。

「ぐあっ!」

不思議な光景は太ももの痛みに意識した瞬間散り散りになった。

3本の矢を転がって避けたときに傷ついた方の足で起き上がろうとしてしまったのだ。

「命懸けの戦闘中に俺はまた。」

バシンと頬を叩いて気を引き締める。

今は余計なことを考えている余裕はない。

全神経を知覚に注ぎ攻撃に備える。

「…こない?」

しかしいつまで経っても矢が飛んでこない。

と、少しだけ気を緩めた瞬間矢が飛んでくる音が聞こえたが音がおかしくフェンスにぶつかって地面に転がった。

それはなんのことはない普通の枝。

ごく最近折られ葉や小枝を取り去っただけの粗末な矢。

「どうやら、矢が切れたみたいだな。」

俺の呟きに林の向こうで息を飲む気配があった。

俺はベルトに差した鞘に剣を納めてフェンスに手をかける。

高さは2メートルもないので簡単に越えられたが受けた傷が滅茶苦茶痛い。

その間にも枝が飛んでくるものの天然の枝が加工した矢のようにまっすぐな訳もなく変な抵抗を受けて途中で落ちたりくるくる縦に回転して飛んでくるだけで先程までの脅威は感じない。

「あたっ!」

とはいっても当たれば痛いが。

フェンスを越えて林に降り立ち、一歩踏み出した瞬間

ズボッ

と足が地面に沈んだ。

(落とし穴!?)

もはや体が沈んでいくのを止めることはできず俺は咄嗟に両手を開いた。

結局、穴自体はそれほど深くなく落とすためではなく転ばせるための罠だったわけで、手を広げてしまった俺は

「げふっ。」

そのまま落ち葉の敷き詰められた地面に顔面から突っ込んだ。

そこに石とかが無かったのが救いだった。

「例の悪戯もやっぱりこいつの仕業か。」

服についた泥を払ったがこびりついていて落ちない。

「まあ、暗がりだから目立たないしいいか。」

剣を引き抜いてゆっくりと罠を警戒しながら進む。

巧妙に隠されたロープに足を引っ掻けて転び、

あからさまに怪しいロープを切ると予想以上に大量の木の枝が降ってきて慌てて避けたら転び、

敵が撃ってきた矢を腹いせに空中で両断してやった。

だがこれらの罠は悪戯目的で作ったような、驚くけど身の危険はないものばかりだった。

おそらくここまで踏み込まれるとは思っていなかったんだろう。

あくまで一般人を追い払うために設置された罠のようだった。


進んだ先は林が少しだけ開けた小さな広場のような場所だった。

大した距離ではなかったがやたら罠が多かったので時間がかかった。

ピリピリと最近日常でも向けられることの多い殺気のこもった視線を感じる。

「ここにいたのか。」

フェンスまでは50メートルもない距離。

しかし木と闇で作られたカーテンは見事に舞台から敵の姿を隠していた。

だが今は俺も舞台裏にいる。

敵はすぐ目の前に

「…見えないぞ。」

若干開けているとはいえ月は雲に隠れ町の光が届かない林の中では視界が悪すぎた。

木の上に誰かがいても目を凝らさないと見えない。

ガサッと葉の擦れる音がした瞬間枝も葉も落としていない折っただけの枝が俺の左肩に直撃した。

「ッ!この!」

初撃で受けた傷が開いた嫌な感触があったが構わず飛んできた枝を掴んで投げ返す。

ザザッと大きなものが動く音がしただけ悲鳴は聞こえない。

「ちゃっかり枝まで回収された。」

ガサガサと風にしては不自然な揺れ方をする葉の間からさっきの枝が襲ってきた。

「当たるか!」

自分でもわりと信じられない速度で振るった腕は枝の側面を叩いて打ち落とした。

敵はまた枝を補充するはずだ。

そしてこのままだと堂々巡りになりかねない。

「そろそろか。」

俺の呟きを聞いて不思議に思ったのか敵が動きを止めた。

舞台は整った。


黒子を舞台に引きずり出す!


俺が携帯の通話ボタンを押した瞬間

カッ

学校の照明が一斉に眩く輝いた。

校舎裏に面した窓も少ないとはいえ無いわけではないのでわずかに開けた頭上が明るくなる。

携帯が振動した。俺は画面も見ずに通話ボタンを押す。

「どうですか、ユウ?」

電話の向こうではファリアが息を弾ませている。

学校中を駆け回りいろいろ細工をしてこの時のために備えてくれた。

その結果が目の前にある。

「ああ、バッチリだ。」

俺の向けた視線の先、光は潜んでいた者の姿を映し出した。

手には弓、緑色の服と帽子、ブーツとベルトは茶色く腰には短剣を差している長耳の少年、エルフと呼ばれる亜人が驚きの表情で俺を見下ろしていた。

被害報告にあったピーターパンとは言い得て妙だ。

手にした不格好な矢を弓につがえようとしていた所だったらしい。

俺は携帯を仕舞いながら一気にエルフのいる木に向けて駆け出す。

この場から離れられれば闇に紛れてまた見失ってしまう。

エルフは俺を迎え撃とうと弓を構えるが

「わっ!!」

「!?」

大声をあげるとエルフは怯み、打ち出された矢は俺の脇の地面に外れた。

それを見ることもなくさらに距離を詰めながら俺は考えていた。

(どうやって上に行くかな?)

俺はエルフみたいに身軽ではないので木の間を跳ぶようなことも出来ないしそもそも木登り自体小学生以来やっていない。

セコセコ上っている間に上から集中砲火を受けるのは勘弁願いたい。

と、視界に嫌な思い出しかないロープが見えた。

それはちょうどエルフのいる木にあって、エルフはじっと何かを待っているように見えた。

「いいぜ。のってやるよ!」

俺は敢えてその罠へと踏み込んだ。

エルフは驚いていたが千載一遇のチャンスを逃すわけもなく手元のロープを引く。

突如上から丸太が降ってきて逆に足元のロープの輪が狭まりつつ急速に上昇した。

俺の足にロープがまとわりつき強引に重力に逆らった方向へ体を押し上げる。

エルフは考えたのだろう。

もはや手元に武器はない。

ならば俺を罠にはめて身動きが取れなくなっているうちに撤退しようと。

ドスンと丸太が地面に叩きつけられる音と振動が辺りを震わせ

「残念だったな。」

エルフは俺の声に身を震わせた。

だが俺は知っていた。

エルフの仕掛ける罠が命を奪うものではないことを。

そして被害報告にあった罠の中で唯一林の中になかったのがこの逆さ吊りトラップであることを。

「この罠かどうかは博打だったけど、ロープの作りから予想はついていた。後は輪に足をかけてロープを掴めばエレベーターの出来上がりだ。」

俺は枝を掴んで木の上に跳び移る。

エルフは必死になって俺に矢を向けてきた。

射出の瞬間、バランスの悪い木の上で俺は体を寝かせるほど前倒しに足場を蹴ってエルフに突撃する。

射出速度に俺の勢いも加わった天然の矢は肩に突き刺さり意識が飛びそうになるがもう遅い。

「俺たちの勝ちだ。」

突き出した剣は軽いエルフの体を容易に貫いた。

俺と剣に刺さったエルフはそのままバランスを崩して地面に落ちていく。

エルフは泣きそうな子供の顔のまま緑色の炎に包まれて消えていった。

俺は剣を放り投げて身を丸め、数秒後にくる痛みに恐怖しながらも笑った。

「任務完了。」

ドシャッという音と殴られたような衝撃にプツリと意識が途絶えた。


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