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#9件目:どっちがお好き?


 リリィは着替えのため、メイドたちに連れられていった。


「どういうつもりなの?」


 ひよりんがヤマトに詰め寄る。


「いや、さすがにあのままってわけにはいかないでしょ。」

「それはそうだけど……」


 転生したリリィの姿――素っ裸ではないが、露出が多すぎだった。


「でも、なんでアイドルの衣装なの?何か考えがあってリリィに着せるんでしょ?」

「いや、俺のただの趣味だけど?」


 ヤマトはしれっと答えた。


「趣味ぃぃぃ??」


 ひよりんは眉間にシワを寄せ、露骨に嫌悪感を示した。



 ***



「リリィ様のお着替えが終わりました。」


 メイドの声が響き、扉が開いた。リリィが中に入ってくる。

 その姿を見て、ヤマトが興奮気味に声を上げた。


「あ、あれは! セカンドシングル『Like or Love』のMVで着ていた衣装!」

「正解よ。さすがね。」

「何回もリピートしてたからな。」


 ヤマトは自慢げに胸を張った。


 ひよりんの表情が一瞬緩みかけたが、すぐに目を逸らして呟く。

「……きもっ。」照れ隠しの悪態だ。


「どうですか?ヤマトさん?」


 リリィがもじもじと恥ずかしそうに聞く。

 ヤマトはドキリとした。


「う、うん……。かわいいよ。」


 その率直な言葉に、リリィの顔がぱぁっと明るくなった。


「本当ですか?」

「うん、本当だよ。サイズもぴったりだし、よく似合ってる。」

「ありがとうございます!」


 リリィは満面の笑みを浮かべた。だが、少し困った顔で付け加える。


「ただ、胸のあたりがちょっと苦しくて……。」


 ヤマトはリリィの胸元に目をやった。


「どれどれ……?」


 たしかに、パツパツに引っ張られた生地の中で大きな乳房が窮屈そうになんとか収まっている状態だ。

 ヤマトはリリィとひよりんの胸を見比べた。ひよりんの胸も決して小さくはない――というか十分に大きいのだが、リリィのはさらに豊満だ。


「ひよりんのも――」

「うるさい!」


 グーパンチが飛ぶ。


「いや、褒めようと思って……」

「やかましいわ!」


 もう一発。


「わ、分かった、ごめん、ごめんて。」

「まじ、女の敵!」


 さらに一撃を入れようとしたところで、リリィが割って入った。


「ひよりんさん、ヤマトさんは女の敵ではありません。」

「どうしてよ?」

「なぜなら、ヤマトさんはちょっとエッチなだけの童貞だからです。未だにキスもしたことはありません。たしかに思考や視線は思春期の男子のようないやらしさがありますが、それさえ除けば基本的に無害です。」


「ちょっと、何言いだすの、リリィさん?」


 ヤマトが慌てて止めに入る。


「なので、ヤマトさんは女の敵ではありません。」

「ど、童貞……、キスって……。わ、分かった、もういいわよ!変態!」


 ひよりんがそっぽを向いた。その耳は赤みを帯びている。


「ん、なんか許してもらえたのか?」


 ヤマトは胸をなでおろす。


「とりあえず、ありがとうリリィ。」

「大丈夫ですか?ヤマトさん。」

「大丈夫、大丈夫。それにしても、俺の思った通りだったな。リリィにアイドル衣装はよく似合う。」

「そんな……」 リリィは照れた表情で謙遜した。

「いや、やっぱり最高に似合うよ。」


 ヤマトが力強く言うと、リリィは赤くなりながらも嬉しそうに微笑んだ。

 そんな二人のやりとりをひよりんは微妙な面持ちで見ていた。


「たしかに似合っているわね。まあ、私ほどじゃないけど。」


 そう言って、ひよりんはポーズを決めた。美少女の魅力を全身にまとった一部の隙も無いアイドルらしいポーズだ。キラキラした表情、彼女らしい堂々とした仕草が映える。


「うっ……、さ、さすがは元アイドル。」

「そうでしょ、そうでしょ♪」


 ヤマトの視線は釘付けだ。それを見たリリィが不満そうに頬を膨らませる。


「ヤマトさん、私も見てください。」


 リリィも負けじと大胆なポーズを取った。体をしなやかに反らせ、全身の魅力的な凹凸を際立たせる。


「お、おう……いいね……。ゴクリ……」ヤマトは生唾を飲み込む。


 勝ち誇った表情で挑発するような視線をひよりんに向けるリリィ。


「わ、私だって……!こっち見なさいよ!」


 ひよりんは前かがみになりグラビア写真のような胸元を強調するポーズをとった。大胆にカットされた衣装から深い谷間がのぞく。


「ぐはっ!」ヤマトは興奮のあまりよろけてしまい、その場に崩れ落ちた。


 そんなヤマトにリリィが追い打ちをかける。


「ヤマトさん、私の方がヤマトさん好みのはずです」


 見上げるとリリィはさらに挑発的なポーズをとっていた。腰をくねらせて、ヒップにかけての丸みを強調する。ミニスカートが伸びる脚、むっちりとした太ももが眩しい。


「ぐはっ……!!!」


 圧倒的な刺激に当てられ、ヤマトはその場で突っ伏した。

 そんなヤマトを見下ろしながら、二人が声を揃える。


「どっちよ?」「どっちですか?」


 ヤマトは二人を見上げた。ヤマトの目線の先には、二枚の布切れ――スカート下の秘密がバッチリと見える。


「どちらも……エクセレント……っ!」


 グッジョブサインを作るヤマト。


「この変態、最低男!きもっ!きもっ!きもっ!」


 ひよりんの蹴りが容赦なく入る。どさくさに紛れてリリィも何発か便乗した。


「ヤマトさんはもう少しデリカシーを持った方がいいです。」



***



 二人に痛めつけられ、ヤマトは床に這いつくばった。リリィはため息をつく。


「もう、仕方ないですね。」


 そう言ってヤマトを抱き起こした。


「ヤマトさん、私に掴まってください。」


 リリィがしゃがんで背中を向けると、ヤマトはそれに寄りかかった。リリィはヤマトを背負ったまま軽々と立ち上がった。


「それでは、このまま大魔術師のところまで行きましょう。」

「はあ?」

「私なら馬車の3倍以上のスピードを出せます。今日中には目的地に着くはずです。」

「いや、あなた今人間だよ!人間!」

「そう、人間です。だから、道なき道も走れるんです。」

「いや、だから、馬車で行こうぜ!王族用の馬車で!」

「いえ、私のスキルで行った方が速いです。」


 そう言うと、リリィは王たちに振り向く。


「では、皆様、明日の昼には帰りますので。」


 その場の誰もが、何が起きているのか分からないという困惑の表情を浮かべていた。ひよりんが引き気味にヤマトに問いただす。


「えっ!?女の子におんぶしてもらっていくの?本気で?」

「いやいやいや、俺は断ったからね!俺は!」

「それでは、行ってきます!」


 リリィはニコッと笑って言うと、軽く呼吸を整えた。次の瞬間――急発進。急加速。一瞬で王の間を飛び出していった。


「俺は断ったんだ―――!」


 ヤマトの叫びが遠ざかる。


「ちょ、ちょっと……! もう、帰ってくるなー!」


 ひよりんが大声で叫ぶ。


「……ほんとにバカなんだから。」


 呆然と立ち尽くすひよりんに、ロウランがそっと寄り添った。


「姫様、素直じゃありませんな。」

「……何のことかしら?」


 ひよりんはそっぽを向いたが、微かに赤い頬がそれを物語っていた。




ありがとうございます。次の話も読んでいただけると嬉しいですm(_ _)m

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