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#8件目:ずっと私にまたがってくれると思っていたのに


「依頼?」

「そうだ。二人にとっても悪い話ではないと思うのだが。」


 ヤマトとリリィは顔を見合わせる。


「異世界間を渡るとき、その世界の高度な文明を持っていくことはできないという話をしたのは覚えておるな?」

「もちろん。その結果俺はパンツ一丁になって――」

「私は人間になりました。」


「うむ、その通り。あちらの世界からこちらへ来る場合は科学技術が、逆にあちらの世界に行く際には魔力が失われるのだ。」

「魔力が……。」

「三年前、ヒルメリアたちが世界を渡った際にも、当然魔力は失われたはずだ。」


 王はひよりんに優しい眼差しを向ける。


「まっ、元々魔力はゼロに近いんだけどねー。」ひよりんは軽い口調で応じた。

「元々少ないと言っても、魔力が失われればそれなりに堪えたはずだ。慣れるまでは大変だっただろう。」

「それは……そうね。」


 ひよりんはヤマトをちらっと見た。


「?」ヤマトはその視線の意味がわからず首をかしげる。


「ところでだ。そんな魔力を失ったひよりんたちが今回こちらの世界に戻ってきた。どうなると思う?」

「魔力が戻る……とか?」

「さすがは勇者殿、察しが良い。では、同じく世界を渡ってきたヤマト殿、リリィ殿はどうなるだろうか。」

「まさか、魔力が宿るとか? 俺も魔法を使えるのか!?」


 王は首を横に振った。


「残念ながら、魔力は生まれ持った才能。新たに獲得することはない。」

「そっか……。」

「その代わりに、異世界人にはスキルと呼ばれる特殊な力が宿ることがある。」

「スキル?」

「あるものは剣で大地を切り裂き、あるものは竜のごとく空を駆け回る。それぞれの特性に応じた固有の能力が付与されるのだ。」


 思い当たる節がある。


「もしかして、リリィの力が異常に強かったり、めちゃくちゃ俊敏だったりするのは……」

「おそらく、付与されたスキルの一端だろう。」

「俺には……?」

「それは、ここでは分からない。どんなスキルが与えられたのか。そもそも、スキルが付与されたのかどうかもな。」

「ふーん。」

「しかし、この国にはスキルを鑑定することができる大魔術師がいる。」

「大魔術師ぃ??」

「ヤマト殿には、その大魔術師に会いに行ってもらいたい。それが儂からの依頼だ。」

「えぇ……。」


 ヤマトは悩んだ。スキルについては正直気になる。異世界っぽいし。

 しかし、元の世界にさっさと帰りたいという思いも……当然ある。そうなれば、スキルなんて関係のない話だ。


「俺は、やっぱり元の世界に……。」

「うむ。」


 王はヤマトの答えを予想していたようだった。


「その点でも、勇者殿は大魔術師に会いに行く必要がある。」

「え……? どうして?」

「なぜなら、その大魔術師こそ二人をこの世界に召喚した張本人だからだ。」

「なんだって!?」



***



「二人を召喚したのも、ヒルメリアたちをあちらの世界に送ったのも、その大魔術師だ。」


「俺たちを召喚したのは、ロウランさんなんじゃ……スライムを使って――」


 ヤマトはその瞬間を鮮明に思い出した。ロウランから預かった荷物、その中から突然現れたスライムたちに飲み込まれ、気がつけば異世界に召喚されていた。


「そのスライムを作ったのが、まさにその大魔術師なのだよ。 本来なら、魔力の込められた道具は異世界を渡れないはずだが、それすらも突破してしまう。まさに、人智を超えた力を持つ当代一の知恵者だ。」


「ゴクリ……」思わず息を飲むヤマト。


「この世界に留まるのか、元の世界に戻るのか――その選択は、その魔術師と話してからでも遅くはないだろう。」


 ヤマトは少し悩んだ。こちらの世界に留まるという選択肢は、今のところ……ない。

 しかし、どちらにしろその魔術師と会う必要がありそうだ。


「しゃーねえなー。」


 やるべきことは決まった。まずはその大魔術師に会い、元の世界に帰る方法を聞き出す。ついでに、異世界のこととか、自分のスキルのこともちょっと聞いてみたい。


(まあ、せっかくの異世界だもんな。ちょっとくらい観光してもバチは当たらんだろう。)


 不本意ではあるが、ヤマトは異世界というものに少し……いや、結構ワクワクしていた。


「ヤマトさん、なんだか楽しそうですね。」

「そ、そんなことないぞ。」


 そんなヤマトを見て、リリィも微笑んだ。



 ***



「例のものを」


 王が合図を送ると、大きな台座が運び込まれた。その上には地図が広げられている。


「今、私たちがいるのがここ、お城ね。」


 ひよりんが地図上の一点を指差す。


「そして、うわさの魔術師の住処がここよ。」


 ひよりんの白く細長い指が地図の上を滑る。「どれどれ」とヤマトが覗き込む。


「ふーん、片道60kmってところか。道中には町と村が一つずつあるな。村までは整備された道が続いてるけど、その先は森の中の小道か。森には小型の魔獣が出るみたいだけど、まあ、それ以外は問題なさそうだ。」


「え、ええ…… そうね。」


 ひよりんと王が顔を見合わせる。驚きと困惑の表情だ。リリィが疑問を口にする。


「ヤマトさん、どうしてこんな大まかな地図でそこまで分かるんですか?」

「え?なんか雰囲気で。配達員の勘ってやつ?」


 ヤマトは事もなげに言った。


「勘にしては、鋭すぎるのだが……まあよかろう。大まかな道のりはヤマト殿の言う通りだ。護衛と王族用の馬車を用意しよう。」

「おおっ、王族用の馬車! 馬車で行くなら今から出発すれば、一つ目の街で一泊して、明日の昼には魔術師の住処に到着できそうだな。帰りは村か、同じ街でもう一泊……明後日の昼までには戻って来れそうだ。」

「そ、その通りだ。」


「ていうか、王族用の馬車ってどんなの? めっちゃ楽しみなんですけど!」


 目を輝かせるヤマト、そこにリリィが割って入った。


「いえ、馬車は必要ありません。」

「ええっ!?」


 ヤマトは驚いてリリィを見た。リリィは頬をふくらませている。


「ヤマトさん。私以外の乗り物に乗るのがそんなに楽しみですか? 許せません。」

「いやいや、乗り物って……リリィさん今人間だし。乗るのは馬車だぞ? リリィも一緒に乗ればいいじゃん。」

「これまでずっと、私にまたがってくれたじゃないですか。これからもずっと私にまたがってくれると思っていたのに!ヒドイ!うわき者!」

「誤解を招くような言い方はやめなさい。」

「いつもあんなに激しく乗りこなしてくれたのに!」

「わざとやっているでしょ、リリィ。」


 ヤマトはお約束のように右手で軽くツッコミを入れる。


「とりあえず……王様、馬車の用意をお願いします。」

「ヤマトさん……。」リリィは少し悲しげな表情を浮かべたが、それ以上何も言わなかった。


「うーん…… そうだ!」


 ヤマトは何かを思いついたようにひよりんに振り向いた。


「リリィにも服を用意してくれないか? アイドル衣装、まだあるだろ?」

「ええ、あるけど…… 私のお下がりで良ければ。」

「もちろん、それで……いや、それがいい!」



ありがとうございます。次回、いよいよ城の外に飛び出します。も読んでいただけると嬉しいですm(_ _)m

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