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#6件目:全然アイドルっぽくない!


「あんたに死なれたら困るんですけど?」


 声の主は、ライブを終えて汗だくになったひよりんだった。


「ひ、ひよりん……!?」


 ヤマトは目を見開き、信じられないものを見るように凝視した。そこに立っているのは、間違いなく彼が崇拝するアイドル、ひよりんその人だ。ヤマトは言葉を失い、彼女の姿を食い入るように見つめ続けた。


「ちょ、ちょっと……!」


 駆け出しアイドルであるひよりんの衣装は、胸元が大胆にカットされ、スカートから覗く絶対領域がまぶしく、彼女の若さと魅力を余すことなく引き出している。間近で見ると……なんというか、エロい。


「もう!ジロジロ見過ぎ!」


 ひよりんは顔を赤らめ、手で胸元と太ももを隠す仕草を見せた。その姿さえも可愛らしい。


「やっぱりひよりんだ、本物の……本物だよな……いや、本物に違いない…………。うぇっ、うぇっ、うぅぉっ……」


 ヤマトは感動で涙をこらえきれず、膝をついてむせび泣いた。


「……ちょっと、泣きすぎでしょ。えぇ……。」


 ひよりんは引き気味にヤマトを見下ろした。ヤマトはそのまま感動の涙を流し続け、服の袖で涙を拭いながら、おもむろに顔を上げた。


「あっ、白……」


「……っ!? 何見てるのよ!」


 ひよりんの強烈な蹴りがさく裂した。


「このっ!このっ!」

「あぁっ!あぁ!あぁっっ! でも、幸せ……」


 何度も足蹴にされるヤマトの姿を、リリィは呆れ顔で見ていた。少女が満足するまで蹴り続けた後、床に這いつくばったヤマトにリリィが声をかけた。


「ヤマトさん。ここは異世界です。ひよりんがいるのは明らかにおかしいです。」

「い……いや、異世界とかもう関係ない……ひよりんがいる世界が俺にとっての現実だ……っ!」


 ヤマトは真剣な表情で言い放った。それを見たリリィも、ドン引きした表情で見下ろす。「えぇ……。」

 一人感動に打ち震えるヤマト。それを見てドン引きする美少女二人。


 その時、不意に重い靴音が響き、あの顔に傷のある男が近づいてきた。


「うわっ、出た!」


 ヤマトの表情が瞬時に恐怖に染まる。リリィの足元に情けなく隠れる彼の姿を、ひよりんは軽蔑の視線で見つめた。


 男は何も言わず、ただまっすぐにヤマトたちを見据えながら歩み寄ってくる。その圧倒的な威圧感――


「ひぃっ!」


 しかし、ヤマトたちの前に立った男の行動は意外なものだった。深々と頭を下げ、腹の座った声で謝罪の言葉を口にしたのだ。


「勇者ヤマト様。そしてリリィ様。此度は大変申し訳ございません。」


「わーっ、ごめんなさい!ごめんなさい!……へっ?」


 ヤマトは目を丸くし、何が起きているのか理解できずに硬直した。あまりにも意外な展開に、思考が追いつかない。

 男は顔を上げ、真摯な目でヤマトたちを見つめながら言った。


「この状況、すべて私から説明させていただきます。」



***



「私はロウラン・ヴァルターと申します。そして、こちらにおられるのが我が国の王女ヒルメリア様です。」


 ロウランが一礼すると、隣にいた少女がニコっと笑い、胸を張って名乗り始める。


「一応王女をやってるヒルメリア・ヨルドナ・リンフェリスよ。よろしくね♪」


 その無邪気な笑顔にヤマトの心は再び高鳴った。しかし――


「王女……?ヒルメリア……ひよりんじゃないのか……?」


 さっきまで最高のステージを見せてくれていたアイドルはひよりんではなく、この城の王女だという。混乱するヤマトに、ヒルメリアは意味ありげなウインクを投げかける。


() ルメリア・() ルドナ・リン(りん) フェリス――略して”ひよりん”でいいわよ♪」


 その言葉を聞いた瞬間、ヤマトは目を輝かせた。


「やっぱりひよりんなのか!アイドルの!?」


 しかし、その歓喜に満ちた声に対してヒルメリアは首を振りながらクスクス笑う。


「ふふっ、ひよりんだけどアイドルじゃないの。今は王女よ。」


 彼女の茶化すような言葉に、ヤマトはますます混乱していく。


「そうだよな。王女がアイドルなんて……。」


 ヤマトが自分に言い聞かせるように呟くと、ヒルメリアはさらに追い打ちをかけるように微笑んだ。


「王女がアイドルやっても別にいいんじゃない?反対にアイドルが王女っていうのもいいかもね♪」

「???」


 まるで謎かけのような言葉にヤマトは完全に困惑し、頭の中が真っ白になった。


 ロウランが堪えきれずに口を挟んだ。「ヒルメリア様。話が進まないのでそのあたりで……。」

「えへへ、ごめんなさい。」と、ヒルメリアは小さく舌を出して悪戯っぽく笑った。


 ロウランがヤマトの方へ向き直った。


「私はこの城で王女の親衛隊長を任されております。」

「親衛隊長……それって、ファンクラブ的な……こと?」


 ヤマトの言葉にロウランの眉がピクリと動いた。が、冷静に答える。


「順を追ってお話ししますのでアイドルのことは一度お忘れください。ここでは、私は王女ヒルメリア様の忠実な護衛官です。」

「そ、そうですよね! ごめんなさい!ごめんなさい!」


 慌てて頭を下げるヤマトだが、その視線はまだアイドル衣装で身を包んだ王女様の方に釘付けだ。


「ロウランは私の剣術指南役でもあるのよ。すっごく強いんだから。それに、私の敏腕マネージャーでもあるわ♪」


 ヒルメリアが嬉しそうにロウランを紹介するが、ヤマトの頭は疑問符でいっぱいだった。どうやらこのお姫様はヤマトを混乱させて楽しんでいるらしい。


「マネージャー……? 剣術指南とマネージャーってどういう組み合わせだよ……」


 ヤマトが困惑する中、ロウランは深いため息をついた。


「姫様!少しお口チャックで!」

「はーい、はい。もう何も言わないってば……むにゃむにゃ……」


 ヒルメリアは口を閉ざしつつも、目元にはいたずら笑みを浮かべていた。


(この子が“ひよりん”なわけないよな……)


 ヤマトの頭の中では、これまで崇拝してきた神々しいアイドルの笑顔と目の前の王女の姿がどうしても重ならなかった。

 “ひよりん”はもっとキラキラしてて、アイドルらしい完璧さがあったはずだ!

 だが、目の前のヒルメリアはどこか無邪気で、子供っぽさが目立つ。それが今まで推してきたアイドルとはどうしても結びつかなかった。


(全然アイドル(ひよりん)っぽくない!)


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