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#3件目:相棒は超絶美少女

  

 王はお付きの者に指図し、ヤマトを城の一室へ案内させた。青髪の美少女も当然のようについてくる。


「あっ、やっぱりついてくるのね?」

「もちろんです、マスター。」


 案内された部屋は、まさに王族御用達といわんばかりの豪華さだった。大きなベッドに高級そうな調度品が並び、ソファに腰を下ろすと、ぷにぷにとした座り心地、体を包み込む感触がまるでスライムのアレだ。


「なんだこれ?ぷよぷよムニュムニュしてて気持ちいい~。人間工学とか完全無視、ただただダメ人間を作り出すための心地よさ~」


 どうやらこの城の人たちはヤマトのことを本気で勇者として扱っているようだ。


「これなら、勇者ってのも悪くないな」などと思いつつ、ふと隣にいる美少女に目をやると、彼女は熱心にヤマトを見つめ返していた。いまひとつその視線の意図がわからない。


「えーっと……君も座る?」と促すと、

「はい、マスター。」


 即答でそう言って、彼女はためらうことなくパンイチ姿のヤマトの隣に腰を下ろした。肩と肩、太ももと太ももがぴったり触れ合う。


「いや、近っ!!」


 思わず声が出て、ヤマトはソファから飛び上がり、慌てて距離をとった。


「な、なにその距離感!?」


 心臓がバクバクと高鳴り、耳が熱くなるのを感じる。


「お、お、女の子と触れ合うなんて握手会くらいでしか経験ないんだけど!?こう見えてウブなチェリーボーイなんですけどぉ?」


 そう口走った瞬間、ヤマトの脳裏に大切な記憶がフラッシュバックした。


「あ、あ、あ……握手会!!そうだ!!握手会だぁぁ!!」


 そうだ、思い出した!今日は推しのアイドル、ひよりんの握手会があるんだった!この日のためにどれだけ苦労してきたことか……。


「帰る!!俺は帰るぞっ!!こんな異世界とか勇者とか知らん!俺はただのドルヲタだ!!ひよりんに会うために生きてるんだぁぁぁ!!」


 ヤマトが半ば錯乱状態で部屋を飛び出そうとした瞬間、少女がさっと背後に回り込み、静かにその腕を掴んだ。


「えっ、いつの間に後ろに? てか、離せ! ひよりんの握手会が始まっちゃうんだ!」


 必死の形相で訴えるヤマトに、少女は冷静に言った。


「マスター、落ち着いてください。あなたは今、パンツ一丁です。」


 ヤマトは一瞬ハッとし、動きを止める。しかし、すぐにまた暴れ出す。


「そんなの関係ねぇ!そんなの関係ねぇ!パンイチだろうがなんだろうが握手会には絶対に行ってやる!」


 少女はさらに諭すように続けた。


「警察に捕まってしまいます。いえ、それどころか……SNSに晒され、デジタルタトゥー、ネットのおもちゃに……」


 ヤマトは再びハッとする。「ネットのおもちゃ……それはヤだな。」


「暴走する正義……牙を剥く承認欲求……ストレス解消のサンドバック……」


 少女がささやく屈辱の未来にヤマトはたじろいた。


「ぐぬぬ……」


 だが、またもやすぐに気を取り直し、「警察上等!デジタルタトゥーなんていくらでも彫ってやるよ!帰るんだ、俺は帰る!」と、必死に暴れて手を振りほどこうとする。


 しかし少女は涼しい顔で、ピクリとも動かない。どうあがこうと、握られた手を振り払うことはできなかった。


「君、力強すぎない?」ヤマトが戸惑うと、少女は首をかしげた。「そうでしょうか?」


「もうさ、君が勇者でいいじゃん……」


 少女は真顔で首を横に振った。


「いいえ、マスター。私はあなたの所有物です。」

「所有物って……一体君はなんなの?」


 ヤマトは思わず聞き返す。

 少女は嬉しそうに答えた。


「やっと聞いてくれましたね。マスター。……私はリリィです。」


「リリィって、俺のリリィ?……バイクの?」

「はい!マスター!」


 ヤマトの驚愕の視線を前に、少女――いや、リリィはにこやかに彼を見つめ返していた。



***



 バイクが人間の少女に……?にわかには信じられないが、そもそもここは異世界。なんでもあり、というわけだろうか。


「そういえば、さっき王様が『この世界では高度な文明の所持は許されない』って言ってたな」


 ヤマトが呟くと、少女――いや、リリィは淡々と答えた。


「はい、マスター。そのため、今もパンツ一丁です」

「うん、俺の格好については触れなくていいから」


 ヤマトは少し恥ずかしさを覚えつつも、自分の推測を続ける。


「……つまり、バイクのリリィも高度な文明の一部ってことか。で、俺から取り上げる代わりにこうして人間の姿にしてくれたってわけか? 女神の温情かな、これも」


「はい、おそらく、マスター。」リリィが微笑んだようにも見える。


「いや~、女神さまもいいとこあるじゃないか。」

「はい、マスター。」


「……う~ん。ところでさ――」


 彼が続けて言い出したのは、意外なお願いだった。


「その『マスター』って呼び方、やめにしないか? リリィは俺の相棒だろ?堅苦しいのはなしにしようぜ。ヤマトでいいよヤマトで。」


「はい、マス――あっ、すみません。わ、わかりました……ヤマトさん」


 リリィは恥ずかしそうに微笑んだ。それがまた可愛らしく、胸がくすぐられる。


「いやぁー、でも本当によかった。リリィが無事でいてくれて。ずっと心配してたんだよ。向こうの世界に置いてきちゃったと思ってたからさー。」


 そう言いながらヤマトはほっと胸を撫でおろすが、リリィの表情はどこか拗ねたようだった。


「ついさっきまで、ひよりんのことで頭がいっぱいだったご様子でしたが……」


 リリィが頬を膨らませる。ヤキモチを焼いているのだろうか。その仕草がまた可愛い。


(俺のバイク、こんなに可愛かったのか。大切に乗っててよかった……!)


 ヤマトは心の中でそうしみじみと思うのだった。




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