#12件目:じーぴーえす!
「ははーん、さては迷子だな?」
ヤマトは腰に手を当て、幼女を指差してドヤ顔で言い放った。
「ち、ちがうもん! 迷子じゃないもん!」
少女がムキになって反論する。ぷくっと膨らんだ頬が、まるでハムスターのようだ。
「いやいや、迷子じゃなかったら、なんで一人でウロウロしてんだよ? お父さんとお母さんは?」
「うぅ……それは……」
少女が言葉に詰まり、目をキョロキョロさせる。ヤマトはニヤリと笑い、さらに畳みかけた。
「ほーら、ほーら! やっぱり迷子じゃん! さあ、正直に言ってみな! お兄ちゃんが助けてあげよっか?」
「うう~、だって、だってぇ! お父さんの商館、どこか分かんなくなっちゃって……!」
少女がとうとう白旗を上げ、涙目で本音をこぼした。
「よーし、任せな! この佐川ヤマト、お届け物のエキスパートだ! お前のお父さんの商館、俺がバッチリ連れてってやるぜ!」
「ほ、ほんと? お兄ちゃん、すっごい!」
「へっ、当たり前だろ! 俺の配達員の勘は、どんなGPSより正確なんだからな!」
「じーぴーえす?」
「ま、すっげー能力ってことだ!」
……と、ヤマトは調子よく口走ったが、内心は冷や汗タラタラである。なにせ、初めて来た異世界の街なのだ。 商館の場所なんて知るわけがなかった。
「じーぴーえす!じーぴーえす!」
少女はその語感が気に入ったのか。じーぴーえすを連呼しながらヤマトの横を歩いた。
***
「あっ、ヤマトさん。どうでしたか?」
ヤマトは少女とともに、噴水のベンチで待つリリィもとに戻った。アイドル衣装のリリィは遠目から見ても目立つ存在だ。ヤマトは、リリィの隣に少女を座らせ、状況を説明する。
「で、この子が迷子でさ。商館に連れてくって約束をしてしまったんだけど……」
「ふふ、ヤマトさんらしいですね」
リリィは嬉しそう言った。そして、少女の前にしゃがみ、優しい笑顔で話しかける。
「ねえ、お父さんの商館の名前は分かる?」
「えっとね……『ゴールデンベア商会』だよ!」
その屋号を聞いた瞬間、ヤマトの頭にピカッと電気が走った。
(……ん? なんか、行ける気がするぞ?)
初めての街、右も左も分からないはずなのに、なぜか道順が頭に浮かぶ。噴水から左に曲がって、三つ目の角を右、市場を抜けて石畳の道をまっすぐ――まるで、配達ルートを覚えたときの感覚だ。
「よし、行くぞ! リリィ、こいつ連れてくから、ついてこい!」
「えっ? は、はい、ヤマトさん!」
「お兄ちゃん、場所分かったの?」
少女が半信半疑で尋ねるが、ヤマトは胸をドンと叩く。
「任せな! 今日の俺の勘は冴えまくってるからな!」
***
知らない街の迷路のような路地を、ヤマトはまるで地元民のようにズンズン進んでいく。リリィと少女が後を追い、市場の喧騒を抜け、石畳の道へ。屋台の呼び込みや馬車の音を尻目に、ヤマトは一瞬の迷いもなく突き進んだ。
「あっ、ここ知ってる道だ!お兄ちゃん、すごい!」
「だろ? だてに配達員やってないんでね」
少女が目をキラキラさせる。「じーぴーえす!じーぴーえす!」
リリィも一緒に口ずさむ。「じーぴーえす!じーぴーえす!」
「いや、リリィさん。あなたは止めておきなさい」
「いいじゃないですか、じーぴーえす!じーぴーえす!」
(……まいっか。)
ヤマトは照れながらもズンズンと歩を進めた。そして、ついに――
目の前に現れたのは、でっかいクマの看板がドーンと掲げられた立派な建物。『ゴールデンベア商会』だ。
「やったー、着いた! お兄ちゃん、ありがとう!」
喜びをあらわに少女がヤマトに抱き着く。
「おいおい」
ヤマトは扱いに困りながらも少女を抱きかかえた。
「ンンッ…!ンンンッ…!」
咳払いの後、リリィが続けた。
「ヤマトさん、さすがです。でも、これはただの勘というには奇跡的過ぎませんか? おそらく、ヤマトさんのスキルと関係してるのでは?」
「え……?いや、でも……たしかに……」
ヤマトは頭をボリボリ掻きながら考えた。そういえば、城でトイレ探すときも一発で辿り着いたし、王の間で地図を見たときも大魔術師の住処までのルートがスッと頭に入ってきた。
(あれ、俺のスキルってそっち系?)
戦闘の特技とか超人的な力ではなくて、ユーティリティ的な?
「ま、細けえことは大魔術師に聞けばいいか! とりあえず、この子を――」
その瞬間、腹の底から響く轟音が。
『グゥゥゥゥゥ……!』
リリィが顔を真っ赤にして腹を押さえる。続けて、ヤマトの腹からも『グゥゥゥ!』と情けない音。少女が「ぷっ!」と吹き出し、ケラケラ笑い出す。
「そうだ、腹減ってたんだった」
「ふふふ、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、お腹ペコペコなの?」
少女が無邪気に笑う。そこへ、商館の扉がガチャリと開き、屈強な男が顔を出した。
「おお、ミナ! 無事だったか! ……お前さんたちが、娘を連れてきてくれたのか?」
男のド迫力な眼光に、ヤマトは思わず後ずさる。
「ひ、ひぃ! いや、その、たまたま見つけて……!」
「ふはは! 礼を言おう! さあ、上がって飯でも食っていけ!」
「い、いいんですか?」
「もちろん!店の中まで大きな音が聞こえたぞ!遠慮するな!ガッハッハッ!」
二人は顔を赤くして恐縮しながら言った。
「はい…ご馳走になります……」
少女が嬉しそうに飛び跳ねる。
「じーぴーえす!じーぴーえす!」
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