九話
パーティが終わり、私とアリアス様は部屋でくつろいでいた。
「さっきは、私の妹がご迷惑をおかけしました」
どうやらここは、パラディ辺境伯の別邸であるらしい。
王都以外を治めている貴族は、王都に滞在するときのために別邸を用意しているのだと、彼が教えてくれた。
私の謝罪を前にして、アリアス様は特に気にした様子もなく。
「君が謝ることではない。妙な真似をしてきたのは向こうの方だしね。むしろ、私の方こそすまなかった」
「え?」
意味がわからない。
何を謝っているのだろう。
この人に、何の非もないのに。
「いいや、君を傷つけてしまった。君は、家族と仲が悪いんだろう?もっと言えば、かなり冷遇されていたんじゃないのか?」
「……はい」
どうやら見抜かれていたらしい。
「でも、気になさらないでください。もう、関係ないことですし」
「そうなのか?」
「はい、それに、そのおかげで私は貴方の婚約者になれましたので」
「……そうか」
アリアス様が何を考えているのかはわかりません。
でも、どこか納得したようにうんうんとうなずいて、顔をほころばせているから気を悪くしたわけでもないのだろう。
「これからも、よろしく頼むよ。婚約者として、そしてできれば、妻として」
「…………はいっ!ふつつかものですが、よろしくお願いします」
私も、頭を下げて、彼の手を握る。
彼の手は、やはり大きくて、太陽のように温かった。
「まったく、何をやっているのだろうな、私達は」
「ええ、本当に」
照れくさくて、思わず二人して笑ってしまった。
「そういえば、王都の結界とパラディ領の結界、少々違いませんか?」
「ああ、王都の結界は私以外にも携わっている人がいてな。『大賢者』ヴィジャード殿に協力してもらっているのさ」
「まあ、そうだったんですね!」
「隠しているわけじゃないが、わざわざ表に公開する情報じゃないからな。知らないのも無理はないさ」
「それでそれで、具体的にはどんなふうに違うんですか?」
「防御面は私の結界魔法と大差ないんだが、攻撃面が違うな。私の感知結界に引っかかったターゲットにヴィジャード殿の攻撃魔法術式が作用して迎撃できるように――」
その後は、いつものようにひたすら魔法について話した。
私は、恵まれすぎていると、十分幸せなんだと、改めて感じたのだった。