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十五話

「ふ、ふざけるな!このクソガキが!」

「何だ、まだいたのか。もうお前の護衛達は片づけたぞ」

「くそっ、宮廷魔導士どもめ。肝心な時に役に立たんとは!全員首にしてくれる……」



 どうやら父は権力に任せて宮廷魔導士を動員したらしい。

 辺境伯の住居に侵入し、戦わせるのが「肝心な時」とは到底思えなかったが。

 そもそも、宮廷魔導士は王都の守護神とも言われるエリート中のエリートだ。

 相手が悪すぎただけのはず。

 そんなことを考えていると。



「ふざけているのは、どちらでしょうな」



 また窓の外から声が響いた。

 美丈夫がソーニャさんを伴って窓から屋敷へと入って来る。

 レオナルド様だ。



「先輩に忠告されたんでね。公爵家の動向には注意を払っていましたが、いやはや来てよかった」



 どうやら彼らを尾行してここまで来たらしい。

 ……お疲れさまです。あと、私の家族がすみません。



「ゴールドシュタイン卿……」

「ひっ」



 彼が持っている音声でのやり取りを可能にする、四角い板のような魔道具。

 そこから聞こえてくる音声には聞き覚えがあった。

 というか、その声を知らないものは王都にいないだろう。

 演説などをしているはずだから。家に閉じ込められていた私も、一度だけ顔を合わせたことがあるので知っている。



「へ、陛下。なぜ?」



 間違いなく、国王陛下の声である。



「ストームブレイカー伯爵から君の振る舞いを聞かされていてね。随分と勝手な振る舞いをしてくれるな」

「あ、いや、これはその」

「愚息を、愚物とはいえ王太子を捨ててこちらのパラディ辺境伯に乗り換える……これは王太子、ひいては王家への反逆である。違うかね?」

「それは、それは違います!もとはと言えば長女ボナムが……」

「いいや違うぞ。元々そちらの長女と結婚させる話だったのを、貴様が直前になって次女をごり押したのだ。完全に非は貴様にある。そして、今回の件も責任は貴様にある。親として、何より貴族として処分は覚悟しておきなさい」

「ひ、ひいっ!」



 青い顔をしながら、父はへたり込んでしまった。

 母も同じ顔色になっている。

 ただ一人、リンダだけが状況を理解していない。



「なに、何をしているの、パパ、ママ、何とかしなさいよ!」



 目を血走らせて、殺気立って喚いている。

 いまだに状況がわかっていないらしい。

 リンダはアリアス様の心を手に入れられなかった。

 アリアス様は私を選んでくれた。

 父と母はもう国王陛下に睨まれて何もできなくなった。

 アリアス様の意志が、権力によって捻じ曲げられることはなくなった。

 つまり、リンダの望みは叶わない。

 それを、彼女は理解できない。

 無理もない。

 だって彼女は何をせずとも愛されてきたから。

 私とは違う。華やかな容姿に、優れた魔法の才能。

 誰からも愛され、守られ、すべてを与えられてきたから。

 きっと、今までの人生でなかったのだ。

 望みが叶わなかったことが。

 だから自分の希望がかなわないという現象を理解できない。

 私には少しだけ、哀れにも思えた。



「いいから、帰るぞ」

「いやよ!」

「……リンダ」



 せめて何か努力していたら、何かが変わっていたのかもしれないのに。



「行ったか……」

「あの、先輩、俺って」

「客間が向こうにあるから使っていいぞ」

「扱いが雑すぎませんか!」

「冗談だ。本当にありがとう。また何かしら礼をさせてくれ」

「本当に、丸くなりましたよね、先輩は」

「いい人に巡り合えた。それだけの話だ」

「はいはい、じゃあ俺は客間に行きますんで、ごゆっくり」

「ああ、ゆっくりしていてくれ」

「私は、レオナルド様をおもてなししておきますね」

「ああ、頼むよ」



 後には、私たち二人だけが残された。

 並んで肩を寄せ合っている私とアリアス様だけが。



「大丈夫か?」



 この人は、きっとずっとそばにいてくれる。



「きょ、距離が近いです……」



 幸せ過ぎて。

 頭がどうにかなりそうだ。


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