十二話
何が起きているのでしょう。
まず、爆発するような音が響いた。
ついで、リンダと両親が二階の窓から侵入してきた。
そしてもみ合ったソーニャが、窓から落ちた。
「ソーニャ……」
「はっ、使用人風情が私にたてつくからよ!」
「リンダ……。こんなところで何をしているの?」
「もちろん、アリアス様と婚約しに来たのよ」
「はあ?」
理解できなかった。
「お姉さまには婚約を破棄してもらうのよ」
「なんですって?」
意味がわからなかった。
そもそも婚約の破棄は容易く行うことはできない。
ボナムと王太子の婚約でさえ、数年かけて公爵が、父が根回ししたから実現したのだ。
「今頃、お父様の部下たちが真実をアリアスに伝えているわ」
「し、ん、じつ?」
わけがわからない。
いやわかっている。
わかってしまう。
私にとって不都合な真実。
アリアス様にだけは知られたくはない真実。
そんなのひとつしかない。
「お姉さまが魔法を使えない出来損ないであると、教えてあげているのよ。私の方がずっと優れた存在だってね」
「っ!」
わかっている。アリアス様が私のことを大事にしてくれているのは単なる勘違いだ。
魔法の使えない私には魔法の効果が適用されにくい。
傷をいやす治癒魔法も、人を守る結界魔法も。
だがそんな人間がいるのだと想定すらしていないアリアス様には私が、アリアス様に対して本能レベルで悪意を持っていない心の綺麗な人間に見えていることでしょう。
けれどそんなことはなくて。
初対面では正直怖いと思っていたし、近づかれると緊張でめちゃくちゃドキドキしていたのだ。
「お姉様はあの人に相応しくないわ。だから私にあの人を頂戴?」
「…………」
言いたいことならばきっと山ほどあった。例えば王太子殿下との婚約はどうするのとか。アリアス様はリンダのことをよく思っていないみたいだったけど本当に結ばれるつもりなのかとか。
「……よ」
けれど、いい。
「え?なんですって?」
そんなことはどうだっていい。
「お断りよ!」
「……は?」
どこか楽しげだったリンダの表情が困惑したもののそれに変わり、一瞬ののちに憤怒に変わる。