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十話

 私は、ヴィジャード・ウィーズリー。

 宮廷魔術師の長を務めている。

 一応、王国内では一、二を争う魔術師などと呼ばれている。

 といっても、私の役割はつまるところ王族や貴族などの殿上人の使いっぱしりにすぎない。

 王族の命令に従い、国にあだなす族や魔物を処理したり、逆に王族貴族を護衛するのが主な仕事である。

 同じく王国内で一、二を争うアリアス・パラディ辺境伯が軍人として国防を担っているのとは対照的に、我々の扱いは私兵に近い。

 活動も概ね王都の周辺に限られる。



「申し訳ありません、今、何と仰られましたか?」



 だから、その指令を受けた時、私は聞く耳を疑った。

 普通に考えてありえないだろうと、思ったからだ。



「パラディ辺境伯領へと向かい、私の娘であるボナムをさらってこい。これは、命令である」



 私の目の前にいる男は、ボールド・ゴールドシュタイン公爵。

 王家に次ぐ権力者であり、我々に命令する権利を有している者の一人だ。



「なぜ、我々がボナム嬢をさらわなくてはならないのでしょうか」



 そもそも娘を連れ戻したいのであれば、手紙の一つでも送るか、あるいは公爵自身が出向けばいい。

 どうしてそれをしないのか。

 もしかすると、家族関係がよくないのか。



「厳密には、さらうのはお前たちがやらなくてもいい。パラディのところのガキを抑えてくれればいい」

「そういう問題ではございません、どうして」

「それが娘の、リンダの望みだからだ」



 リンダ嬢と言えば、先日ボナム嬢と王太子殿下の婚約を破棄した直後に、王太子と婚約したと聞く。

 もしかすると、公爵閣下のお気に入りは長女ではなく、次女なのだろうか。



「リンダは、アリアスをたいそう気に入ったようでな。つまるところ、ボナムが邪魔なんだよ。だから無理やり婚約を破棄させて、リンダとアリアスを結婚させる」

「……は?」



 意味がわからない。

 王太子との婚約はどうなるのか。

 破棄するとすれば、それは問題にならないのか。

 何より、婚約した男女を政治的な取引ですらなく、ちからずくで壊すなどとありえない。



「閣下、いくらなんでもそれは」

「黙れ黙れ!たかだか宮廷魔術師の分際で、私に意見できると思うなよ!私の一声で、貴様も貴様の部下もそろって処刑することだってできるんだからな!」



 長らく宮廷で過ごしてきたから、多少は腹芸も心得ている。

 そして、そんな私の経験が教えてくれる。

 この男は、私が命令に従わなければ本当に粛清を実行するだろう。

 私も、こんな私に付き合ってくれている百名以上の腕利きの魔術師も、全員首と胴が泣き別れることになるだろう。

 王家に次ぐ権力を持っているのが公爵家だ。

 それくらいはやれるだろうな。

 虐殺を躊躇なく実行できるほどに、私達の価値は低いと見積もっているのか。

 あるいはそこまでしなければならないほど、次女が彼にとって重要なのか。



「……承知しました」



 致し方あるまい。

 自分一人ならどうでもいいが、部下の命まで捨てることはできない。

 ゆえに、自分に出来ることは一つ。

 逆らわず、粛々と命令をこなすこと。

 ずっと私はそうしてきたのだから。



「すまないな、パラディ卿……。だが、こちらとて譲れぬものがある」



 パラディ辺境伯がこの国の盾であるなら、我々宮廷魔術師はこの国の矛。

 王族貴族の命令に従い、望みをかなえるのが仕事なのだから。



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