第1話 魔剣と悪魔
俺は暗闇の中をただ走り回っていた。暗闇は終わりがなくどんなに走っても果てはない。
そしてまた俺の前にこの剣は現れる。
地面に漆黒の刀身が刺ささり、柄には赤い宝石が付いたこの剣は俺を眺めるように突き刺さっている。
「何なんだよ……」
夢なのだろうか。いつも通りにベットに入り、いつも通りに目を閉じた。
そしてこの現状は訪れた。
俺は恐る恐る剣に近づく。何も考えないで剣の柄に手を掛ける。
剣を持ったことはない。それなのにどこか懐かしいような、手にしっくりくるこの感じ。
「魔剣は君を選んだんだよ」
「誰だおまえ?」
俺は自分の後ろに現れた少女に剣先を向ける。剣は思いのほか軽く、まるで俺の意思に従うように。
少女は軽く両手を挙げ、敵意がないことをアピールする。
「おまえの仕業なのか?」
「それは少し違うかな。これは魔剣が作り出した幻。君は夢の中で現実を体験しているんだ」
「どういう意味だ?」
「君を勝たせてやる。この魔剣大戦に」
「魔剣大戦……何のことだ!」
俺が少女の肩を掴むと砂のように少女は形を失ってしまった。
◇◆◇◆◇
「はぁはぁ……」
俺は上半身を起こし、寝汗を手で拭う。
いったい何だったのか。俺の手には魔剣を強く握った跡が残っており、俺は未だに状況を飲み込めていない。
「起きたか。総司」
夢で見た少女は俺のベットに腰掛け足をぶらつかせる。
「夢の中では逃げられたが、説明してもらっていいか?」
今度は逃がさない。俺は何かやばい事に足を突っ込んでしまった気がする。
「強引だな。まあ、これから運命を共にする者同士、情報共有しようじゃないか」
「運命を共にする者って……」
「君は魔剣に選ばれたんだよ。魔剣に選ばれた者は魔剣大戦に参加する資格を得る」
「だから、その魔剣大戦って何なんだよ」
「魔剣大戦は魔剣所有者同士が争い、勝ち残った者はどんな望みも一つだけ叶えてもらえる。魔剣はより強い欲求に惹かれる。君も魔剣に選ばれたんだ、叶えたい望みがあるはずだ」
「叶えたい望み……」
俺の望み。確かに俺の心の奥底には何重にも鍵がかけられた願いがある。
誰にも言ったことはない。
「参加する?」
悪魔は俺の瞳を鋭い視線で釘付けにする。そこには強い信念が感じられた。
「参加する。俺にも叶えたい願いがある」
「なら、ここに自分の血で名前を書いて」
俺は悪魔が渡した紙切れに自分の名前である『群青総司』と自分の指を噛み切り、書き込む。
すると紙切れは紫色の炎に包まれ燃えてしまう。
「燃えたぞ……」
「大丈夫。聖杯は君の参加を承認したから」
「そうか……だが、まだ聞きたいことはたくさんあるぞ」
「質問攻めだな。まあ、無理もないか。まあ、私が説明してあげるよ。その前に朝食にしようか」
俺が少女と共に部屋を降りると美味しそうな匂いがしてきて、二人のメイド服の女の子が食事を運んでいる。
俺は一人暮らし。住み込みのメイドを雇った覚えはない。
「ご苦労様。シロ、クロ」
「誰なんだこの子たち?」
「彼女たちは私のメイドだ。気にするな。さあ、食べながら魔剣大戦のルールでも教えてやろう」
少女は何食わぬ顔でステーキにナイフを通す。
朝からステーキって。重い。
それに俺の冷蔵庫にはこんなのなかったが誰の金で買ったのだろうか……
「どうぞ」
黒髪のメイドの子が俺の前にもステーキを置いてくれる。
「ありがとう。ちなみにこれ誰のお金?」
「そこの戸棚に入っていた封筒の中のお金を使いました。こちらはレシートです」
12,000円……それも俺の仕送りのお金で……。
「何か問題でも?」
「ないよ……できれば次からはリーズナブルな商品で頼むよ」
「かしこまりました」
メイドは台所の白髪の子の手伝いに戻る。
「さて、魔剣大戦について話そうか」
少女は大きな肉を一口でたいらげ、俺に説明を始めた。




