第1話 この身は主を守る盾
オーロ王国。現国王であるゴルドルフ・オーロディーテが重篤な病に伏して早1年。病が良くなる兆しは無く王は衰弱していくばかり、王国内では欲望が渦巻き次期王の座を狙う野心家達の狡猾な策謀の魔の手が音を潜めながら迫る。私、ジョシュア・グランツが仕える主ラヴィリア・オーロディーテ様も例外では無かった。ラヴィリア様は王位には全くと言っていい程興味が無い。だが、第一皇女という立場により望むも望まないも関係無く命を狙われている実に不憫なお方だ。
オーロ王国 西の城塞 ラヴィリアの自室
「ラヴィリア様…そろそろコレを外していただきたいのですが…」
私がある所を指差して懇願すると、呆れた顔で「ハァ〜」と深いため息を吐く美しい女性。この方こそ私が命を賭しても守り抜くと誓った主オーロ王国第一皇女ラヴィリア・オーロディーテ様である。
「何度も言ってるでしょ?ダメだって。貴方それを外したら10歳ぐらいの女の子にも負ちゃうんじゃない?」
「…いや…流石の私も…今なら10歳ぐらいの少女には…」
とは言ったものの騎士学校時代、自分よりも剣術としてはずっと下だった同級生の少女に負けたことがあるのだ。そのせいか強く断言出来ない自分がいた。
「昔の体験というものは体に染み付くものなのよ。戦ってる最中にフラッシュバックなんて良くあるものよ。あの英雄ゲッツでさえ格下の夢魔に搾り殺されたんだから。」
確かに…ゲッツと夢魔の話は有名だ。それを言われると返す言葉も出ない。
「はい!じゃあこの話は終わりね。さっさと支度しなさい、出掛けるわよ♪」
「…承りました。直ぐに部隊を手配します。」
ラヴィリア様は分かりやすく「え〜」と怪訝な顔をする。
「多いのは嫌。暑苦しいもの。」
「そうは言われましても…」
ラヴィリア様は一転して笑顔で語り掛ける。
「ジョシュア。貴方が居れば問題ないでしょ?私を命に変えても守ってくれるって誓ってくれたものね?」
確かに誓いはしたが、状況が状況だというのに…そんなに屈託のない笑顔で言われてしまうと強く出られない。私は渋々了承する事にした。
「分かりました。今回だけですからね。それともう1点、1人で行動するのは無しです。」
ラヴィリア様は全く反省する気は無く「は〜い」と言いながら「うふふ」と嬉しそうに笑う。ラヴィリア様も人が悪い。そう言われたら私が断れないことを分かっていて言っているのだから…。こうなったら何としてでもラヴィリア様を守ってみせる。この身が動かなくなろうと四肢を切り落とされたとしてもだ。
私はそう強く意志を固めて、ラヴィリア様と街に出掛けた。
「ジョシュア!次はあそこに行くわよ!」
「待ってください…ハァハァ…ラヴィリア様…そろそろ…一旦休憩を。」
大量の荷物を持つ私を尻目にラヴィリア様は「もう!だらしないわねぇ。そんなんで私を守れるの?」と可愛く怒っている。「こういう慣れないことは訓練などとは違う体力がいるものなんです。」なんて言い返したかったがそんな気力も起きずラヴィリア様から目を離さない様に着いて行く。「じゃあ、あそこのカフェで休憩しましょ?」とラヴィリア様はオシャレなカフェを指差した。ああは言ってもやはり私の主は根が優しいお人だ。私は1人誇らしく、そしてこの方に仕える事ができて嬉しく思った。
カフェに着きひと息吐く。ラヴィリア様はカフェラテ、私はキャラメルマキアートを注文した。
「ジョシュアって…意外と可愛いの頼むわよね♪」
そう言われると少し恥ずかしくなるが、苦いものが苦手なのだから仕方無い。
「はい…お恥ずかしいですが苦過ぎると中々二口目へと手が出なくなってしまうので…。」
ラヴィリア様は「可愛い」と言って微笑んでいたが、私は恥ずかしさで顔を逸らした。
「ジョシュア見て、このパフェ美味しそう!注文しましょ?」
「こんな大きいパフェ食べ切れませんよ。」
そう言うとラヴィリア様はムッとしながら「じゃあコレ」と言って小さいパフェを指さした。
「結局食べきれなかったですね。ラヴィリア様。最後丸々一個アイス残ってたじゃ無いですか。私が食べましたが。」
「うるさ〜い。ジョシュアが手伝って完食したんだから良いじゃない。それに私の食べかけ貰えて光栄でしよ♪」
確かに光栄だが、悔しいので黙って置くことにした。
気分転換の買い物を済ませ帰路に着こうとした所で異変に気付く。
「ラヴィリア様、私の近くへ。街の人の姿が見えない。」
先程まであった人の往来が途絶えている。
「そうね。幻術?それとも陣地にでも踏み込んだのかしら?」
間違いなくラヴィリア様の命を狙う者の仕業だろう。荷物を置き、警戒しつつ様子を見る事にしようと思ったが、我が主は強気なお人だ。大人しく黙っている訳が無かった。
「隠れてないで出てきなさい!全く!良い気分が台無しだわ。こんな手の込んだ面倒な事までやってくれちゃって。いかにも三下がやりそうな事ね。」
『三下』という言葉が余程効いたのか、この事態を起こした犯人と思われる人物達が出てきた。
「言うてくれるやないけ!噂通りの気ぃ強い姉ちゃんやで!のう!タタルカン!」
「クククッ…そうだね兄さん。陣地に踏み込んで怖がりもしないなんて肝が据わったお・ね・え・さぁん…だ♡」
2人組の男が出てきた。1人はいかにもごろつきといった風貌の男。もう1人は大人しそうだが少し厄介そうな雰囲気の男だ。だが、相手が男なら何とかなるだろう。
「ラヴィリア様、直ぐに片付けます。私の後ろにいて下さい。」
「頼むわね。私の騎士さん♪」
「…承りました。」
自分の後ろにラヴィリア様を隠す様にして剣を手に取り戦闘体制になる。
「ええな!ええな!兄ちゃんええやんけ!その物怖じせぇへん姿勢、嫌いやないで!冥土の土産ついでにワシの名前を教えといたるわ!ワシはキテツ!そこらの三下とは訳がちゃうで!」
別に興味は無かったがご丁寧に自己紹介をもらった、興味が無いので黙って受取拒否しておく事にする。
「クククッ…確かに良いね。主を守る為に命を賭けるその姿…最高に唆るよお・に・い・さぁん♡」
相手も武器を手に取り戦闘体制に入った。
「行くで!兄ちゃん!アンタに恨みは無いけど仕事やから悪く思わんといてや!」
ごろつき男が仕掛けて来る。本当の狙いは間違い無くラヴィリア様だ。だが前に陣取っている私が邪魔なのだろう。ごろつき男は真っ直ぐに私を狙っているみたいだ。あわよくば私諸共ラヴィリア様に痛手を負わそうという魂胆だろう。真正面から向かって来るなら、こちらにとっては好都合だが…。
「もろたで!今や!タタルカン!」
「…クククッ!分かったよ兄さん。…テレポート」
目の前で剣を振り上げたごろつき男の姿が消える。
「これが!瞬間移動カメカメ斬や!」
後方から無駄にデカい声が聞こえる。直ぐにラヴィリア様を抱き寄せ、くるりと回る。
直ぐさま、私の背中に鈍い痛みが走る。
「ジョシュア!」
「…くっ!…大丈夫です。心配なさらず。」
「兄ちゃん!やるやんけ!ワシらの連携技『瞬間移動カメカメ斬』で主を守る奴は初めてや!この技で何百人と主を守り切れへん奴がおるゆうのにな!」
「…クククッ!何百じゃ無いよ兄さん。78人だよ。」
「タタルカン!細かいことはええんや!」
コイツらふざけた感じだが見た目以上に手練れなのかもしれない。
「一気に畳むで!行くで!タタルカン!瞬間移動…」
次は目の前から姿が消える。瞬間移動しての攻撃。狙いはラヴィリア様…一か八か賭けて反撃する!
「カァメェカァメェ…ザァァァン!」
「そこだ!ここで捉える!」
ごろつき男が頭上から落ちてくる。落下中ではそれ以上の身動きは取れまい。そして…
「そうはさせないよぉ。テレポートっと。」
「それも読んでいる!ラヴィリア様!失礼します!」
「優しくね?」
私は強引にラヴィリア様を抱き寄せ、思い切り剣を虚空に突き立てた。
「ガハッ!」
虚空を突いた刃はごろつき男の右腕を貫いた。
「…ごめん兄さん。読まれてたみたいだ。」
「…ゼェ…ゼェ。お前は…ゼェ…ゼェ…悪いわー!空中でテレポート使こたらアカンってあれ程言うたやろ!どアホ!こっちも準備せな対応出来ひんねんから!」
「アハハハハ!ダッサぁい♪」
ラヴィリア様がご満悦のようで何よりだ。
ごろつき男が痛手を負っている間に手に持っていた剣を蹴り飛ばす。
「あっ!ズルいぞ!兄ちゃん!そんなんしたらアカン!」
私は心の中で「お前が言うな」と少しイラッとしたが、今は心の棚にソッと仕舞って置く。
ごろつき男はこれで殆ど戦意を失っているだろう。なので取り敢えず拘束して置く事にした。
「ゼファート製の特注品だ。戦闘中に使わなかった事を有難く思うんだな。」
丸いカプセルから蛇の様に動く縄がごろつき男を捕える。
「うわっ!何やコレ!離せ!離せぇ!」
両腕、両足そして首に巻き付いたロープは抵抗すればそれぞれのロープが巻き付きを強くする。
「辞めた方が良い。自分で自分の首を絞めるだけだぞ。物理的にな。」
「グゾォ!グェ!」
ごろつき男はやっと大人しくなった。
「後はお前だけだ。」
「クククッ!兄さんが負けちゃったら勝ち目は無いなぁ。でも、兄さんに諦めるなって言われてるしなぁ…たまには頑張ってみようか。」
そう言って杖を振り上げトロトロと息を切らしながら走って来る。
「…ハァハァ…ハァハァ。」
「何故テレポートを使わない?」
「…ハァハァ…クククッ…如何にも低脳な発言だね…愚問だよ…自分には使えないだけだ。」
全然威張る事じゃない。それに愚問なのだろうか?良く分からないがさっさと済ませる事にする。魔法男が杖を振りかざしてトロトロと走っている所で、ウロボロスMk-2(先程の拘束具)が魔法男をあっという間に拘束した。
「…ハァハァ…クソがぁ。」
「何故魔法を使ってこなかったんだ?」
「…ハァハァ…やはり脳筋の馬鹿は言うことが違うなぁ。使えないからに決まってるだろ。」
こいつは序盤の草むらに稀に出現する自分にテレポートが使えない弱体化版の○ーシィか何かなのか?と思ったがメタな発言はこのくらいにして置く。
その後無事に城まで戻って来た私達だったが「戻ったら直ぐに私の部屋に来なさい。」とラヴィリア様から申し付けがあった為、私は血で染まった服の身支度だけ整え直ぐにラヴィリア様の部屋に向かった。
「ラヴィリア様。ジョシュアです。失礼します。」
部屋の中に入るとエナメル質の際どい衣服のラヴィリア様の姿があった。
「痛たたたた!ラヴィリア様。その服は…痛っつつつつ!」
「そんな事よりジョシュア。服を全て脱ぎなさい。早くしてね。」
「痛たたたた!…承りました!」
私は命じられた通り早々と衣服を脱ぎ捨てる。
「ジョシュア。聞こえなかったのかしら?私は服を全部脱ぎなさいって言ったの。何でまだパンツ履いてるの?いつもしてるんだから恥ずかしくないでしょ?早く脱ぎなさい。」
私は衣類と呼ばれる物を脱ぎ辛うじて一糸だけ纏った姿になる。
「ほら手で隠さない!アハハハハ!ジョシュアやっぱり貴方って貞操帯姿が似合うわね!」
そう、私ラヴィリア様の近衛騎士ジョシュア・グランツは守るべき主から貞操帯でアレを管理されている。それには訳があるのだが、今は置いておこう。
「さっ、そこのソファに寝転んで?」
「…承りました。」
私はラヴィリア様から言われた通りソファに横になる。
「全く。私の騎士があんな雑魚相手にこんな傷負っちゃって情けないわね。」
そう言いながらラヴィリア様は消毒液を綿に染み込ませて手当てしてくれている。
「いっ!ラヴィリア様!そこは痛っ!そこは優しく!」
「だ〜め!このくらい耐えなさい♪これは油断してた罰ね。」
お見通しだったか…確かに一つ間違えればラヴィリア様に怪我をさせる所だった。反省して甘んじて罰を受け入れよう。
「あっ!でも〜それとはまた別に…オシオキ♪用意してるから楽しみにしてなさいね♪」
私の顔は青ざめたが我が主の意向に背く事はしない。
「…承りました。って痛っ!」
こうして、今日もラヴィリア様を守ることができた。この後別のオシオキをされた事は言うまでも無い。
こんな感じのお話です。軽い気持ちで読んでもらえればと思います。