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06. 今日も俺は愛しの婚約者を口説く【ラファエル視点】





 王家の紋章が入った馬車の中で眉間に深い皺を刻みながら文句を言うマリオを無視して王都の景色を眺める。



「聞いているのですか! 殿下!」



 ついに容量オーバーしたのか声を荒げるマリオ。俺は耳を押さえながらマリオの方へ向き直って座る。




「黙っていた事は悪かった。だが俺も今朝知らされたんだ」



「就任期間は?」



「二年間」



「二年間!? シナリオ真っ只中じゃないですか!!」



「大きな声を出すな。外に漏れる」



「今までの俺の苦労はなんだったんだ……」




 ヒロインとの接触を避ける為、俺達はとにかくフラグを折ることに力を注いだ。


 俺はアリスティアとの幸せな未来のため、マリオは自分のために。



 マリオも攻略者のひとりでバッドエンドでは牢屋か処刑。ハッピーエンドでもヒロインとは結ばれる事はないという不憫な役回り。


 ヒロインとの接触はなんとしてでも避けるべく動いてきた。


 しかしここにきての王命だ。



 アカデミー内は王国の縮図と言っても過言ではない。いずれ俺の臣下になる貴族の子息、令嬢たち。

 それを見極めてみよというのが父上の考えなのだろう。




「シナリオの強制力が働いたのか……」



 俺はポツリと考えていたことを口に出してしまった。

 その言葉が聞こえたのか、ブツブツと何かを唱えていたマリオはハッと顔を上げた。




「その強制力は人間の思考や感情にも関与できる力なのでしょうか!」



「そうなれば厄介だ。俺達は配役された通りに動かざる得なくなる。そうすれば全てが水の泡だ」



「なんと……」



 マリオはまた顔を歪めて俯きながら何かを唱え始めた。



 とにかく今はシナリオを手にしたアリスティアの様子が優先だ。

 そのために先触れも出さずこうして公爵邸へと向かっている。



 落ち込んでいないだろうか?

 クズな俺を嫌いになっていないだろうか?

 そもそも信じていないという可能性もある。


 何にせよアリスティアが傷付いていなければいいのだが……




「……って、本を読ませた張本人が何を言ってるんだ……」




 俺は視線をまた窓の外へ向けると、公爵邸が見えてきていた。




「マリオ、到着するぞ。切り替えろ」




 その言葉に虚な目のまま身なりと姿勢だけを整えていた。



 怖い……



 正面に座る虚な目に無表情のマリオに引いていると、馬車が止まり扉が開かれた。




 馬車を降りると一人の執事と数人のメイドが並んで頭を下げていた。


 俺は白髪の執事の元へ向かう。




「王国の輝くひとつめの星、王太子殿下にご挨拶いたします。シュネーハルト公爵邸へようこそいらっしゃいました」



「楽にしてくれ。先触れもなく大変申し訳ない」



「とんでもございません。アリスティアお嬢様から庭園へご案内するよう仰せつかっております。旦那様と奥様が不在のため、わたくしめがご案内させていただきます」



「ああ、よろしく頼む」



 執事の後に続いて公爵邸に足を踏み入れる。



 シュネーハルト公爵邸の庭は王宮にも劣らない見事な造りをしている。

 公爵夫人は実家でも素晴らしい薔薇園を有していたと聞く。その公爵夫人の采配なのだろう。




 迷路のような庭を抜けて、青と白の薔薇が咲き誇る庭園へと案内された。

 中心の大きな木に寄り添うように白いテラスが建っている。




 執事は俺の前に向き直ると頭を下げた。



「お嬢様がいらっしゃるまでこちらでおくつろぎください。お茶などもご用意しておりますがいかがでしょうか?」



「ありがとう。アリスティアが来るまでお茶は待たせてもらうよ」



「承知いたしました。何かありましたらいつでもお申し付けください」



 執事はまた一礼をしてテラス席の方へお茶の準備に向かった。





 この青の庭園はアリスティアの部屋に一番近い庭園だ。

 王国内でもここにしか咲かない青い薔薇は、アリスティアが研究して開発したもの。


 以前アリスティアから聞いた話によれば、月の光を吸収して青く染まったこの薔薇は、水をこまめに与え続けていなければ色が落ちてしまう。

 美しい青色を維持するために、一定間隔で水が撒かれるような魔法石が庭園中に埋め込まれているそうだ。




 薔薇を眺めて五分もしないうちにアリスティアが侍女を伴って向かってくる姿が見えた。



 庭園までは少し急いだのだろうか、ほんの少しばかり肩が上下に揺れていた。しかし優雅な歩き方になんの違和感もない。





「王太子殿下にご挨拶申し上げます。お待たせしてしまい大変申し訳ありません」



 こちらの急な訪問により急いできてくれたのにもか変わらず、完璧なカーテンシーで挨拶をするアリスティア。


 美しく真面目な所が本当に愛おしい。



「先触れもなく訪ねた私が悪いんだ。仕事が一段落ついたから、どうしてもアリスティアに会いたくなってしまってね。許してくれ」




 あのシナリオを読んでどうか傷付かないでほしい。

 俺には君だけなんだ、アリスティア。



 アリスティアに近づき手を取ろうとすると、彼女は少し乱れたドレスのリボンを整え、俺にお茶を勧めた。


 こうやっていつも華麗に回避されるんだよな……



 その勘の良さで悪役令嬢フラグも回避してくれるといいものだと思いながら、俺は案内されたテラスの席に着いた。






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