01. 悪役令嬢は断罪される
ルクランブルク王国建国祭
城下は花と活気で満ち溢れ、光の精霊が王国を包み込む一年で一番美しい日
——— パリンッ
華奢なシャンパングラスの割れる音が広間に響いた。
真紅にダイヤモンドが散りばめられた豪華なドレスにシャンパンが染みを作っていくが、誰もそれを心配などしない。そればかりか彼女の周りには誰も寄り付こうとはしなかった。
なぜならこれは、悪役令嬢アリスティア・シュネーハルト公爵令嬢の断罪イベントであるからだ。
「無礼者!! 離しなさい! わたくしにこのような事をして許されると思っているの!?」
二人の騎士に抑えられ、声を荒げる美しき公爵令嬢。
端正な顔を歪ませて睨む先には、この国の第一王子、そしてアリスティアの婚約者であるラファエル・フォン・ルクランブルクが立っていた。
腕を後ろに抑えられ、跪かされている婚約者を王太子は蔑むような目で見下ろしていた。
そしてその腕に絡みつく黄金の髪を持つ愛らしい容貌の少女。
重々しい雰囲気の中、口を開いたのは王太子だった。
「ここにいる皆の前で宣言する! アリスティア・シュネーハルト公爵令嬢との婚約を今ここで破棄させていただく!」
「なっ……!」
アリスティアが目を見開くと同時に、周囲でことの行く末を見守っていた貴族達からもザワリと声が上がった。
「静まれ!」
低く威厳のある声が広間を包み、王笏で床を鳴らす音が広間を再び静寂へと連れ戻す。
貴族達の視線の先には、この国を治める国王陛下が冷ややかな目でこの惨状を見下ろしていた。
「へ、陛下!! この野蛮な者達の愚行をどうかお裁きください!!」
アリスティアが冷たい目をした国王へ向かって叫ぶ。
「裁かれるのは其方の方だ。シュネーハルト公爵令嬢」
「陛下……?」
アリスティアが信じられないといった様子で驚愕の表情を浮かべていると、彼女を抑えつけていた騎士が素早く魔封じの手枷をはめた。
「其方、これが何か分かるか?」
国王が王笏を振ると、現れた透明な球体。
その中に白い何かが丸まっているのが見えた。
ドクリ
それを見た瞬間、アリスティアの心臓が大きく跳ね上がった。
「これは、北の地に封印されし竜だ」
人前で汗など垂らしたことなど一度もない公爵令嬢の額から汗が一粒流れ落ちる。
「二週間前、南の地に吹雪が吹き荒れほぼ全ての民が命を落としかけた。そして王都へ向かってこの竜は強大な力を放ったのだ」
これには国王を前に私語は許されないと理解している貴族達でさえも驚きの声を漏らさずにはいられなかった。
「そんな事はありえませんわ! 現に今、王都は存在しているではありませんか!」
皆がそう疑問に思ったであろう事をアリスティア自ら反論した。
「其方らが知らぬ事も当然であろう」
国王は貴族達を見渡し、続けて言葉を放った。
「星の女神の化身、リリィ・モルト嬢が王都に結界を張り、南の地の民を救い、そしてこの竜を封印したのだから」
先程よりも大きく会場がざわめいた。
「こっ、この平民が星の女神の化身?」
「リリィを侮辱する事は許さない!」
王太子がアリスティアの言葉に怒りを露わにする。
憎しみの込もった瞳を向けられたアリスティアは、王太子の腕に絡みつく令嬢を同じように睨んだ。
その様子を見ていた国王は、大きくため息をついた後、二度、王笏で床を鳴らした。
そして怒りに震えるアリスティアに向かって言う。
「アリスティア・シュネーハルト公爵令嬢、其方は貴族籍剥奪の上、一週間後、刑に処す。それまで地下牢で己の愚かさを悔やむといい」