ゼンマイ
ゼンマイ
起きてるな。砂の音がする。
闇は起きた様子もない。
イーグルは見慣れた暗闇の中で目が覚めた。
何も見えない。そんな闇だ。
この島に流れ着いてもう数日になろうとしている。昼も夜もなくて分からないが。
「ユリイカ、起きてるか。生きているか?」
隣りには一緒の船に乗っていたユリイカが絶えず手を離さず一緒にいた。
「ええ」
「スレイクもどこかにいるはずだ。探そう」
二人は互いを支え合って立ち上がった。足元はぐらつく砂で、ただ波の音が聞こえる。来てから、気が付いてからずっとそうだ。
こんな真っ暗闇は見た事がない。
ユリイカがいなければ狂っていただろう。
少し寝たら楽になった。
スレイクは気に入らない奴だったけど助けないと。命がある限り助けないと。
ユリイカの柔らかい手。僕以外、頼るものがないんだ。
この島には妙な物がいる。目に見えない占い師だ。時々、警句を言いに来る。足音もなく。
暗闇で精一杯目を開いていると何か見えてくる気がして不思議だ。星の明かり一つとてないのに。
ユリイカのあの端麗な顔も見られないなんて。
何の罪なんだろう。こんな島に打ち上げられて。
僕に何を失わせたいんだろう。
「シマシマにします?」
ユリイカの手がドキッと動いた。
また見えない占い師だ。
「悪いけど今度にしておくよ」
占い師は何かニタニタ笑ったような雰囲気で、どこかに行ったらしい。
ユリイカの僕の手を握る手が一層強くなった。
波の匂いが一層強くなった。
「スレイク?」
「スレイク?」ユリイカも呼んでいる。もうとうに生きてないのを分かっているのに。
「岩場に打ち付けられたかな」僕はユリイカを振り向く素振りをした。
本当に濡れたような闇だ。
「暗いと不平を言うよりもすすんで明かりをつけましょう」ユリイカの手が優しく胸に触れた。
「スレイク!」返ってくるのは波の音だけ。
「白馬でいっぱいのローラーコースターにでも乗ってるのかね?」
その時、白い波の跡が見えた。逃げ去る茶色い猫も。
打ち上げられた死体。すぐに闇は訪れたが、間違いだといいのだが・・。
「スレイクだろ? そうだろ? そうだよな?」イーグルは死体の感触を揺さぶった。ユリイカの手まで冷たい。
「神さま、神さま、」ダミ声で赤子のように甘えた。
悲しいのか嬉しいのか泣いていた。
死んでいたのはユリイカだった。無惨にも岩に打ち付けられ、白い残骸のようになっていた。
じゃあ、今、手を握っているのは?
「人生は楽しいな」突如、ユリイカの声がスレイクのあの図太い声に聞こえて、イーグルは頭を振った。
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胸に置かれた手も間違いようもなくスレイクのあのゴツゴツした手だった。
「ああ、判った」自分が自分の声を聞いてない。自分の声が反響して。
悪い太陽の仕業だ。
頭でネジを回すように指をクルクルと回した。
空気の歯車が大きく回転しようとしてる。
真っ暗な鉄の中へ。
神に照らされている!
「ウ、・・ムムム」それしか声が出なかった。