ケイト to レイナ 〜勇気を与える者〜
紫 凡愚と申します! この小説は少々特別な文体となっていますが、逆に普通の小説よりも読みやすいので、気軽に呼んでください!
そして続きが気になる。良かったと思う方は、評価とブックマークをお願いします。もちろん、ここはこうした方がいいんじゃないの? といった指摘も感想等でお待ちしています。
レイナへ
新聞を読んだよ。もちろん手紙もね。レイナは今、本当に辛くて、苦しいんだね。ただの幼馴染の村人の僕にでもその苦しさの末端くらいは分かる。
僕も、両親を失った時そうだった。何もかもがどうにでもよくなって、ただ時間だけが過ぎるのを待つばかり。秒針の進む音と共に、後悔が胸の内を侵食していく。
あの時こうしていたら。あの時こうしなかったら。変えられない出来事を悔やむだけの日々が続いていく。
君は村に帰りたいと言っていたね。僕は、それを止めることはしないよ。辛いことがあったらいつでも帰ってきてもいいんだ。
……でもね、少しだけ考えて欲しい。
レイナが帰ってきたい理由が、エリザベスさんとオスカーさんが亡くなってしまったことが原因なら、それは帰るべきではないと思う。
いいかい? 今から僕が書くことは君の負担をもっと大きくするかもしれない。
でも、ちゃんとそのことは理解しないといけないと思う、勇者としてね。
僕はあくまでレイナの味方だ。敵ではなく味方として、あえて厳しいことを言うよ。
勇者のために死んだ人は、何もその二人だけじゃない。
今でも魔人と人間の戦争はどこかで起きてる。
王国に家族を残して、魔人と戦う兵士がいる。そして彼らの大半が、その思い半ばで死んでいく。いつか勇者が魔王を倒してくれると期待を託して、天国へ旅立つんだ。
しかもそれは今の時代の人だけじゃない。魔王が誕生してからの三百年間の話だ。三百年もの間、兵士たちは、いつの日か誕生する勇者のために死んだ。
魔人に殺された一般人、僕の両親や君の両親だって、勇者が魔王を倒してくれることを願いながら命を落としていった。
遺族である僕や、兵士の遺族だって勇者のレイナに期待を寄せている。この悲しみが二度と起きない世界を作ってくれると。
レイナ、君は僕たちの想いの結晶なんだ。
君は死んだ兵士、殺された一般人、遺族、全ての悲しみの上に立って剣を振るっている。
もちろん、彼らの顔も名前も僕たちには分からない。でもそういった人が何百人、何千人、何万人といる、いや、いたの事実だ。
君は初めて、仲間を失った。しかも、幸せの絶頂にいたのにも関わらずだ。僕だったらそれに耐えられなかったかもしれない。
でも、レイナのために犠牲が生まれたのは、何もこれが初めてじゃないんだ。三百年間のありふれた犠牲の一部にすぎないんだよ。
少し話は変わるけど、僕たちがグロモンスべアに遭遇した時に、僕がほとんど一人で倒したと手紙で書いていたよね。でもそれは違うんだ。
僕は君が大きな怪物に一人で立ち向かう姿を見て、勇気が湧いたんだ。魔獣に挑む君の背中はとても小さいのに、かっこよく見えた。血だらけになっても立ち上がる君は、信託を受ける前から勇者にふさわしい姿だった。
もしレイナがいなかったら、きっと僕はあの場で何もできずに死んでいたよ。
君はあの時から僕の勇者だった。
両親が消えた穴にレイナが入って埋めてくれた。笑顔を取り戻させてくれた。僕に魔獣と戦う勇気を与えてくれた。
物語の勇者なんかよりも、君は勇者だった。
グロモンスべアを倒した後に僕が言った言葉を覚えてる?
「レイナのおかげで、僕はまだ生きてる。ありがとう」
君はその時、ずっと泣いていたから覚えていないかもしれないけど、僕は確かにそう言ったんだ。これが何を表しているのか分かるかい?
レイナは仲間を犠牲にしてしまったかもしれない。でもそれと同時に、誰かを救うことができるんだ。
カイク村に、エリクっているだろ。昼間から酒を呑んで、ろくに仕事もしない、あの酔狂エリクだ。
彼はレイナが勇者として村を出てから、少しずつ酒をやめて、今では農作業を頑張ってる。君の存在が彼に元気を与えたんだ。きっとレイナに元気付けられてる人は、エリクだけじゃない。きっと国中の誰かが、君から勇気を貰ってる。
君は数えきれない人の犠牲の上に成り立ってる。それと同時に、数えきれない人に勇気を与えてるんだ。
勇者っていうのはきっと「勇気のある者」ではなくて「勇気を与える者」なんだ。
君はオスカーさんとエリザベスさんという親しい人を失った。でもそれ以前に僕という親しい人を救っているんだ。
もし君がオスカーさんやエリザベスさんのことを思い出して辛いなら、君が救った人のことを思い出して。君に命を助けられた僕のことを。
それに僕が救われたのは命だけじゃない。この前の手紙に書いたろ? 僕はレイナに出会って笑顔を取り戻したんだ。もし君と出会っていなかったら、笑顔のない人生を送っていた。
僕は君のおかげで、生きて、笑っていられるんだ。
レイナは自分で思っている以上に強い人だ。気づかないうちに、僕を救っているくらいにね。
勇者をやっている以上、アルフレッドさんみたいに君を恨んでしまう人はいるはずだ。でもきっと君が勇者として活動するなら、それ以上の人を救えるはずだよ。
これ以上の言葉はもういらないよね。君はきっと立ち直れると信じてる。
レイナの健康は相変わらず祈りません。こんなことで健康じゃなくなるなんて思えないから。ケイトより
作者の紫 凡愚と申します!
この作品が面白い、気になると思った方は是非、ブックマーク、コメント、評価お待ちしています。途轍もないやる気になります! タイトル通りストックは最終話まであるため、人気になればどんどん投稿ペース上げてくのでよろしくお願いします!