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いつか死ぬ心優しい勇者と幼馴染の文通  作者: 紫 凡愚
第2章 初めての魔人討伐
7/50

レイナ to ケイト 〜二人の死〜

紫 凡愚と申します! この小説は少々特別な文体となっていますが、逆に普通の小説よりも読みやすいので、気軽に呼んでください!

そして続きが気になる。良かったと思う方は、評価とブックマークをお願いします。もちろん、ここはこうした方がいいんじゃないの? といった指摘も感想等でお待ちしています。


 ケイトへ


 今回は私から手紙を書くことにするわ。ここ最近、食事も喉を通らないし、自室にこもってばっかりでやることがないの。


 いや、もちろんやらないといけないことはあるんだけどさ。なんかもう、頭がぐちゃぐちゃでどうしたらいいのか分からない。


 とにかくあなたに手紙を書いて少しでもすっきりしたいの。……まあ、すっきりなんてできるはずないんだけどね。


 きっともう新聞読んだわよね。あれだけ前の手紙で大々的に宣言したのに、情けない記事になっちゃったわ。


 ……私ね、もっと自分が凄いと思ってたの。


 勇者に選ばれて、調子に乗ってたみたい。仲間と一緒に困難を乗り越えて、最後にはハッピーエンドが待っている、そんな童話みたいな世界に生きていると勘違いしてたの。


 でもこの世界は現実だった。当然よね。人なんて簡単に死ぬ。まるで自分が物語の主人公かのように信じていた私は、そんなことも忘れてた。


 甘い考えだったのは私だけ。


 魔人と戦う前の日にね、エリーがオスカーに告白しようとしてたの。


 私とアルフレッドでいい雰囲気のレストランを見つけてさ。そこで二人きりにさせることをエリーに伝えたの。そしたら彼女がそこで告白するって決断したのよ。


 そして計画の時間がきた。私とアルフレッドは遠くの席から二人を観察してた。紅茶を飲んでも飲んでも喉が渇いたわ。アルフレッドも同じだったみたい。エリーよりも私たちの方が緊張した。


 結果、その計画は失敗した。良い意味でね。


 私たちも驚いたんだけど、オスカーが先にエリーに告白したの。今でもその時のセリフを思い出せるわ。


「僕は年下だし、みんなのいう通りまだ子供だ。認めたくないけどね。でもいつかエリザベスを守れるような男になります。だから付き合ってください」


 彼は顔を真っ赤にしてた。でもそれ以上にエリーは顔を赤く染めて、目に涙を溜めてた。

 彼女の返事は想像できたけど、私たちはずっと見守ってたわ。


「たっく……。あたしから告ろうとしてたのになんで先言うんだよ。もちろんイエスに決まってんだろ」


 その言葉を聞い

 ごめんなさい、涙で文字が濡れて、前の文章が途切れちゃったわ。


 その言葉を聞いて私たちは二人の元に走って抱きついたわ。オスカーはいきなり私たちが現れて驚いてたけど、すぐに笑顔になった。


 私もエリーと一緒に泣いたわ。でも村を出てから一番の笑顔でもあった。


 それからはこれ以上ないくらい楽しい時間だった。二人が王都に戻ったらどこにデートに行きたいかを聞いたり、からかったり、とにかく楽しかったの。四人でカイク村に行こうなんて話までしてたのよ。


 いつもは仏頂面なアルフレッドもこの時はずっと笑ってた。


 ……そして次の日、エリーとオスカーは死んだ。


 魔人が思ったより強くて、苦戦してたわ。それでも何とか勝てそうだった。今までの修行の成果もあるけど、それ以上にコンビネーションが上手くいったの。


 きっとみんなで同じ未来を想像してたからだと思う。みんなで魔王を倒して、エリーとオスカーが結婚する。そんな未来を描いてた。


 気づけば、四人で一人の人間みたいに動いていた。全員の動きが手に取るように分かった。魔人の片腕を飛ばすくらいには追い込んだわ。


 そしてあと少しで倒せると思った瞬間に、魔人が何かを飲んだ。


 それが何かは分からないけど、興奮剤みたいだった。飲んですぐに、魔人の目が真っ赤に充血したと思ったら、形勢が逆転した。急にスピードも力強さも、魔法の威力も全てが増したの。


 今までとは別次元の強さを見せる魔人に私は何もできなかった。

 高速移動をする魔人の攻撃を避けることができなくて、蹴りが私の腹に入った。


 私は蹴り飛ばされて、壁に激突したわ。頭がクラクラして、立ち上がることもできなかった。でも私の視界には、魔人が強力な魔法を放とうとしている姿が映っていた。


 逃げようとしたけど、足が動かなかった。盾騎士のアルフレッドは魔人の近くにいて、私を守るには距離が離れてた。


 魔人は魔法を放った。視界が白く染まって、私はもう死ぬんだって思ったわ。


 でも死ななかった。目を開くと、私の前には体のあちこちが欠けたオスカーが立ってた。彼はもはや人間としての輪郭を保ってなかったわ。オスカーはその身を盾にして私を守ったの。


「オスカー? 嘘だろ? んなわけねぇよなぁ! 死ぬなんてそんなことないよなっ……」


 エリーの言葉が、空っぽの頭を反響した。私はその場を動けなかった。何が起きているのかが分からなかったの。頭がぼーっとしていて、まるで夢を見ているみたいだった。


 エリーは身体の欠けたオスカーに治癒魔法を施していた。でもオスカーからは血が流れ出るばかりで、治る兆しすらなかった。


「ぶっ殺してやるっ。てめぇはぜってぇに殺してやる!」


 オスカーが死んでしまったと理解したエリーはゾッとするほど憎悪を込めた声でそう叫んだ。

 彼女は目を真っ赤に染めて、とり乱してたわ。


「おい! よせ!」


 アルフレッドがそう言ってたけど、もうそんな言葉は意味がなかった。エリーはアルフレッドの声を無視した。


 自分で自分を止めることができなかったんだと思う。


 彼女は杖を掲げて魔人に向かっていって……死んだ。一瞬だった。魔人の腕を一振りしたら、彼女の首が飛んでいった。


 二人が死んで、私はうずくまることしかできなかった。夢だと思ったわ。


 だって昨日はあんなに幸せだったんだもの。こんな不幸が急にやってくるはずがない。本当は前日にオスカーとエリーが付き合ったところまでが現実で、今は眠ってるだけなんだって。


 でもそんな現実逃避は虚しいだけだった。


「おお! 勇者様が魔人を倒したぞ!」


 どこからかそんな声が聞こえた。

 そんなはずない、だって私はうずくまっていただけだもの。あとは死を待つだけ。そう思っていたけれど、それは現実だった。


 魔人は地面に倒れて、動かなくなってた。


 多分、魔人の飲んだ薬は命を削る代わりに、強くなれるものだったの。だからあれほどまでの力を出せたんだわ。追い込まれたから使ったのよ、きっと。どうせ死ぬからって。


 それからは……なんかあっという間だった。すぐに新聞が出回った。私に賞賛をくれる人もいたけど、エリーとオスカーを死なせてしまったせいで、冷たい目で見られることもあった。

 「人殺し」なんて言われたりしたわ。


 勇者って一体なんなのかしら。


 大司祭様が神託を受けて、選ばれるものらしいけれど、勇者ってそんなに偉いの? 私は勇者だからオスカーに守られたのよ。私は自分にそんな価値があると思えない。


 二人の葬儀が済んだ後、アルフレッドに会った。彼はとても憔悴していたわ。

 当然よね。付き合いで言ったら、彼の方が遥かに長い。私よりショックだったはずよ。


 私とアルフレッドが二人きりになった時、彼はいきなり私の胸ぐらを掴んだ。


「レイナがいなければ、あいつらは死ななかった! 勇者パーティーにならなければ、二人は今頃王都でデートをして、俺はそれを見て微笑んで、幸せな日々が待っていたはずなんだ!」


 あんなに冷静沈着なアルフレッドが声を荒げてた。もう涙も出てなくてさ、ただ目が充血してた。きっと涙が出なくなるほど、泣いたのよ。


 ……私は何も言えなかった。そして、逃げた。私は逃げたの。


 きっと私は、勇者に相応しくない。だって童話に出てくる勇者様は、いつでもみんなを守って、人を笑顔にして、私なんかとは正反対だもん。それに比べて私は、仲間に守られて、仲間を見殺しにしてしまった。


 私は「人殺し」よ。


 それから私はずっと宿の部屋にこもって、ぼーっとしてた。たまに王国の人が私を呼んでいたけど、外になんか出る気も起きなくて、ずっと黙ってた。


 私、もうカイク村に帰ってもいいかな? 私のせいで仲間が死ぬ姿なんて、見たくないの。

 自分が死ぬことは、覚悟してた。でも仲間が死ぬ覚悟なんてできるはずがない。


 一応、あなたからの返事も待つわ。今私が帰ったら、村も大騒ぎになっちゃうだろうからね。

 

 これ以上もう書くことはないわ。もう手紙を書く気力もなくなっちゃった。ケイトの健康を願ってます。レイナより


作者の紫 凡愚と申します!

この作品が面白い、気になると思った方は是非、ブックマーク、コメント、評価お待ちしています。途轍もないやる気になります! タイトル通りストックは最終話まであるため、人気になればどんどん投稿ペース上げてくのでよろしくお願いします!

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