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いつか死ぬ心優しい勇者と幼馴染の文通  作者: 紫 凡愚
第2章 初めての魔人討伐
4/50

ケイト to レイナ 〜ケイトとレイナの出会い〜

紫 凡愚と申します! この小説は半分が手紙で構成されているという少々特別な文体となっていますが、逆に普通の小説よりも読みやすいので、気軽に読んでください。

 レイナへ


 やあ、レイナ。久しぶり。ケイトだよ。


 最近、巷で君の噂を聞いたよ。グロモンスベアを倒したんだってね。しかも大した怪我もなかったんだって? すごいじゃないか。


 前回の手紙で書いていた通り、強くなったんだね。まさかレイナがこんなに早く成長するなんて思ってもいなかった。流石だよ。


 本題に入る前に、今の村の状況を知りたいよね。まずはそれから伝えるよ。


 ——特に変化なし、以上。


 ……いや、言いたいことは分かるよ。もっと何かいうことあるだろって思ってるんでしょ。でも田舎なんてそんなもんだろ? むしろ報告がない方が幸せじゃないか。特に問題は起きていないってことだし。


 あ、一個だけあるか。フリンの首が座ったんだ。バーバラおばさんが喜んでた。


 後は、本当に何もないよ。みんな幸せに暮らしてる。


 レイナはどんな感じかな。楽しく過ごしてる?

 まあ、レイナはいつでも元気で明るいから、すぐに友達なんかはできるよね。明るすぎるところが欠点だけど……。


 そういえば、巷を賑やかしている君に関するニュースがもう一つあったね。


 実際に魔人の討伐に行くんだって?


 正直言って心配だ。魔人は強い上に、狡猾で頭が良くて、残忍。ってそんなことはレイナが一番よく知っているか。

 一応、君が初の魔人討伐に赴くことは、レイナのお父さんとお母さんに報告しておいた。花とお供物も一緒にね。墓石の掃除もしたよ。


 なんか、いざお墓の前にたつと、色んなことを思い出しちゃった。


 君は知っていると思うけど、僕の両親は僕が幼い頃に亡くなった。カイク村を守る自警団だったけど、魔人に殺されたんだ。


 今でもお母さんが抱きしめてくれていた時の温もりを思い出すことがある。お父さんの低くて安心する声も覚えてる。あの時は、本当に幸せだった。その時はそれが普通で幸せだなんて思っていなかったけど。


 お母さんの言葉で、今でも頭から離れないものがあるんだ。


「ケイト、大好きよ」


 これはお母さんが血を吐きがなら、最後に告げた言葉だ。

 魔人に胸を貫ぬかれていて、意識も朦朧としてたと思う。お母さんは、定まらない焦点で僕の方を見てた。喉に血が詰まったのか、肺に穴が空いていたからかは分からないけど、綺麗なお母さんとは思えないくらいしゃがれた声だった。


 そんな中、最後の力で僕に愛を伝えたんだ。


 ——涙を流しながら、笑顔でね。


 それ以来、僕にとって「大好き」っていう言葉はこれ以上ない重い意味を持つようになった。

 お母さんの最後の姿と言葉は僕の心を蝕んだ。温かいはずの言葉は、お母さんが死んだ悲しみによって、僕の心を腐らせる毒へと変わってしまった。


 僕は両親を殺した魔人を恨んで、でも復讐することもできなくて、どうしようもなくて無気力になってしまったしまったんだ。


 そんな僕の前に、君が現れた。


 初めて会った時のことは、強烈に記憶に残っているよ。


 君と出会った日、僕は野原の上に寝転んで、ただ空に流れる雲を眺めていた。正確には、雲の上にいるであろう、お父さんとお母さんを眺めていた。


 知っての通り、僕は黒髪黒目、忌子だ。僕は村のみんなから無視されてた。関わると災いが訪れるってね。

 そんな僕の唯一の味方が両親だった。僕にとって生きがいだった両親の死が受け入れられなくて、ずっと空を眺めてたんだ。


 ——僕は、近いうちにお父さんとお母さんのもとに行くつもりでいた。


 陽の光が僕を柔らかく包んでいて、まるでお母さんに抱きついているような心地がした。幸せな記憶を思い返しながらまどろんでると、いきなり水をぶっかけられたんだ。


「ねえ! 『寝耳に水』っていうことわざを試してみたんだけど、どうだった?」


 一瞬いじめかと思ったよ。でも、桶を持った君を見るとそんな感想は吹き飛んだ。とにかく純粋な目をしていて、満面の笑みだった。とても悪意のある顔には見えなかったんだ。


「これじゃあ『寝耳に水』じゃなくて、『寝顔に水』だよ」

「あはは! 確かに!」


 君は大笑いしてたね。普通だったら怒ってもよかったんだけど、その声を聞くと怒る気も失せた。しかもレイナにつられて、僕まで笑ってしまった。


 今だから、というか手紙だから言えるんだけど、両親が亡くなってから初めての笑顔だったんだよ。

 忌子である僕にとっては、何よりも嬉しかったんだ。差別意識のない君の存在が。


 僕は君のおかげで笑顔を取り戻したんだ。本当にありがとう。……こんな気恥ずかしいこと実際には言えないや。良かったよ、手紙があって。


 あ、でも、僕に水をかけたことはいまだに根に持ってるからね。いつか顔中を濡らしてやる。


 その日以降、僕たちはずうっと遊んでたね。毎日毎日、騎士ごっこやおままごとをしていた。でも僕たちは普通の男の子と女の子とは違った。


「僕、おままごとやりたい」

「やだ! ケイトは私と騎士ごっこやるの!」


 こんな会話をよくしてたの覚えてる? 騎士ごっこは男の子の遊びで、おままごとは女の子の遊びなのに、僕たちはいつも反対の遊びをしたがったんだ。


 内気な僕と、明るいレイナを表すのに、遊びの好みの違いは本当に的確だよ。まさしく僕たちの性格が表れてる。


 遊びの好みも性格も正反対。

 

 だから、驚いたよ。君の両親も同じ魔人に殺されていると知った時は。


 今から考えると、僕たちが騎士ごっこの敵役の定番である魔人役を嫌がっていたのはこれが原因だったんだね。結果、騎士と騎士で戦うっていう、謎の世界線で騎士ごっこをしていたわけだ。


 とにかく、僕は驚いたんだ。僕と同じ境遇ながら、底抜けの明るさを持っている君に。なんでこんなに明るく生きていられるのか、正直僕には検討もつかない。でもレイナが一緒にいるだけで、僕は笑顔になって、安心する。それこそ、両親と一緒にいたときのように。


 ……あんまりこういうことは言いたくないけど、両親が亡くなって良かったことが一つだけある。


 それは今ある幸せを幸せだと認識できること。幸せっていうのは失って初めて、それが幸せだと認識できるんだ。

 一度僕は両親と過ごすという幸せを失った。だからこそ、レイナと一緒にいるっていう幸せが認識できるんだ。


 つまり、僕が何を言いたいかっていうと……死なないで、レイナ。


 何があっても君が生きてさえいれば、僕は幸せになれる。もうその幸せを失いたくないんだ。


 ……なんか告白みたいになっちゃった。違うからね! そういうのじゃないから! ただ、死んでしまうかもしれない幼馴染に手紙を書くとなると、普段言わないようなことも言いたくなるんだ。


 せっかくだから、普段言わないことをもう一個言っとこうかな。


 あの時、僕に水をかけてくれてありがとう。

 君が僕と友達になってくれたから、忌子でも普通の人間だということが村の人たちが理解できたんだ。そして今では村人の一人として、みんなと仲良く暮らしてる。


 本当にありがとう。


 ああ、そうだ。この前の手紙の最後に書いていたけど、いつか僕に勝負を挑むらしいね。もちろん受けてたつよ。村一番の狩人の力なめないでよ。


 だいぶ話が長くなったね。とにかく、無理しないで体に気をつけて。

 忙しいと思うけど、もし時間があったら、手紙をください。


 最後に一つ言い忘れてた。別にいつ帰ってきてもいいんだけど、王都で流行りのお菓子は忘れずに。それがなかったらカイク村に入れることはできないよ。


 レイナの健康を……、いやどうせ健康だからいいや。ケイトより



作者の紫 凡愚と申します!

この作品が面白い、気になると思った方は是非、ブックマーク、コメント、評価お待ちしています。途轍もないやる気になります!

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