レイナ to ケイト 〜神音放送と死の予感〜
紫 凡愚と申します! この小説は少々特別な文体となっていますが、逆に普通の小説よりも読みやすいので、気軽に呼んでください!
そして続きが気になる。良かったと思う方は、評価とブックマークをお願いします。もちろん、ここはこうした方がいいんじゃないの? といった指摘も感想等でお待ちしています。
ケイトへ
ケイト、また励ましてくれてありがとね。最近、よく弱気になっちゃうの。でも私、心優しいなんて言われたのは初めて。ちょっとだけ自信が持てた。
私、あともう少しで魔王城に着くの。少しって言っても、あと三週間くらいかしらね。でも魔人領に入ってから、魔王の気配を常に感じるの。すごい離れているっていうのに、魔王の威圧感がここまで届くのよ。
やっぱり怖いわ。
手紙で私が勇者に選ばれた理由を書いてくれたわよね? 本当かどうかは分からないけど、実はそれが真実かどうか確かめる方法があるの。
私が魔王討伐に成功したら、神様が神音放送をするんだって。
……このことは国家機密だから絶対に言わないでね。
もしかしたら神音放送について知らないかもしれないから、書いておくわね。
神音放送は神様が世界中にその声を響かせて、語りかけることよ。
前回の神音放送は三百年前。魔王が誕生したと告げられた時よ。その時は世界中に神様の声が轟いて、人間は魔王を倒しなさいという命令を受けたの。
それが再び、私が魔王を倒した二週間後に行われるらしいわ。
これが公になっていないのは、魔王討伐に失敗した時の人民の落胆が大きくなるからなんだって。まあ、理由はわかるわ。神様の御声なんて、みんな聞きたいに決まってるし。
神音放送で一体どんなことが話されるかは分からないけど、もしかしたらそこで私を勇者に選んだ理由が分かるかも知れない。こんなに弱くて、幼馴染に励まされてばっかの私が勇者となった理由が。
でもこの際、理由なんてどうでもいい。今は魔王を倒すことに専念しないと。
ごめんなさい。一つだけ言わせて欲しいの。
……私、多分今回の旅で死ぬわ。
あなた、冗談でも死ぬなんて言わないでって言ってたわよね。こんなこと聞かされること嫌がっているのなんて百も承知よ。
それでも言わせて、私は多分死ぬ。
なんて表現すればいいのかしら。この戦いが終わって自分のビジョンが見えないの。普通の暮らしをしているのが想像できない。カイク村で起きて、自分の仕事をして、ケイトと遊んで、寝る。
数ヶ月前は当たり前にやっていたことだったのに、今ではそれが遠い暮らしのように思える。
それに魔人領に入って、魔王の存在感が伝わってきて、怖い。私も多少は強くなって気配で相手の強さを大まかにはわかるようになってきた。
魔王はきっと途轍もないくらい強いわ。私が魔王を倒すっていうのは、そうね……、例えるなら、地上から雲を斬るって感じかしら。手も届かない位置に存在する相手を斬る感覚に似てるかも。
……でも、それでも必要とあれば、雲どころか月だって斬ってみせるわ。例え相打ちになったとしても仕留めてみせる。
私が魔王を倒すことに弱気になっているのは、何も実力だけじゃないの。
少し長くなるけど、ある話を聞いて欲しいの。
魔人領についてすぐ、私たちは近くの村を拠点にすることに決めたんだ。
伝え忘れていたんだけど、今回の遠征には騎士団も参加してるわ。私を無事に魔王城まで送り届け、できるだけ体力を温存させて魔王の元まで向かわせるためにね。
大人数での活動だから、拠点が必要なの。でも魔人領の村ってことは、当然魔人が住んでいるわけじゃない? だからそこの村を攻めることになったの。
そこでの話は……、あんまり思い出したくない。
騎士団が一斉に村を蹂躙した。いきなり襲われた魔人たちは、ただ逃げ回ってた。かつてカイク村に魔人が襲撃に来たときみたいにね。
戦わない魔人なんて、騎士団にとってはウサギと一緒。追い回して、殺す。何人もの魔人が悲鳴を上げながら、殺された。
私はその戦闘に参加することができなかった。ただ、たちすくんでた。泣き叫んで命乞いする魔人を見て、自分が悪の権化のように思えた。
そうするうちに、目の前で子供の魔人が殺されそうになった。男の子と女の子だったわ。二人は多分兄弟だったと思う。仲がとても良さそうだった。
手を繋いでいる二人はまるで私とケイトみたいだった。
そんな二人が騎士に剣を向けられているのを見て、咄嗟に体が動いた。気づいたら、剣を弾き飛ばして魔人を守ってた。
「この村にもはや抵抗する魔人はいない! これ以上殺さないで!」
私がそう叫んでも、騎士団は聞く耳を持たなかった。彼らは戦場で何度も同僚を殺されている。だから復讐したかったのよ。
その証拠に、騎士たちは笑っていたわ。殺戮をすることで、負の感情を発散していたの。
そんな彼らの虐殺を止めることはできなかった。
……本当に私って無力なのね。
騎士たちを止めることが不可能と考えた私は、魔人の子供たちを連れて隠れた。二人を逃がそうとしたの。
そして村から離れた森まで連れていくと、決して村には帰らないことを約束して別れた。その時に男の子が言ったの。
「いつか復讐するから。僕たちは何もしてないのに、村を破壊されて、目の前でお母さんとお父さんを殺された。お姉ちゃんには感謝してるけど、いつか必ず復讐する」
そして二人は森を駆けて行った。あっという間に見えなくなったわ。
ケイトは私が人間に好意的な魔人に出会っているのではないかと予想していたわよね。
きっとあの二人の子供の魔人は人間に好意的だった。優しくて差別なんか知らない優しい子供たちだった。そんな二人が、人間に敵対する瞬間を目の前で見たの。
私が村に戻ると、魔人の死体がたくさん転がっていた。彼らが暮らしていたであろう家は燃えていて、地獄みたいだった。
今まで気づかなかったけど、私たちは地獄に住んでいるみたい。
騎士たちは嬉しそうに死体を蹴っていたわ。満面の笑みでね。その光景を見て、私は怖くなったの。彼らが地獄に住む悪魔みたいで。
逃げたんだ、私。魔人よりも人間の方が遥かに恐ろしい怪物に見えたの。だから私、今一人で魔王城へ向かっているんだ。
一人になって、ついつい考えてしまったわ。魔王を倒すことが本当に正しいのかって。
彼らは普通の暮らしをして、人間なんかと関わることなかった。でも魔王を倒したら、いやでも人間の支配下になるわ。
それって正しいのかしら。
あの日以来、そんな疑問が心の中に渦巻いてる。もし、私の魔王を倒すという目的に絶対の正義があれば、命をかけてでもやり遂げてた。でもその根幹が揺らいでしまったら、魔王と対面した時、迷いが生まれる。正しくないことに、自分の命をかけているのかと考えてしまう。これは致命的なことなの。
自分を犠牲にしてようやく倒せるかもしれないという相手に、犠牲にすること自体を疑問にして戦うのよ? 勝てるはずがないわ。
だから、私は死ぬ。魔王に挑んだところで、勝てない。
ごめんなさい。こんな話をしたところで、なんて手紙を返せばいいのか、分からないわよね。
でも少しでも私の疑問をあなたに、人間に抱いて欲しかったの。
ケイト、ひとつだけお願いがあるの。両親を魔人に殺されたあなたに頼むには、酷なお願いよ。
私が魔王を討伐したら、魔人を守ってあげて。
あなたならできるわ。だって、勇者の私よりも、あなたの方が強いのよ? きっとできる。ケイトがこのお願いを聞いてくれるなら、私は魔王を倒せる。たとえ魔王を倒すということが間違いでも、その後の魔人たちをあなたが守ってくれるなら、私は命をかけることができる。
それに魔王を倒すということを放棄して村に帰ることはできないわ。ケイトは優しいからそう言ってくれると思うけど、それは無理。
なんにせよ、人間と魔人の憎しみの連鎖を断ち切るには、魔王か勇者が戦ってどちらかが、もしくは両方が死ぬという象徴的事実が必要なの。
だから私の願いを聞きとげて。
これでこの手紙は終わりにするわ。ケイトと手紙で会話できるのは、あと二回くらいしかないわ。あなたから返信があって、私が返信を返す。その後にあなたが返事を書けるかどうかと言うところね。多分その頃には魔王城についているわ。
あとちょっとしか話せないっていうのに、こんなしんみりした話でごめんね。レイナより
作者の紫 凡愚と申します!
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