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いつか死ぬ心優しい勇者と幼馴染の文通  作者: 紫 凡愚
第1章 文通の始まり
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レイナ to ケイト 〜天真爛漫少女〜

紫 凡愚と申します! この小説は半分が手紙で構成されているという少々特別な文体となっていますが、逆に普通の小説よりも読みやすいので、気軽に読んでください。

 ケイトへ


 初夏の陽射しが瑞々しい若葉を照らす季節となりましたが、ケイト様はいかがお過ごしでしょうか。私は青々とした草木のように元気に過ごしています。


 ……どうよ、この文章! すごいでしょ! 書き出しだけ貴族の友達に教えてもらったのよ! 


 うーん。書き出しはいいけど、この後何を書けばいいのか、さっぱり分からないわね。手紙なんて初めて書くし、ケイトも知っての通り、私、そういったちまちました作業、苦手じゃない?


 とりあえずケイトに習って近況報告から始めるわ。


 いや、やっぱりやめた。なんか癪に障るわね、ケイトを参考にするの。なんか手紙の書き方で負けた気がするわ。何より、あなたの意地悪そうな顔が目に浮かぶ。手紙のルールなんて知らないし、早速本題から入るわ!


 ケイト、ありがとう。


 カイク村の手紙が私のいる王都に届くまで、だいたい一、二週間くらいかかっていると思う。その時に私は、まさしくあなたのいう通り悩んでた。悩み事の内容まで、全く同じだったわ。


 さすが幼馴染と思う反面、自分の思考読まれてるみたいで腹たったわ。なんであなたは私の思ってること全部分かるのよ。


 ……よく考えたら、私もケイトの考えてること全部分かるわね。お互い様か。


 話を戻すけど、王都に来たばっかりの時は、すごく楽しかったの。田舎の暮らしにはない刺激的な毎日だったわ。


 ねえ、知ってる? 王都は至る所にランプがあって、夜も暗くならないの。私がパーティーで着ている服なんて、一着で村の一年分の税金くらいの価値があるのよ。


 ……でもね、自由がない。


 朝起きて、訓練して、お昼ご飯食べて、訓練して、夕食食べて、貴族と会って、寝る。それ以外のことは許されてないの。


 私にとって訓練は大した困難じゃないわ。剣を振るうことは、昔から好きだったし。それに魔法を学ぶことも楽しい。今までできなかったことができるようになるっていう達成感は嫌いじゃないわ。


 でもそれ以外のことがね……。


 貴族は皆、私を粘つくような目で見るの。視線が肌に貼り付くみたいで気持ち悪い。あわよくば取りいってやろうっていうのがバレバレ。打算でしか付き合わない。


「これは美しい勇者様だ。ぜひこちらの品を受け取ってください」


 このセリフ、誰のだか分かる? ゲーデルの言葉よ。いつも威張り散らした態度で税を回収にくる、あのゲーデルよ。あんな奴がヘコヘコ私のご機嫌をとるの。勇者ってすごいわ。


 ……誰も私をレイナとして見てくれない。みんなはあくまで勇者という仮面をつけた私と会話してるの。


 私、耐えきれなくて、一回逃げ出そうとしたんだ。


 でも帰る場所がない。村に帰ったらなんて言われるか分からない。それに、王都を通れば町中の人が私に食べ物とか、いろんなものをくれる。満面の笑みでね。みんな私に期待してるの。私が魔王を倒すとみんな疑わないわ。もうどうしたらいいのか、本当に分からなかった。

 

 そんな時に、ケイトの手紙が届いた。


 嬉しかったわ。幼馴染の手紙っていうのもそうだし、村のみんなの状況が知れてよかった。バーバラおばさんの子供も早く見たいわ。


 でも、もう少し先になりそう。


 私、しばらく頑張ってみることにする。だって本当に辛くなったら、いつでも帰れるんだもの。


 手紙で聞いたわよね、熊の魔獣を倒した時のことを覚えているかって。もちろん覚えているわ。あの時の恐怖も、あなたの表情も。


 逆に私もあなたに聞きたいことがあるの。


 なんで私が勇者に選ばれたんだろう。


 あなたは私と二人で熊の魔獣を倒したって書いていたけど、実際違かったでしょ? 本当はケイト一人であの魔獣を倒した。私が突き飛ばされたことに怒ったあなたは、あの怪物に一人で挑んだの。


 そんなケイトの姿を私は見ることしかできなかった。加勢なんてしても足手まといなのは私が一番分かってた。


 ——あの出来事以来、いつもチャンバラごっこで勝っていた私は、二度とケイトに勝つことができなくなった。


 王都に来てしばらくして、魔獣の生態を学ぶという授業があったの。今後戦うことになるからって。

 そして図鑑であの熊の魔獣を見つけた。名前はグロモンスベア。一流の騎士が束になってようやく倒せるほどの魔獣だった。凶暴で執着心の強い性格をしてるから、今まで小さな村が何度も潰されてきたんだって。


 それをあなたは小さな時に一人で倒したの。


 私よりもケイトの方が勇者になるべきだったんじゃないかって思ったわ。勇者として修行を積んだ私でも、まだケイトに勝てる気がしない。


 私に剣を教えてくれるローゼ師匠曰く、私はまだグロモンスベアを倒せるような実力じゃないって。

 私、本当に勇者としてやっていけるかしら。


 ……なんてね! 私が落ち込んでると思って心配した? ふふん、前の手紙で私をからかった罰よ。


 私がそんなことで落ち込むわけないじゃない! 負けん気の強さなら、誰にも負けないわよ! 手始めにグロモンスベアから倒すわ! 恐れおののいて待っていなさい!


 いつかケイトが羨むほど強くなってみせるわ!


 だって私はあなたが魔獣を倒した姿に憧れて、剣を握ってるんだもの。いつまでも憧れているなんて性に合わないわ。


 目の前に壁が現れたらそれを乗り越えるんじゃなくて、壊して通るのが私のやり方よ!


 最後になってしまったけど、改めてお礼を言うわ。本当にありがとう。カイク村であなたが応援してくれると考えているだけで、力が湧くわ。


 なんか気恥ずかしいわね。手紙だと思わず本音を書いてしまう。


 あ、それから、いつかまたケイトに戦いを挑むわ! それまでしっかり強いままでいてよ! 狩人のあなたなら、心配ないでしょうけど。


 それじゃあね! また手紙を頂戴!


 健康なんて祈らなくても、あなたは健康だから祈らないわ! レイナより


作者の紫 凡愚と申します!

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