ケイト to レイナ 〜文通の始まり〜
紫 凡愚と申します! この小説は半分が手紙で構成されているという少々特別な文体となっていますが、逆に普通の小説よりも読みやすいので、気軽に読んでください。
レイナへ
やあ、レイナ。僕です。ケイトだ。元気してますか?
手紙なんて初めて書くから緊張して変な書き出しになっちゃったよ。
君が十六歳の誕生日に勇者に選ばれ、カイク村を出て行ってからもう二ヶ月か。レイナがいない村での生活は退屈で、長く感じる。みんなも同じみたいでさ、村から勇者が生まれたのを喜びつつも、寂しそうにしてるよ。
そういえばバーバラおばさんの子供が生まれたよ。泣き声が大きい元気な男の子だ。フリンっていう名前なんだ。今じゃ村中から可愛がられてるよ。僕達のカイク村みたいな小さな村にはありがちな話だけど、バーバラおばさんの子供っていうよりも、村の子供って感じなんだ。
早くレイナに見て欲しいなあ。本当に天使みたいなんだ。
バーバラおばさんも、
「早くレイナちゃんに会わせてあげたいわ」
って言っていたよ。次いつ会えるか分からないけど、ぜひ一緒に遊んであげて。
さてと、近況報告はこのくらいでいいか。本題に入るよ。僕がこのタイミングで手紙を書いたのには、理由があるんだ。
正直、今の生活辛いでしょ?
違ったらいいんだ。気にしないで。でも、幼馴染としての勘が言っているんだ。今、レイナが悩んでるって。
……別に常にレイナのことを考えてるとか、そういうことじゃないからね。気持ち悪がらないでよ。
レイナは人前で強がる癖があるから、きっと周りの人には悟られないようにしていると思う。でも実は誰よりも繊細で、考え込むタイプだよね。
まあ、君は認めたがらないけどさ。
今のレイナの状況はただの村人風情の僕でもなんとなく想像がつく。今までとは違う華やかな生活をしているはずだ。ふかふかなベッド、豪華なシャンデリア。それだけじゃない。魔人を倒すための厳しい訓練や、パーティーでの貴族との顔合わせ、新しい仲間との交流。
忙しくて目が回りそうだよね、きっと。
誰もが羨む勇者の生活。でもそれは君の望んでいるものじゃないはずだ。
何年も友達をやっていれば分かるさ。レイナはふかふかなベッドよりも、草原で寝転ぶ方が好きでしょ? シャンデリアよりも月明かりや星明かり、パーティーよりも騎士ごっこ。君はそういう人だ。
それにレイナを悩ませるものは激変した生活だけじゃない。
君はいつか魔人の王、魔王を倒すと国中から期待されている。いや、この国の人々だけじゃない。人類全員の期待を背負ってるんだ。
それに村中の期待も背負ってる。カイク村の皆が君を誇りに思ってる。これ以上ない期待を寄せている。
だから、どんなに辛いことがあったって、カイク村には帰れない。
……なんてね。レイナの考えている悩みを想像して書いてみた。図星だったかな?
——あのね、レイナ。そんなに背追い込まなくていいよ。
僕を含め、村の皆は「もしかしたらレイナがすぐに帰ってくるかも」なんて話してるんだ。
君のことを誇りに思っているっていうか、うーん、ちょっと表現が難しいな。誇りには思ってるんだけど、それよりも村でも悪ガキで有名だったおてんば娘を本当に世に出していいのだろうかっていう、ちょっとズレた心配の方が勝ってるよ。
顔も知らない人たちの期待はいまいち想像つかないけど、少なくとも君の故郷、カイク村に住む僕たちは、君が全てを放り出して帰ってきてもいいと思ってる。
よく泣く子供の面倒はフリンで慣れてるからね。
……今、からかわれてちょっと怒ったろ。僕にはお見通しだよ。
まあ、とにかく。いつでもレイナを待ってる。期待なんてしてない。だって僕たちは勇者のレイナなんて知らないから。カイク村で一番のおてんば娘のレイナしか知らないんだ。
帰る場所はいつでも用意されてる。君の家のベッドは二ヶ月たった今でも、僕が綺麗に整えてるよ。
小さい時、僕たちが騎士ごっこをして森に入った時のことを覚えてる? 僕は身の丈に合わない大きな斧を引きずって、君は身長と同じくらいの剣を持っていたよね。
そして出会った、熊のような魔獣に。
逃げることもできなくて、どうしようもなかった。僕は震えながら斧を構えたけど、分不相応な武器だったから、あまりの重さに体をよろけさせた。とてもじゃないけど、魔獣なんて倒せるような男の子ではなかった。
本当に怖くて、魔獣と目を合わせることだけで、僕は手一杯だった。
でも君は立ち向かった。震える身体を強引に鎮めて、剣を握りしめ、魔獣に自ら突っ込んでいった。
当然勝てるはずもなく、すぐに返り討ちにされたけどね。たった一撃で十メートルは吹っ飛ばされたかな? よく死ななかったよ。
それだけ圧倒的な力の差があったのにも関わらず、レイナは頭から血を流しながら、また剣を握って、魔獣に立ち向かおうとした。
僕はそんなレイナを見て、勇気が湧いた。僕よりも小さな体をしているのに、自分よりも大きな魔獣に勝負を挑む君がかっこよかったんだ。
その後はどうなったんだっけ……。そうだ、結局二人で魔獣を倒して、全身血まみれで村に帰ったんだ。こっぴどく怒られたよね。
でもカイク村のみんなは怒りながら、泣いてくれてた。
今から思い返すといい思い出だけど、無謀だった。若気の至りってやつかな。まあ、僕達はまだ十七歳だけど。
少しだけ話がそれた。つまり僕が言いたいのは、レイナは自分で思っているよりも強い人間だってことだ。
小さな体で大きな魔獣に立ち向かった時と、今の状況は何も変わらない。あの時から体が大きくなった分、敵も大きくなっただけだよ。しかも今回はいつでもカイク村に帰れるおまけ付きだ。
レイナなら、どんなに辛いことがあっても乗り越えられる。あの時のように。
何か辛いことがあったら、僕や村の人を思い出して。きっと力が出るはずだ。だって僕たちだってレイナを思い出せば力が湧くんだから。
君は本当に村の人から愛されてるね。もちろん僕も、レイナのことがだいす……、やっぱやめた。恥ずかしいし、柄じゃないし、そういう言葉を軽く使うことは嫌いだ。
さてと、そろそろランプの火が消えそうだから、手紙はこのへんにしとくよ。もし時間があったら返事を書いてくれると嬉しいな。
レイナの健康を祈っています。ケイトより
作者の紫 凡愚と申します!
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