必滅山兄弟
何事かと外に向かった俺達は、玄関の前で地面に突き刺さっている2人の人間と2本の箒を見つけた。
「ウゥ……ここは冷蔵家でオーケー?」
地面から抜け出した1人がそう聞いてきた。
「おい虚弥、あの燃えるような赤髪の英雄はこの世界で1人しかいないぜ?」
もう1人が地面に突き刺さったままの箒を見て「うへぇ……折れてるぜ。お小遣いが……」と呟きながら立ち上がった。
「……そっくりね」
そっくりどころじゃない。この2人、見た目が全く一緒だ。異世界でも一卵性双生児は生まれるのか、と俺は場違いなことを考えた。
「ところで、あなた達は誰なの?」
猫子が警戒しながら2人に聞く。
「おっと、自己紹介をしていなかった」
「俺は必滅山素弥。で、こっちが必滅山虚弥。俺の双子の兄さ」
「まぁ、母さんでさえ見分けがつかないからな。別に間違えられても気にしないぜ?」
母でさえ見分けがつかないとは。ってそういうことじゃない。
「あの……それで虚弥さんと素弥さんは何をしにここへ?」
俺が質問すると、2人はパァッと顔を輝かせ喋りだした。
「そりゃもちろん!冷蔵家の2人にカシミール学院の推薦状を渡すためさ!」
「本当は君夫家の守則が渡しに行くはずだったんだけど、あいつなんかにこんな名誉な役目を……」
カシミール学院の推薦状?魔力のない俺達は入ることができないはずなのに……?
「あの、私達は魔法が使えないわ。きっと何かの手違いだと思うのだけど……」
猫子が残念そうに言うと、2人は腰に着けていた杖を一振りした。すると、俺達の手の中に小さな玉が一粒現れた。
「まぁまぁ、まずはそれを飲んでから話をしようか」
訝しげな表情を崩さないまま猫子が玉を口に入れたので、俺も玉を口に入れた。
口の中に甘い味が広がり、体中から得体の知れない何かがじわじわと滲み出てくる感じがした。
あまりの気持ち悪さに床にへたり込むと、隣で猫子もしゃがんでいるのが見えた。
「猫子っ!?大丈夫か!?」
朦朧とする意識の中で必死に呼びかけると、猫子は苦しそうにこう叫んだ。
「心配……しないで!これは、毒じゃない……魔力が、あるかどうか、確かめる、薬よ……!」
・・・この世界にはそんなものもあるのか。
きっと俺達を育ててくれた好々爺が教えてくれたのだろう。だんだんと意識が落ちていったーーーー
どのくらいたっただろうか。だんだんと視界がはっきりとしてきた。顔を上げると、必滅山兄弟が驚いた顔で見下ろしている。
「こりゃすごいぜ……こんなに魔力があるとは思わなかったな……」
「俺達が来て正解だったぜ。守則が来てたら腰を抜かして使いモンにならなかった……」
猫子はよろよろと立ち上がると、必滅山兄弟に向かって嬉しそうに言った。
「私、とーっても苦しかったわ!お兄ちゃんはもーっと苦しそうだった!」
・・・苦しくてそんなに笑顔なやつがいるか!?
訳が分からず呆然としている俺の肩をポンと叩いた。
「安心しろ。この薬は魔力が多ければ多いほど、苦しみも大きくなるんだ」
「ほんと驚いた……10分も苦しんでいる兄妹は初めて見たぜ。流石英雄兄妹だ」
・・・10分!?
俺達はかなりの魔力を持っているんじゃないか?
「ねぇ、10分って言われてもどのくらいかよく分からないわ」
「そうだな……カシミールの卒業生は大体2分くらいだから、ざっと5倍?」
かなりどころじゃなかった。とんでもない量の魔力を持っていた。
「私達には魔力があるのよね?カシミールに入学できるのね?」
猫子はぴょんぴょん飛び跳ねながら必滅山兄弟に質問する。
「もちろんだ。猫子ちゃんが入学できないわけがない」
「ただ、猫子ちゃんはまだ12歳だろ?カシミールに入学できるのは13歳からなんだ」
「えーっ!じゃあ私は来年までお預けなの?お兄ちゃんだけずるい!」
猫子が不服そうな顔で突っついてきたが、俺は別のことを考えていた。
・・・俺達は魔力持ちだ。カシミールに入学できる。そうすれば親の仇を取ることができる……!
「……どうした?木太郎が入学したくなければ辞退することだってできるぞ」
何も喋らない俺の顔を心配そうに覗き込みながら虚弥が言った。
「辞退だなんてとんでもない!俺達に推薦状をください!」
顔も名前も知らない両親。それでも俺の中では確固たる意志が芽吹いていた。
俺の言葉を聞いた必滅山兄弟は満足そうに頷くと、杖を一振りして推薦状と何枚かの紙を出した。
「いい意気だ。きっと立派な魔法使いになるに違いない」
「早速荷造りをしよう。俺達も手伝うぜ。入学式は2週間後だ。やることも行くところも沢山あるぜ」
必滅山兄弟、登場です。
やっぱり冷蔵兄妹には魔力がありました。ちなみにO.N.Iのボスも10分くらい苦しんでます。
守則は名前の通り規則大好きマン。はたしてどんな人なのでしょう?
君夫家と必滅山家は親戚です。どっちもこの世界では有名な家。