12年前
「殺されたよ、みんな」
「ころ、された…………?」
猫子はゆっくりと頷くと、天井に刺さったフライパンを「えいっ」と取り、話し始めた。
今から12年前……私が0歳でお兄ちゃんが1歳の時、O.N.Iがカシミール王国の城壁を超えて攻めてきたの。
ここ150年間、ずっとO.N.Iは攻めてこなかったから、私達は油断していたわ。
魔法が使えない者達はすぐに殺されてしまった。王国はカシミール学院の卒業生だけではなく、在校生も戦場へと派遣したわ。基礎的な護衛術しか習っていない文官でさえも。
私達の両親はカシミール学院を首席で卒業した優秀な武官と魔法師だったんですって。もちろん、招集がかかってダンジョンへ行くように命令されたわ。でも、両親の友人達が「冷蔵家には小さな子どもが2人もいるから」と必死に訴えて、両親は王都に留まることを許されたの。
でも、ついにO.N.Iの集団も王都に辿り着いてしまった。王都の城壁の外側にある町はほとんど抵抗する間もなくなくなっていった。王都に住んでいるほとんどの人が魔法を使える者だったけれども、それでも何人もの人が殺されてしまったわ。
そして、私達は運が悪かった。O.N.Iのボスが家に来てしまったの。両親は必死に抵抗して、私達を守ろうとして、それでもボスの手によって殺されてしまった。
ボスは取り残された私達をO.N.Iとして育てるために連れ去ろうとしたわ。でもその時、お兄ちゃんは私を守るように前に立ちはだかって、杖も無いのに魔法陣を展開したの。それも世界で最も強力な防衛の魔法陣を。
魔法陣によって瀕死の状態に陥ったボスは、王国内にいるO.N.Iに退去命令を出したわ。
O.N.Iが去っていった王国はもうお祭り騒ぎで。国中がO.N.Iを倒したお兄ちゃんのことを祝ったわ。
孤児として取り残された私達は、一人の老人によって誰も住んでいないこの最北端の街に連れて行かれ、育てられてきたのよ。
「…………」
記憶はないはずなのに、何故か胸がキリキリと痛む。
「…………じゃぁ、俺たちを育ててくれた人はどこにいるんだ?」
猫子は壁に1枚だけ掛かっている好々爺のような人が写っている写真を指しながら答えた。
「あの写真の人。でも、私が12歳の誕生日を迎えた日に、あの人はどこかへ去ってしまったわ。ついこの前、この置き手紙を残して」
そう言って机の引き出しから一通の手紙を取り出し、俺に渡した。
その手紙には今、猫子が話した内容がびっしりと書かれていた。猫子もつい最近この事実を知ったらしい。
「でも、どうして俺は魔法が使えないんだ?昔は世界一強力な防衛の魔法陣を杖なしで展開できたんだろ?」
この世界の住人で杖を使わずに魔法を使うことができるのはカシミール学院で魔法師として訓練を受けた者と、魔法石がはめ込まれた指輪を持っているものだけだ、と猫子はさっき教えてくれた。それなのに、たったの1歳で杖も使わずに魔法陣を展開できた俺が魔法を使えないはずがない。
俺の疑問に猫子も首を横に振りながら「私にも分からない……そもそも私は昔魔法が使えたかどうかすらも分からないもの」と答えた。
顔も分からない両親のことを、なぜか俺は助けたい、と思った。O.N.Iがどんな敵なのかも分からないのに、俺の頭の中では「両親の仇を取らなければ」と警鐘が鳴り響いている。あの組織にいた時は親の顔すら知らなかったというのに。
でも、どうやって仇を取ればいいんだ?カシミール学院ではO.N.Iを倒すための訓練を受けることができるらしいが、魔法を使うことができない俺たちは入学することはできない。第一、学費が払えるかどうかも分からない。この街には俺たち以外は誰もいない。頼れる大人だっていない。
重い沈黙が流れる。どうすれば両親の仇が取れるか考えよう。そう猫子に言おうとしたその時
バァァァァァンッ!!
という爆発音が、誰もいないはずの外から聞こえた。
爆発音が聞こえました。聞こえたんです。
あ、O.N.Iは普通の人間です。見た目バケモノとかそういうんじゃなくて、悪の人間的な?まぁ詳しいことは話が進むにつれてわかるかと。
O.N.Iの読み方は「おに」です。
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