転生
「……いちゃん、お兄ちゃん」
誰かが俺を揺さぶっている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
俺は孤児だ。妹などいない……。
「起きろーっっっっっ!!!!!!!!」
「いったあ!?」
誰かに頭を鈍器のようなもので殴られた俺は、強制的に起動させられた。
声のした方へ顔を向けると、斧を持った美少女が仁王立ちしている。
・・・ん?斧?
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?」
「ちょっとお兄ちゃんうるさい。そんなに元気ならとっとと起きてよね。まぁお兄ちゃんは昔からあたおかだからね……」
・・・いやあたおかはお前だろ!?斧で人を起こすやつがどこにいる!?
頭が割れてないのを見る限り、俺は斧頭で殴られたらしい。それでも斧で人を起こすなんて、この美少女は頭が狂ってる。
・・・にしても、ここはどこだ?
周りを見渡すと、さっきまでいた地下牢の殺風景ではなく、北欧のログハウスのような景色が広がっている。これも気まぐれな社長令嬢のお遊びか……?
俺は呻きながら起き上がり、いつの間にかキッチンで鼻歌を歌っている美少女に疑問をぶつけた。
「なぁ……お前誰?」
するとその美少女は鼻歌をピタリとやめ、目を見開き、持っていたフライパンを天井に向けて思いっきり吹っ飛ばした。そう、天井に向けて故意に吹っ飛ばした。
「え、ちょ!?」
「お兄ちゃん、ついに真のあたおかになっちゃったの!?」
・・・真のあたおかってナニ!?
「いや、別にそういうわけじゃなくて。その……ちょっと記憶喪失したみたいなんだ」
「なーんだ、記憶喪失ね。ちぇ、つまんないのー」
・・・いやノリ軽すぎだろ!
あまりにもあっさりと信じられてしまった。まぁ、ここについては何も知らないのであながち嘘でもない……はず。
この反応を見るに、どうもここは社長令嬢の家ではないらしい。俺は気を取り直してもう一度聞いた。
「そういう訳で俺記憶ないから、自分が誰なのか、ここはどこなのかとか分かんないんだ。教えてくれる?」
そっから先はこの美少女の説明がとてつもなくオーバーで、さらにことある度に「お兄ちゃんはあたおかだからね」と言いたがり聞くに耐えなかったのでまとめると
・ここはカシミール王国という王国の最北端
・俺は冷蔵木太郎、美少女は冷蔵猫子で俺の妹
・今は秋
・この世界には魔法が存在するが、使える者と使えない者がいる(俺らは使えない)
・魔法を使うには魔力と杖が必要。基本的に杖がないと魔法は使えないが、「魔法師」として訓練を受けた者と、特殊な魔法石がはめ込まれた指輪を持っている者は杖なしでも魔法を使えるが、ごく少数。
・王国は城壁で囲まれていて、城壁の外にはダンジョンが広がっている
・ダンジョンには「O.N.I」と呼ばれる敵がいて、何度も戦争をしてきた
・その「O.N.I」を倒すための育成機関が世界各国にあり、中でもこの王国にある王立カシミール学院は最高峰である
……ということらしい。どうやら俺は異世界に転生してしまったようだ。うん、もう何でもいい。頭を斧で殴られてもうどうでも良くなった。生きてるならそれでいい。
でもなぜだ?あの地下牢が実は異世界への入口?いや、もしかして、あの時社長令嬢が打った注射…………?
そこでふと、俺は説明に引っ掛かりを覚えた。何かが足りない。
「……………なぁ猫子。お前……いや、俺らの両親はどこにいるんだ?」
すると、美少女━━猫子はゾッとするような笑みを浮かべてこう言った。
「殺されたよ、みんな」
いきなり登場した美少女、まさかのサイコ説