プロローグ
俺は孤児だ。いつ、どこで生まれたかなんて知らない。気づいたら闇の組織に拾われて、下っ端として働かされていた。
学校へは行かせてもらえなかったが、俺は下っ端なのである程度の行動の自由はあった。
暇さえあれば俺は図書館へ行った。友達がいなかった俺は公園に行ったって鬼ごっこはできないし、ショッピングモールに行ったって遊ぶお金がない。必然的に図書館しか行くところがなかったが、あの組織から少しでも離れられれば何でも良かった。
図書館はなかなか面白い。館内には沢山の本があったから、俺は貪るように色々な本を読んだ。日本語にとどまらず、分からない言語は辞書を使って片っ端から読んでいく。読んで読んで、とにかく知識を身につけようと思った。組織以外で生きる道のなかった俺は自分の付加価値を高めるのに必死だった。幸い頭の出来は良かったので、一度読めば大体の内容は覚えられた。誰にも邪魔されずに自分の好きな事に没頭できる図書館が、俺は好きだった。
そんなある日のこと、俺は上層部から「大竹製薬の社長令嬢を誘拐せよ」という命令を受けた。大竹製薬は今、日本で一番大きな製薬会社だ。年が近いので怪しまれにくい、という理由で俺が抜擢されたらしい。
俺はその令嬢と接触し、日を重ねるごとに親しくなっていった。
ある日、彼女は「本が好きなのでしょう?良かったら明日、私の屋敷の蔵書室においで」と誘った。上層部から「社長令嬢に言われたことには全て従うように」と命令されていたので、俺は何の疑いもなく屋敷に向かった。そしてーーーー
屋敷の使用人たちによって地下牢に閉じ込められたのだ。
「ここから出して!」
もう何回叫んだか分からない。鉄格子をガタガタと揺らしていると、ドアが開き、カンテラを持ったあの社長令嬢が現れた。
「お願いだ!ここから出してくれないか!?君は蔵書室を見せてくれるって言ったじゃないか……」
しかし、少女はこちらへ歩み寄ってくると、ニコリと笑みを浮かべてこう言った。
「ごめんなさいね。私があなたを捕らえるように命じたの」
「ーーーーはっ?」
理解が追いつかない俺を気にもせず、少女は話を続ける。
「どうやら組織の方で大粛清が行われるみたいで。処分リストにあなたも入っていたから、なんとかして助けようと思ったのだけれど……」
なぜだ。俺は組織にとって有益だったはずだ。物心ついた時から図書館に通い詰めていた俺は、すでに十数ヵ国の言語は操れるようになっている。
待て、この社長令嬢は俺を助けようとした?でもなぜ組織のことを知っでいる…………?
「あらいけない、もう少しで組織のお偉いさんがあなたを連れ戻しにくるわ……あなたはショックで騒ぎ出すかもしれないわね。…………少し眠ってて頂戴」
声を上げる間もなく、少女はどこからか取り出した注射を、俺の腕に打った。
なんの抵抗もできずに俺の意識は落ちていった。
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次話、転生します!