8
次の日の放課後、英麻はみなみ、ニコと共に三人目のタイムアテンダント候補の最終判定を行うべく、中学校のゴミ捨て場近くに待機していた。そこは、英麻たち以外は人っ子一人おらず、びっくりするほどの静けさに満ちている。愛用の自転車に寄りかかったみなみがぐるっと周りを見回した。
「変だな。ゴミ捨て場とはいえ、いつもはもう少し学校の人が通るのに」
「チッチッチッ…それはネ、タイムパトロール平成エリア担当の部隊が前もって人払いパフュームデラックスを散布していったからなんダナ」
そばの木の枝にぶらさがりながら子ブタ型のニコが得意気に答える。
「は?人払いパフューム?また未来の不思議な道具か」
「そうダヨッ。判定のスタートにお邪魔虫がいると困るからネ。人払いパフュームは匂いを嗅いだ人を特定の場所に近づかせないようにする作用を持った香水で、あのメビウスが平安エリアで悪さした時に使った人払い香を元に作ったんダヨ」
「それって敵の道具を再利用したってこと?図々しいな、タイムパトロール」
「そんなことよりもッ。今はこの最終判定に集中すべきよ!じゃ、始めるからね、ニコ」
「OKダヨン」
打倒ハザマの執念に燃える英麻は、スカイジュエルウォッチが入った小箱を両手で勢いよく掲げ、空に放す用意をした。心なしか周りの空気が引きしまった気がした。
箱のふたを開ける直前。はて。英麻は何かが引っかかった。
前回、二人目のタイムアテンダント候補だったみなみの判定に立ち会った時。その立会い作業にものすごく苦労させられたような。
だが、具体的に何をどう苦労したのか、すぐには思い出せない。
ふたが開き、中からスカイジュエルウォッチが飛び出す。
その直後、英麻は思い出した。前回の立ち会い時、スカイジュエルウォッチが猛スピードで上空を移動し、泡食ってそれを必死で追いかけたことを。
英麻の顔が青ざめ、ピキピキ引きつったのと、三つ目のスカイジュエルウォッチが弾丸のごとく空に飛び上がったのはほぼ同時だった。前回同様、スカイジュエルウォッチは恐るべき速さで空中移動を開始する。
あれをこれから追いかけねばならぬのだ。
スカイジュエルウォッチは学校の外まで飛び出していく。
「待って…待って、待って、待ってえええー!」
こうして、前回と同じく英麻の世にも情けない声と共に、タイムアテンダント候補三人目の最終判定はスタートしたのだった。